身体検査
韓国内で軍のイメージは兎に角悪い。
入隊する時は我が息子、怪我したら他人の息子、死んだら他人。
韓国の国内にこんな言葉が流れていたくらいにはイメージが悪かった。
そして、そのイメージを作り出したのは韓国軍の自業自得だった。
韓国軍は軍という閉鎖された集団の特殊性を利用して、何かがあれば事件を隠蔽したりしている。
それは死亡事故も例外はない。
メディアで報道される分の事故は氷山の一角くらいに感じられるくらいには隠蔽がかなり多い。
そして、そんなことを見たり聞いたりしてきた俺としては軍とは恐怖の場所だった。
だから、俺は訓練所二日目の朝を緊張とともに迎えたのである。
先日の不寝番の件で疲れが取れてなかったし、緊張で体調は最悪だった。
「これから地獄のような日々が待っているのか…」
俺は先のことを考えると目の前が真っ暗になるような感覚がした。
朝の点呼を終わらせて、朝ごはんを食べた後でもその鬱屈な気持ちは変わらなかった。
これで地獄が始まるのかと思ったその時だった。
「今日は健康診断をする。隊列を守って俺について来い!」
教官の意外な一言に俺は驚いた。
今日は一日中健康診断をするとのこと。
いや、正確に言うと1週目は健康診断で訓練が出来る人員とそうでは無い人員を区分するとのことだった。
どうやら、韓国軍がイメージ改善のために何もしていないという訳ではないらしい。
少なくとも、父の世代と比べて少しはマシになったと思った。
それからはまたもや無限待機の時間が始まった。
割と本格的な健康診断で、200人が一気にするとなると時間が掛かるのは当たり前なことではある。
しかし、退屈というものは人を狂わせる。
ここが軍ということを忘れた人たちは途中から周りの人間が雑談を開始した。
小さな声ではあったけど、200人近くの人間が一気に喋り出して、それなりの騒ぎになった。
「静かにしろ!」
もちろん、教官がその騒ぎを放置することはなく、俺たちは罰を受けることになった。
罰というのはアヒル歩きだった。
俺は黙々とその指示に従った。
しかし、すぐに異変が発生した。
「足が…痛すぎる…」
俺は数分もしないうちに苦痛でアヒル歩きができなくなっていた。
だからと言って、足を止めるわけにはいかない。
だけど、足が痛すぎる。
俺が変な動作でアヒル歩きを続けていると、俺を見かねた教官が怒声を飛ばしてきた。
「おい!お前何をしている。」
「すみません、足が痛すぎて…」
「うるさい!しっかりしろ!周りはちゃんとしているんだ!」
やはり、教官は俺の都合なんて見てくれなかった。
それからも俺は苦痛に耐えながら、10分くらいアヒル歩きをした。
その後、俺の健康診断の番が回ってきた。
俺は先ほどのことを医者に相談した。
すると、医者の人は俺の足をじっくりと観察した。
「君って、扁平足だね。」
「え?そうなんですか?」
俺は本気で驚いた。
まさか自分にそんな身体的特徴があるとは…
普段歩くだけでも足が疲れると思ったら、そんなことだったのか…
「そう、かなり酷い。これだと身体検査の等級で4等級になると思うけど。どう?退所する?」
軽めの感じの態度だったけど、医者が言うには俺の状態はかなり酷いらしい。
「いえ、大丈夫です。」
俺は医者の誘いを断った。
ここで退所したら、俺が建てた復学の計画が台無しになる。
さらに、今、退所したら次の入隊は3ヶ月も後の話になるとのことだった。
兵役に理解が少ない海外で留学している俺としてはそれだけは避けたかったのである。
「これくらい酷いと兵役じゃなくて、公益も可能そうだけど?」
俺の断り文句にも関わらず、医者はもう一度退所を勧めてきた。
俺の足は割と本当に酷かったらしい。
因みに公益とは兵役が出来ない人のための代替兵役である。
「今更そんなことを言われましても…」
本当にそうとしか言えなかった。
これを19歳の身体検査の時にいわれていたなら、俺も受けていただろう。
しかし、今はいろんな都合が相まって、それは出来ない。
軍の身体検査の適当さを聞いてはいたけど、まさかそれを自分の身で実感することになるとは…
俺は心の中で韓国軍の身体検査を担当している国防部を呪った。
韓国内のイメージとして公益は現役兵よりは絶対的に楽だというイメージがあります。
しかし、公益というのもまたくじ運が悪いと酷いところに飛ばされます。
楽な所だと市役所とか地下鉄とかに配属さますけど、
酷い所だと下水道の公益とかもあるらしく、下水道に直接入って浄化作業をさせられた人もあるみたいです。
俺はそれらを踏まえて、足を犠牲に確実に楽な道を選んだという感じです。




