不寝番
慌ただしい入隊1日目が終了して、点呼の練習をしていたら、いつしか時刻は10時になっていた。
どうやら、軍ではこの時刻が就寝時間とのこと。
大学で自堕落な生活を送っていた俺としては大分早い時刻だったけど、心が疲れていた俺としてはありがたい話だった。
俺がやっと休めると喜んだ。
しかし、その時だった。
「今日から不寝番をしてもらう。」
と、教官からありがたくない言葉を頂いた。
この不寝番というのは夜の間に、交代で部屋の状態をチェックする役目とのこと。
詳細には部屋の温度をチェックしたり、部屋に水を撒いたりするらしい。
「そう言えば、軍だとそんなことをすると聞いたことがあったな…」
俺は古い記憶を掘り返して、そのことを思い出した。
確か軍では夜間勤務と言うものがあって、軍の警備をすると聞いた覚えがある。
「しかし、それを訓練所の中でするとは思わなかった…」
俺としては訓練所から出てから、それを始めると思っていたけど、どうも違っていたみたいだ。
就寝時刻は8時間。
つまり、一日に少なくとも8人が不寝番をすることになるということだ。
俺たちの生活館の人数を考えると半数以上が初日から不寝番をすることになる。
そして、俺もめでたく一日目の不寝番をすることになった。
「ああ、くそ!」
生活館のあちらこちらから不満の声が上がった。
俺も彼らにつられて悪態をつきたい気持ちだったけど、それはやめた。
悪態をついたところで何も変わらないと分かっていたのである。
俺は中間ぐらいの順番だったので、そのまま眠りにつくことにした。
心労のせいなのかは分からないけど、その日は早くも意識をなくした。
「ほら、起きろ、あんたの番だ。」
「ううう」
俺は体を揺らされて目を覚ました。
寝ぼけた頭で時計を見る。
時刻は夜の2時…
「え?2時…?」
俺は時計を見て固まった。
確か俺の時間は深夜の3時だったはず…
ということは…
「どうした?出て来いよ。」
「いや…それが…俺って3時じゃなかった?」
「ああ?何言っているんだ?」
「だから、2時の人は俺の隣の人で…」
そう言って、俺は猪みたいな巨漢のことを指さした。
そこでやっと彼は自分がした過ちに気づいたみたいだった。
一日目だからね。
俺だって、全員の顔を覚えられてないからね。
無理もない話ではある。
「…」
俺たちの間に気まずい空気が走った。
暗くてよく見えなかったけど、彼は慌てているみたいだった。
「す、すまん…」
彼は空気に耐えきれずに、俺に謝ってきた。
ごめんで済む話かとも思ったけど、だからと言って何か出来る訳でもない。
それにこのままこうしていると教官がすっ飛んでくる可能性だってあった。
俺は仕方なくいいよいいよと言って、彼を許した。
因みにその後二度寝を試みたけど、失敗した。
お陰様で俺は2時間も不寝番をすることになった。
訓練所で一番辛かったのはこの不寝番でした。
訓練所を出て家に帰った時にはもう不寝番をしなくていいと歓喜してました。
因みに現役兵の人は軍服に銃まで持った状態で、2年間ずっとこれをやらされることになります。




