チビ
別に隠していた訳ではないけど。
どこからか、俺が今回の訓練で楽をするという噂はあっという間に分隊に広まった。
その証拠に分隊員のほぼ全員が俺を非難するような目で睨んで来た。
今からでも良いから訓練を受けますと言って来いと言わんばかりの視線。
俺はその視線に押しつぶされそうになるような感覚を感じた。
それに圧力は視線だけではなかった。
俺の分隊員はもっと分かりやすい形で俺のことを圧迫してきた。
俺に対する態度も急激に冷めたことが分かるくらい、全員の態度が変わったのである。
何か俺を無視するような雰囲気が出て来ていた。
もちろん、俺としても大変申し訳ないという気持ちには存在していた。
たけど、今更教官にちゃんと行軍を受けますと言うような気持ちにはならなかった。
あくまでも俺の目標は負傷なしで兵役を終えることなのだから。
こんな目線くらいで意思を変えたりはしなかった。
どうせ皆んな明後日くらいには離れ離れになるような人たちだ。
そんな浅ましい関係を守るために自分が怪我するリスクは犯したくなかった。
「そもそも、仲も良くなかったしな。仲良くする気もなかったし。」
俺はそう言って自分を慰めるようにした。
だけど、俺はそれがとんでもない嘘だと分かっていた。
実質嫌ってた、転生者を除けば、そこそこ好感の持てるやつらだったからである。
俺がそうしている所に一人の男が近寄ってきた。
「兄貴、俺も軍装なしです。」
鼻毛だった。
鼻毛も俺と同じように軍装なしで訓練を受けるらしい。
計算高い彼らしい判断だった。
「まあ、俺たちは常勤だからな。こんな訓練をする意味はない。」
「そうですよね。怪我したら損ですもんね。」
俺は自分のことを正当化しようとした。
何とも浅ましい行為だったけど、鼻毛はそんな俺の言葉に軽めに相槌を打ってきた。
これで常勤は一人を除いて全員不参加だけど…
参加するその一人が意外な人だった。
驚くことにチビが軍装ありの訓練に参加するとのことだった。
俺は彼が心配になった。
彼は俺たちの分隊、いや、今期の訓練兵の中でもっとも体が弱そうな人だったのである。
彼の背は160くらいで、体重も60くらいだった。
と言うことは彼は今回の訓練で自分の体重の半分くらいの重さの荷物を持って歩く事になる。
絶対怪我するだろうと思った俺は何とか彼を説得しようとした。
「お前は絶対辞めた方が良いって。お前は常勤だから、これをやらなかったとしても損はない。それに怪我なんかしたら一生それで送ることになるんだからな。」
「そうだよ。他ならまだしも、お前は絶対やめて置いた方が良いって。」
俺たちはチビの説得を試みた。
しかし、チビの意思は堅かった。
「いや、俺はやる。」
そう言ったチビは軍装を纏めながら言った。
決意の籠った彼の目を見て俺は説得を諦めた。
彼は俺たちと違い、他の人に舐められることを耐えられないようだった。
直ぐに消えそうな薄っぺらい関係だと言うのに、チビはそんな関係でも舐められることを嫌っていた。
というより、恐れていた気もする。
チビは体が小さい分、きっとこれまでもこうして生きてきたのだろう。
俺は前回の助教事件の時のことを思い浮かべて納得した。
これは彼の生き方だ。
これ以上、俺が出るような幕ではない。
そう思った俺は彼の説得を辞めた。
行軍直前のことでした。
あの時の空気感は本当に辛かったですね。
まあ、気持ちは理解できますけど。




