射的訓練
訓練所3周目になって、いよいよ銃を撃つ日が訪れてきた。
訓練所の中には何時もよりももっと張り付いた空気が漂っている。
普段は訓練兵側にだけそう言った雰囲気があるけど、この日は助教にもそう言った空気感が感じられた。
そして、その空気感は実際の行動として現れていた。
何と言うか助教たちが普段と違って物凄い優しい。
普段だったら怒鳴り散らしているところだけど、今日だけは何だか落ち着いた感じで説明してくる。
俺はそれを見て少し可笑しくて笑ってしまいそうになった。
そんなことをするくらいなら普段から理性的に行動すれば良いのに。
今日だけ取り繕うとか、朝三暮四の逸話に出てくる猿みたいだなと思ったからである。
だけど、彼らが必死になることも何となく理解は出来た。
それから、俺たちは妙に優しくなった助教たちに導かれて、射的の訓練場に向かうことになった。
射的の訓練場は訓練所の建物から10分以上離れた人気のない山奥に位置していた。
「なるほど、これなら事故も無さそうだな。」
最初こそ普段より歩かされて少しイラッとしていたけど。
訓練場の全景を確認した俺はそんな感想を抱くしかなかった。
実際に韓国では度々軍の射的訓練で事件が起こったりしていたのである。
この訓練所に関してはそう言う心配は無さそうだった。
そこからすぐに銃を撃つことになったかと言えば、それは違った。
その前に準備訓練があるとのことだった。
そして、その訓練というのは…
床の上に寝転んでコンクリートの円柱に描かれた小さな点を照準具と銃口の上の突出した部分が一列になるようにする訓練だった。
点の大きさは100、200、250メートルで分かれていて、本番でも標的がこの点とほぼ同じくらいに見えるとのことだった。
この標的に銃口を当てて、息を我慢して引き金を引く。
その過程を自分の番が来るまで延々とさせられたのである。
時間で言うと大体3時間以上。
地面からの冷たい感触で体が冷え冷えになった頃にやっと俺の番が来た。
いよいよこの時が来たのか…
そう思った俺はポケットから軍の支給品である耳栓を取り出そうとした。
しかし、耳栓は見つからなかった。
馬鹿な俺は耳栓を無くしてしまったのである。
だけど、俺はそれを気にも止めなかった。
どこかゲーム感覚があった俺は耳栓くらい無くても大丈夫だろうと思ったのである。
だが、その選択はまたもや直ぐに後悔に変わった。
射的訓練には自分が銃を撃つ前に、何故か覚えてないけど、他人が銃を撃つことを見る工程が入っていた。
そして、俺がその工程に入った時だった。
「うっ!?」
銃が発射されて、パンという音が発せられたと同時に、俺の耳に暴力的な音が入ってきた。
何というか物理的に鼓膜を殴られたような感覚がした。
銃から10メートルは離れていたのにこれだ。
実際に俺が銃を撃つことになると、これよりも大きい音が俺の耳を襲うだろう。
俺は仕方なく、坊主頭に耳栓を借りた。
銃声って馬鹿でかいです。
思ったより十倍はデカかったですね。




