凍死
宿営の日の昼はそこそこ冷え込んでいたけど、何とか我慢出来るレベルだった。
しかし、夜はそうではなかった。
俺たちがいた新兵訓練所は山の麓を削って建てられていたため、この付近でも高い所に位置していた。
そのせいか、日が暮れてから当たりが極寒地帯に変貌していたのである。
「さ、寒い…氷点上とか絶対嘘だ。」
俺はプルプルと身震いをしながら悪態をついた。
朝にある馬鹿がコートだけでも事足りると言っていたけど、それは何も知らない阿呆の戯言だった。
こんなの我慢できる訳がない。
ただただ立っているだけでも寒いというのに、地面に寝転んで寝る?
「そんなのは絶対無理だ。」
俺はここで自分の過去の選択を後悔した。
これだったら、怒られてでも防寒着を用意するべきだった。
今すぐでも家に帰りたい気持ちになったけど、ここで嘆いていても状況は変わらない。
幾ら後悔しても足りないけど、後悔しても意味がなかった。
俺は仕方なくテントの中に入った。
テントの中は意外にも暖かいとかはなかった。
「くそ、寒いじゃん!」
「そうすっね。」
調理師が俺の言葉に相槌を打った。
この宿営訓練では彼が俺のパートナーだったのである。
「でも、兄貴、カルカルイを着ているとちょっとマシですぜ。これ思ったより暖かい。」
調理師はそう言ってコートのジッパーを限界まで上げた。
実際に彼は俺より寒さを感じてないようだった。
「そ、そうか。」
俺は着てないけどな!という言葉を必死に飲み込んだ。
気持ちとしては今すぐに調理師の服を剥ぎ取って、自分で着たい気持ちだったけど、
そうしなかったのはせめてものプライドが俺を邪魔したからである。
それがなかったら、今すぐに行動していただろう。
「じゃあ、寝るか。」
俺は自身の衝動を抑えるためにそう言った。
「そうっすね。今日も不寝番あるらしいし、早めに寝た方がいいっすね。」
調理師も朝の訓練で疲れていたからなのか、すぐに自身の寝袋に入って眠りに着いた。
その日の夜のこと、俺は長らく眠りに付けずにいた。
それもそうなのが、テントのあちらこちらから、冷たい風が入ってきていたのである。
転生者のうろ覚えで組み立てたテントは全く防寒機能を果たしていなかった。
テントの中には隙間風が吹き荒れていたのである。
「あいつめ、あいつめ、絶対一発殴る。」
俺は口で白い息を吐きながら悪態をついて、心の中で怒りの炎を燃やした。
そうでもしないと凍え死にそうだったのである。
そうしている内に俺はいつしか意識をなくした。
「兄貴、起きて。あんたの番だ。」
次の日の明け方、俺は男の声で起こされた。
声の主は坊主頭だった。
どうやら、俺の不寝番の順番が回ってきたようだった。
テントの中は薄暗くて、まだ寒かった。
俺はすぐに眠気が吹き飛んだ。
何と驚くことに俺は死ななかったのである。
「分かった。今すぐ出ていく。」
俺はそう言って、寝袋から抜け出てきた。
外はまだ薄暗い感じで冷たい風が吹き荒れている。
時刻は5時。
そろそろ日が昇る時間だった。
「…」
俺はぼんやりと立ちすくんでいた。
基本的に不寝番の時間はやることが少ないから何時もこうだった。
それから30分くらいをぼうっと、不寝番を続けていると太陽が昇ってきた。
「何とか…生き残ったな。」
何というか今までの人生でもっとも死に近い夜だった気がする。
太陽の光が俺の体に当たり、体が温かくなることを感じた。
俺はそこで太陽を信仰していた原始人の気持ちを悟った。
寝袋はあったものの、これもまったく防寒機能がなかったです。
確かにテントで寝袋の中に寝ているはずなのに、気持ちとしては服を着たまま地面に寝そべっている感じでした。




