入隊通知書
子供の頃は何となくそう思った。
俺が大人になったら韓国は統一して自分は軍に行かなくても良いはずと。
そう思って俺は軍に入っている人たちのことを笑い物にしていたくらいである。
これは韓国の男あるあるなものだった。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
いつしか俺が軍に入るような年齢になっていた。
俺が大人になるまでの20年という期間で北朝鮮はというと3代目の世継ぎを完了していたのである。
まあ、統一していたとしても理念的な敵国である中国がある限り徴兵事情に変わりはなかったとは思うけど、当時の俺にはそう言ったものに頭を回せるくらいの余裕がなかった。
当時の俺は日本の大学に留学していて、何時ものように大学の校舎を一人で歩いていた。
その俺の携帯が鳴った。
「父から電話とは珍しい。」
携帯を画面を見たところ、電話してきたのは父親だった。
普段はメールだけで、中々電話してこない父だったけど、その日は珍しく直接連絡があったのである。
これは何かの非常事態かもしれないと思った俺はすぐに父の電話に出た。
「もしもし?お父さん?」
「おお、出たか。息子よ、お前宛に入隊通知書が来てた。確認して見たところ、お前、常勤だってな。すぐに韓国に入ってこい。」
「うげっ。」
俺は父の言葉に変な声が出た。
いつに無く強引な感じの父親。
確かにそれは非常事態ではある。
「入隊通知書?マジで?」
俺は現実逃避も兼ねて父に聞き返した。
この現実を認めたくなかったのである。
20代に最低賃金にも満たない金額を貰って働くことになるのは物凄く嫌だった。
それに俺は自分自身を社会不適合者として見ているきらいがあったから、ゴリゴリの集団社会である軍でうまくやっていける自信が全くなかったのである。
それで一回目の入隊通知書も無視したというのに…
「うう、軍か…行きたくないな。ところでお父さんは何で嬉しそうなんだよ。」
俺は父にその雰囲気の真意を確かめた。
俺が覚えている限りは父は国に奉仕しなさいというタイプの人間ではなかったはずだ。
そんなお父さんだからこんなに強引に軍に入れようともしないはず。
何もかも普段とは違う可笑しいお父さんだったのである。
「そりゃ、お前常勤なんだぞ。」
父は何を当たり前なことを聞くんだという態度で答えてきた。
「常勤?それって何?」
「お前常勤を知らないのか?」
父は驚いたような声で言った。
当時の俺は軍に入るのが怖すぎて、軍に関する情報をあえてシャットアウトしていたのである。
だから、常勤について知らないのも無理もない話だった。
父親の反応からするとどうやらこの常勤というのは常識のようなものらしい。
「聞いたことないかな…」
俺は素直に答えた。
その言葉を聞いた父親はお前はどこまで世間知らずなんだと呆れた感じで一つ溜め息を付いて俺に説明を開始した。
「お前親戚のKって知っているだろう?」
「K兄さん?知ってる。K兄さんがどうしたの?」
K兄、俺の母の方の親戚で最近軍に行ってきた人だった。
何もお家の事情で出退勤だったと聞いていたけど…
まさか…
「そのKが常勤だったんだよ。」
「本当に?ということは俺も出退勤ってこと?」
俺は父の言葉に飛び上がるくらい嬉しくなった。
俺が軍を恐れていた理由は集団生活が問題だったからな。
出退勤になると俺が恐れていた要素の大半が解決になる。
「ああ、そうだ。息子よお前は運がいい。」
父はそう言った。
どうやら、俺は運がいいらしい。
これもかれこれ10年前の話になりました。
楽しんでいただければ幸いです。




