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温度差

作者: 黒楓

今日は月曜! 月曜真っ黒シリーズです!!

 学校を卒業して就職したのは『タカキ』と言う雑貨メーカーだった。

 このメーカーはいわゆる『二番煎じメーカー』で他社でヒットしたり話題になった商品を企画開発部門で“分析”し海外の協力工場で生産するやり方で……オレが入社する前は()()()()()()が保有している特許や意匠登録で引っ掛かり、トラブルになった事もあるらしい。

 そんな()()()()だから勿論オリジナルより物は悪く、その販売政策は『安かろう悪かろう』に沿った薄利多売!

 よって先輩セールス達は泥臭い商売に終始していて……それになかなか染まれないオレは事あるごとに叱られた。


 そんなある日の朝、オレはトップセールスである堂島係長に同行させていただく事になった。ところが手元の三色ボールペンの黒のインクが掠れてしまって、急ぎ庶務課へ替え芯を貰いに行った。


 庶務課で物品管理の業務を一手に握っているのが山下主任なのだが……この山下主任がとんでもない難物だった。

 オレが黒インクの替え芯を申請したらエクセルを立ち上げ、物品管理表を読み上げた。


「お前に三色ボールペンを支給したのが4月4日。今日は何日だ?」


「あの、7月17日です」


「そうだな!つまりたった3か月しか経っていない! 3か月でインクが無くなるのはおかしい! 他の社員は少なくとも半年は()()()()()()。いったいどれだけ私用で使っているんだ!!」といきなり怒られた。


 誓って言うがこんな三色ボールペン!私用でなんか使わない!!

 それなのにネチネチネチネチ30分も小言を食らった。


 ようやく解放されて営業部へ戻って来ると堂島係長はおらず、大慌てで下に降りるとエンジンを掛けた営業車の中で腕組みをしていた。


 堂島係長に遅れた事情を話すと「要領の悪いバカ!」と言われたが、それ以上叱責される事は無かった。

 後で聞いた話では、社長の座右の銘である『倹約は義であり、公のためにするものだ!』を旗印に掲げたパワハラを山下主任は行っていると言う事だ。


『それならば』と、私物の書き易いゲルボールペンを使っていると、それも山下主任にチェックされ、いきなり社長室へ呼びされた。


「キミは仕事に私物のボールペンを使っているらしいな!いったいどういう事だ!」


「はい! 私物のゲルボールペンが私にとって書き易く、読み易い字になるからです」


「キミは『蟻の穴から堤も崩れる』と言う諺を知っているか?」


「はい!」


「仕事に一切の私物の使ってはならん! 些細な事でも公私混同は行ってはならんのだ!」


 こう言われてしまい、オレは恐縮して深く頭を下げた。

「大変申し訳ございませんでした。肝に銘じます」


「後で庶務の山下君によく礼を言っておくんだな」


「えっ?!」


「『君が自分の身銭を切って仕事をしている』と心配しておった」


「……分かりました」


 この顛末でも……オレは上司、先輩からバカ呼ばわりされた。



 ◇◇◇◇◇◇


 前期の決算終了後の10月。

 社長は『純利の改善!向上!!』と言うスローガンを掲げ、セールスにはトップダウンで利益率向上のノルマが課せられた。

 それは今までの『薄利多売』ではとても叩き出せるものでは無く……営業部、企画開発部共に()()()を流した。


 暗澹たる年末を迎え……事もあろうに営業部と企画開発部の私的忘年会が同じ日の同じ店と言う最悪のバッティングとなり……その忘年会の席で酒が入ると……非難の応酬となった。

 営業部の言い分は『売れないクソみたいな商品を作りやがって!!』企画開発部の言い分は『安売りと()()()()()()しかできない“言うだけ番長”』

 両者の言い分がぶつかり掴み合いの喧嘩になり掛けた。


 それでも純利計画の72%達成で翌年3月の年度末を迎えたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇


 4月になったが……オレには後輩は出来なかった。

 新人採用が無かったのだ。

 そして入社式の代わりに執り行われたのが表彰式。


 社長の鶴の一声で利益向上に最も貢献した社員を表彰する事になったのだ。


 その受賞者は庶務課の山下主任。


「この1年、お前たちは山下君に食わせて貰った様なもんだな!」

 との社長の言葉に営業部も企画開発部も……“お義理の拍手”の裏で唇を嚙み締めた。


 この話がどこから洩れたのか……

『“タカキ”のセールスは庶務課に食わせて貰っている』と業界中の物笑いの種にされた。

 そして夏のボーナス後に……堂島係長を始めとするトップセールスが次々と会社を去った。


 オレはと言えば……ガタガタになった営業部での“膨大な数字”に押し潰され、悲惨な辞め方をせざるを得なかった。

 そしてオレの人生は……未だに浮上していない。

 片や堂島さんは同業他社で成功を収めたとか……

 この事は“風の噂に聞いた”のだが……『庶務課の山下』の乗った“タカキ”という船がどうなったのかは……知りたくもない!



                               

                           終り


こんな会社には勤めたくないです(-_-;)



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