6月8日「1週間の振り返りですよ」
日曜日の夜。
私、飯塚雨音は自分の部屋でベッドに寝転びながら、スマホを耳に当てていた。
相手は同じクラスの親友――奈々子。
「それでね、昨日も一緒に帰ったの。もう……傘、わざと私が間違っているって思われるくらい毎日一緒に帰ってるんだー」
奈々子の笑い声が受話口から響く。
『雨音、それ、あいつのこと絶対好きでしょ。もう確定案件じゃん。明日クラスでお祭り騒ぎしようか?』
「ち、違うってば!やめてよね。だって、湊くん何にも言わないんだもん。たまにツッコミ入れられるくらいだし。ただ、普通に横にいてくれるだけで……」
でも声はすぐに小さくなる。
「……だけで、私、なんか幸せなんだ」
奈々子は「はいはい、雨音はもう完全に落ちてるね」と茶化しながらも、真剣なトーンで続けた。
『でもさ、それならちゃんと気持ち伝えなきゃ。じゃないと、もし湊くんに他の子が近づいたらどうするの?』
静けさが一瞬だけ部屋を満たす。
私はぎゅっと枕を抱きしめ、かすれる声でつぶやいた。
「……やだ。それだけは絶対に。」
カーテン越しに雨が細かく窓を叩き、夜の匂いを連れてくる。
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同じ夜、湊もまた部屋の椅子に座ってスマホを耳に押し当てていた。
相手は中学からの友人――俊介。
「なあ俊介、俺、最近わけわかんねえんだけど」
『何が?』
「雨音だよ。なんで毎日俺の傘に入ってくるんだ?だいたい最初は“間違えた”って言うんだけどさ……毎日だぞ。わざとにしか見えない。何がしたいんだろ」
俊介は吹き出すように笑ったい、
『お前、それ気づいてないとかやばいわ。バカじゃねえの?普通に考えろって。女の子が毎日同じ男の傘に入るって、どういう意味だと思う?常識を考えろ、常識を。』
「いや……でも雨音だぞ。誰にでも愛想いいし、明るいし。俺なんか特別でもなんでも……」
言いかけた瞬間、俊介の声が鋭く割り込む。
『じゃあなんでお前、嫌じゃないんだよ?お前がどう思ってるのかで変わるんだぞ。』
「……」
返す言葉が見つからなかった。あまりにも正論を言われたので、半分無理やり電話を切って、布団へ飛び込む。
目を瞑ると、雨音の横顔や、笑ったときの声がふっと思い浮かぶ。
気づけば、胸が少しだけざわついていた。
――同じ時間、別々の場所で。
二人の思いは、ゆっくりと近づいていた。




