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シェア傘ラプソディ♪  作者: 宮本葵
6月3週目「生徒会役員選挙」
18/26

6月18日「人前で頑張ってる姿って……いいなって思っちゃうじゃん」

ちょいいつもよりながめ。

今日も晴れ。最近暑くなってはきたが、ここまでとは。昨日は今日の準備があって雨音と帰れなかったし…。

いや待て、なぜ一緒に帰る前提なんだろう?やっぱり俺がわかっていないだけで、俺の本能では俺があいつのことが好きってことなのだろうか?


そんなことはどうでもいい。

また、今日もあの演説を、しかも順番が最後なので、もっと緊張する時間にやらないといけなくなった。


今日は雨音が「遅れるけど、演説までには行けるから待っててね。」って言ってたし、俺一人でどうにかするしかない。まあ、雨音は昨日は応援してくれただけだけどな。


「それでは、次に平田相馬さんお願いします……」


司会の進行によってどんどん進んでいく。もう次が僕だ。

話すことは、ちゃんと考えてきている。みんなの印象に残るような、そんな演説をできるように徹夜で考えてきた。


「……ありがとうございました」


平田の演説が終わり、拍手が湧く。

いよいよ俺の番だ。

手のひらに汗がにじむ。


「では次に、一ノ瀬湊くん。お願いします」


マイクの前に立つ。

――雨音は、まだ来ていない。


昨日よりも人だかりは多い。

期待と好奇心の入り混じった視線が、まっすぐ俺を射抜いてくる。


(大丈夫だ。昨日よりは落ち着いてる……はず)


俺は深呼吸し、言葉を絞り出す。


「昨日もお話ししましたが……俺は、人前で話すのが得意じゃありません。でも、そんな俺でも、この学校の役に立てることがあると信じています。だから得意じゃないことでもやろうと思い、今ここに立っています。」


視線を前に向けると、聞いている生徒たちが、意外そうに、だけど面白そうに俺を見ていた。

少しでも伝わっているのだろうか。


「俺は――“当たり前のことを守れる人間”になりたいです。困っている人がいたら声をかける、ゴミが落ちていたら拾う、挨拶をする。小さなことだけど、そういう積み重ねで、学校の雰囲気は変わると思っています。」


言いながら、自分でも驚いた。

昨日と同じように自然に声が出ている。伝えたいことが、ちゃんと口から出てくる。


「もし役員になれたら、俺はみんなの声をきちんと聞いて、少しずつでも“居心地のいい学校”を作りたいです。」


――そのときだった。


校門の方から、駆け込んでくる人影があった。

肩で息をしている雨音だ。

目が合った瞬間、彼女は満面の笑みで小さくガッツポーズをしてみせた。


(……ちょっと遅かったけど、間に合ったんだな)


不思議と、胸の奥が温かくなった。

その勢いのまま、俺は最後の一言を加えた。


「――そして、そのために、俺は全力で頑張ります!」


言い終わった瞬間、拍手が一斉に広がった。

昨日よりも大きな拍手だ。俺は小さく頭を下げ、マイクを離れる。


人混みを抜けた先で、雨音が待っていた。


「お疲れ!めっちゃよかったよ!ほとんど聞いてなかったけど。」


「最後だけしか見てなくても、感想ありがとうよ。俺、ちゃんとできてた?」


「うん。すごく自然だった。昨日より全然安心して聞けた。最後だけだけどね。」


安心した瞬間、どっと疲れが押し寄せる。


「もう……二度とやりたくねぇ」


「ふふ、でも明日は体育館だよ」


「地獄はまだ続くのか……」


俺は項垂れながらも、なぜか少し誇らしい気持ちで昇降口を後にした。


~~~~~~~~~~~~


教室の隅、窓際の席で購買のパンをかじっていると、俊介が弁当箱をぶら下げてやってきた。


「お前、今日の演説……意外とよかったじゃん」


「“意外と”ってなんだよ」


「いや、俺の中ではてっきり声震えて“あ、あの、その……”で終わる未来図しかなかったんだけど」


「……そこまで信用ないのか、俺」


俊介はにやにやしながら卵焼きをつつく。


「でもさ、本当に印象残ったと思うよ。“当たり前のことを守る”ってさ。


あれ、妙に説得力あった。お前が言うからこそ響いたんじゃね?」


思わず口の中のパンを止めてしまう。


「いや、そんな大したこと言ったつもりは……」


「だからだって。背伸びしてない言葉って案外強いんだよ」


そう言われると、少しだけ胸が熱くなる。


(……意外と、悪くなかったのかもな)


~~~~~~~~~~~~


一方その頃。

中庭のベンチで、雨音と奈々子が並んで弁当を広げていた。


「で、間に合った?」


「うん! 最後ギリギリで飛び込んだの! そしたらね、湊くん、ちゃんと喋ってて……なんか感動しちゃった」


「へぇ〜。あんたがそこまで言うなんて、よっぽど良かったんだね」


奈々子はおにぎりを頬張りながら、雨音をじっと見る。


「……で? 好きなんでしょ、結局」


「ち、ちがっ……!」


「違わないでしょ。顔がにやけてるもん」


雨音は慌ててお茶を飲み込む。


「だって、普段自信なさそうなのに、人前で頑張ってる姿って……いいなって思っちゃうじゃん」


「ふーん。もう完全に沼ってるね」


「……否定できない」


奈々子は呆れたように笑いながら、弁当箱をとじた。


~~~~~~~~~~~~


放課後、俺は生徒会から呼ばれて雑用を手伝わされる羽目になった。

明日の体育館での演説のためだ。

書類を運んだり体育館に机を並べたりして、気づけばすっかり遅い時間。


帰ろうとして、昇降口へ向かうと、そこに雨音が立っていた。


「……なんでいるんだ?」


「待ってたんだよ。ひとりで帰るのも心配だし」


「わざわざ?」


「うん。だって、今日すごく頑張ってたんだから」


その笑顔に、体中の疲れが一瞬でほどけていく。


俺は無言で傘を広げ、彼女に差し出した。


「じゃ、行くか」


「ふふっ、うん」


夜の校門を抜けると、しとしと雨が降り出していた。朝はあんなに晴れていたのに。

傘の下、肩がまた少し触れる。

鼓動の音が、雨に混ざって聞こえなくなればいいのにと願いながら、俺たちは、帰って行った。

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-著者 宮本葵-
茨城県南部出身。中学2年生。最近、何かと運が悪い。やばいと思い、神社へ駆け込み、お祈りをしていたら、たまたま知り合いと会った。小説を書いていて、まあまあ見られていることを話すと、絶対嘘だろと馬鹿にされたので、あとで、スタ連をしておいた。また、どうも最近は小説を書けない。書けなさすぎて、頭が痛くなって、毎日投稿ストップしてました。すみません。

宮本葵の他作品
誰も信用できなくなった俺の前に、明日から転校してくる美少女が現れた。
僕の中学校生活がループしているので抜け出したいと思います。
Silens&Silentia シレンス・シレンティア
最後の7日間 〜吹奏楽コンクール県大会まで〜
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