6月10日「湊くん、気にしなくていいよ。」
あとで書き直す予定です。
朝。いつもの昇降口。
今日は事件の翌日だからか、クラス中がざわついていた。
「昨日の氷の件についてなんだが――」
担任が朝の会でそう切り出すと、教室の空気は一気に騒がしくなる。
「誰がやったの?」とか「マジで氷ってwww」とか、噂好きのやつらが勝手に盛り上がっている。
俺はただ机に突っ伏しながら、
「頼むからこれ以上目立たせないでくれ…」
と念じていた。ラノベが1冊ダメになったことに関してはまじで最悪だしな。
「まあ、詳細は先生たちで調べてるから。とにかく、誰かを傷つけるようなことは絶対にやめろ。いいな?」
担任の言葉で一旦は収まったが、数人、いや数十人の視線が俺に集まっているのを感じた。
(やっぱり俺に結びつけて考えてるやついるよな…。)
HRが終わった後、隣からすっと声がした。雨音が俺の席まできたのだ。
「湊くん、気にしなくていいよ。」
小さな声で、でもはっきりと。雨音が笑ってそう言ってくれた。
その一言で、ざわついていた心が少し落ち着いたのは…気のせいじゃなかった。
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昼休み。
俺は俊介に呼び出され、屋上に来ていた。雨だから外には出られず、濡れた窓越しに屋上を眺めている感じだが。
「でさ、湊さ〜ん。」
俊介がパンをかじりながら言う。
「ふぉまえ、ふぁんふぇんふぃふぇをふへふぁふぇふぇふふぁん。ふぁのふぃんふぇいふぁふぃふぃ(お前、完全に目をつけられてんじゃん。あの親衛隊に。)」
パンを口に入れてもぐもぐしながら喋られては何言ってるのかがわからないが、だいたい言いたいことはわかる。
「知ってるよ。昨日あんなの見せられたら分かるだろ。」
「で、どうするつもり?正直、普通だったら距離置くよな。」
俺は返事に詰まった。
(距離を置けるならそうしたい。でも――)
「でも、お前。…楽しいだろ?あいつと帰ってるとき。」
俊介がニヤッと笑った。図星をつかれた気がして、思わず視線を逸らす。
「うるさい。別にそんなんじゃねーよ。」
「はいはい。まあ俺は応援するけどな。がんばれよ、雨音の湊く〜ん」
「まじ黙れよ」
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一方その頃。
教室の隅で、雨音は親友の奈々子とこそこそ話をしていた。
「ねえ、佐伯。私、たぶん…湊くんのこと好きなんだと思う。」
「へぇ〜〜〜!やっと認めたか!」
「やっとって何よ!」
「だってさ、最近のあんた見てたらバレバレだし。傘の件だって、あんた本気で狙ってるでしょ?」
奈々子の笑顔に押されて、雨音は顔を赤くして机に突っ伏した。
「ち、違…くはないけど……。湊くんのこと……どうしたらいいか……」
「やっぱり、雨音がどうにかしたほうがいいんじゃない?雨音によりついている奴らがやったことだからな。」
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放課後。
雨はまだ止まない。昇降口に行くと、やっぱりそこには雨音が待っていた。
「湊くん!今日も一緒に帰ろ?」
「ああ、まあ……傘もないしな。さすがに買い替えろよな。」
並んで歩き出すと、廊下の奥に数人の視線を感じた。
ちらりと振り向くと、昨日も見た親衛隊らしき連中が、こちらをじっと睨んでいる。
雨音はあえて気づかないふりをして、俺のほうへ体を寄せた。
「……ほら、もうちょっとこっち寄って。濡れるよ。」
彼女の声は柔らかいのに、不思議と力強かった。
俺は何も言わず、ただ傘を少し傾ける。
(雨の日は嫌いなはずなのに。こいつと歩いてると、不思議と悪くないんだよな。)
「ごめんな、雨音。いろいろ俺のせいで面倒なことに巻き込んでしまって。」
俺は謝罪する。俺がいるから雨音の親衛隊が…。
「私が湊くんと一緒にいたいから、いいんだよ。気にしないで。私目当ての親衛隊だし。」
「俺もどうにか対処できるように頑張るから、お前は気にすんな。後ろから色々視線感じるだろうが、これからもよろしく。だな。」
俺が言ったように、背後からはまだ視線が刺さるように追ってきていたけど――
傘の下の空間だけは、雨の音に守られているような気がした。




