記憶を失った少女
彼らが東の地へと旅立ってから幾月が過ぎました。
リュウ、アイリス、ガロンは数々の試練を乗り越え、新たな絆と知識を積み重ねてきました。しかし、彼らの旅路は、記憶を失った少女「セラ」との出会いによって大きく変わることとなります。
氷に覆われた山脈の麓で倒れていたセラは、仲間たちに救われました。
目覚めた彼女は、自分が誰で、なぜここにいるのか分からず、不安と孤独に包まれていました。暖かな言葉をかけられても、仲間たちの優しさに触れても、心の奥底には拭えない空虚感がくすぶっていたのです。
旅を共にするうちに、セラは自らの存在に問いかけ続けました。仲間たちは過去と向き合い、それぞれの信念で歩んでいる。それに比べて、自分は何者なのか。何を信じ、何のために戦うのか。夜空の星を見上げるたび、彼女は心の中で答えを探し続けました。
やがて、彼女の中にかすかな記憶の断片が蘇りはじめます。燃え盛る都市、倒れる人々、冷たい声がささやく――「お前は無力だ。力が欲しいなら、私に従うがいい」
セラはかつて「影の王」の力にすがり、自らの無力さを埋めようとした過去を思い出しました。その代償は大きく、失われた故郷と大切な人々の命が、彼女の心に深い傷を刻んでいたのです。
この罪と後悔は、彼女が無意識のうちに封じ込めてきたものでした。
「私は過ちを犯した。仲間として歩む資格なんてない…」
焚き火の炎を見つめながら、セラは声を震わせました。
しかし、リュウは真っ直ぐな瞳で彼女を見つめました。
「過去は消せない。でも、どう生きるかは今の君が決められる」
アイリスは優しく微笑みながら、彼女の肩に手を置きました。
「私たちは皆、過ちと向き合いながら生きているの。仲間は、互いを支えるためにいるんだから」
仲間たちの言葉に触れ、セラは少しずつ自分自身を許し始めます。過去を否定するのではなく、受け入れることで、彼女は前に進む力を得ていったのです。
影の王との最終決戦では、彼女自身の内なる葛藤が試されました。影の王は囁き続けます。
「お前は変わらない。闇から逃れることはできない」
しかし、セラは仲間たちと過ごした日々、分かち合った笑顔や涙を思い出しました。胸の奥で感じる温かな光が、闇を打ち払う力となったのです。
「私は過去の影じゃない。私自身の意思で、ここに立っている!」
輝く光がセラの中から溢れ、影の王を包む闇を打ち破りました。その瞬間、彼女はようやく本当の意味で自由になったのです。
戦いの後、セラは静かに呟きました。
「私はもう、逃げない。過去も痛みも、すべてが私を形作っている。でも、未来は私の手で創り出せる」
こうして、セラは内なる闇を超え、新たな光を胸に旅を続けるのでした。彼女の物語は、傷つきながらも前に進むすべての人への希望となったのです。