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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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義母と娘-3




 ある部屋の前で、わたしは立ち尽くしていた。


(……やっぱり、やめておこうかなぁ)


 アナスタシアから告げられた衝撃の事実。

 それを聞いてしまった以上、一度きちんとお母様と話さなければならない。そう思って、わたしは部屋の前までやってきたのだが……


(とっても、気が重い。そもそも、最近少しお母様に避けられている気がするし)


 ぐるぐると同じ考えを巡らせながら、わたしはその場を行ったり来たりする。傍から見れば不審者そのものだが、そんなことを気にしている余裕はなかった。


(……ええい、なるようになれ!)


 ここまで来たのだ。あとは勢いに任せるしかない。

 そう決意して扉に手を伸ばした、そのとき──


「母上なら、出かけているぞ」


 背後から、声がした。

 その声に勢いよく振り返れば、そこにはテオドールが立っていた。


「お兄様……!」

「用事があるって、さっき出て行ったよ」

「そう、なのね」


 どうやら、タイミングが悪かったみたい。

 張りつめていた気持ちが一気にほどけ、わたしは肩を落とした。


「何か大事な用でもあったのか?」


 その言葉に、わたしの口から「え」と間抜けな声が漏れた。


「な、なんで、大事な用だって分かったの?」

「すごく深刻そうな顔してるし……それに、何十分も前からずっと部屋の前にいただろ」


 そんなに前から見られていたとは……全然、気づかなかった。というか、それならもっと早く声をかけてくれてもよかったのに。


「……ちょっと、お母様と話したかったの。でも、出かけているなら仕方ないわ。またにする」


 そう言って立ち去ろうとした、そのとき。

 テオドールが、わたしの腕を掴んだ。


「お兄様?」


 突然のことに首を傾げると、なぜかテオドールもわずかに目を見開いた。

 まるで無意識のうちに、わたしの腕を掴んでしまったかのように。


「……どうかしたの?」

「あー、いや……そうだ! ちょっと散歩しないか? アナスタシアと、ゆっくり話したいこともあるしさ」


 テオドールがそんなことを言うなんて、珍しい。

 今までわたしから誘うことはあっても、その逆はほとんどなかったのに。


(……わたしと話したいことって、何?)


 少しの戸惑いと驚きが入り混じる。

 それでも、気づけばわたしは頷いていた。


(だって、推しとのお散歩イベントだもの!)


 さっきまでの重苦しい気持ちが嘘のように、わたしは浮かれた足取りで、庭へと向かったのだった。


「ふふふん」

「随分と機嫌がいいな」

「だって、お兄様とこうして散歩するの久しぶりだもの」


 お気に入りの花たちを眺めながら、並んで歩く。

 いつもと同じ庭なのに、今日はなんだか空気が澄んでいる気がする。

 やっぱり推しの効果って偉大だ。


「それで? わたしに話したいことって、なあに? もしかして、ソフィア様のこと?」

「なっ」


 突然彼女の名前を出されたせいか、テオドールは驚いたように声を漏らした。


「最近、たまに一緒に勉強したり、昼食を食べたりしているんでしょ? 仲良しでなによりだわ」

「な、なんでそのことを?!」

「シュローダー先輩が教えてくれたの」


 たまに図書室でユリウスと話すことがある。

 そのとき、色々と教えてくれるのだが、先日「じれったくて少しうざい」と愚痴をこぼしていた。


 だから、てっきり進展方法でも相談されるのかと思っていたのだが……テオドールは、顔を真っ赤にしながらも、必死に否定をした。

 

「じゃあ、なんの話?」


 そう聞くと、テオドールは言葉を少し詰まらせる。


(そんなに言いにくい話なのだろうか……?)


「最近、母上がアナスタシアのことを避けている気がして……。さっきも、思い詰めた顔で部屋の前にいたし。もしかして、また嫌がらせでもされているんじゃないかって」


 その言葉に、アナスタシアが言っていたことを思い出した。

 彼女に冷たく当たるお母様の様子を見て、テオドールがいつからか不信感を抱くようになったのだ、と。


「違うの! お母様はわたしを避けたりしていないし、嫌がらせもされてない! さっきのも、ちょっと考えごとしていただけなの!」


 必死になってそう告げると、テオドールは驚いたようにわたしを見つめた。


 昨夜見た光景が、どうしても忘れられない。

 たとえ自分が傷ついても、お父様とお兄様を守ろうと、お母様は必死だったのだ。


「お願いだから、お母様のことを嫌ったりしないで……」


 わたしの言葉に、テオドールは一瞬目を丸くしたあと、ふっと笑った。……今のどこに笑う要素があったのだろう。


 推しとはいえ、彼の行動を理解できずに戸惑っていると、優しく頭を撫でられた。


「そりゃあ、アナスタシアに酷いことをしてたら、嫌な気持ちにはなるけどな。でも、母上は大切な家族だから簡単に嫌いになったりしないさ。……だから、そんな泣きそうな顔、しないでくれ」


 その言葉に、思わず肩の力が抜ける。


「……よかった。わたし、お母様とお兄様にはずっと仲良しでいてほしいの。二人は大切な家族だから」


 ──もちろん、お父様もね!と笑えば、テオドールも微笑んだ。


「アナスタシアは、本当に優しい子だな」


 その言葉に、ずきりと胸が痛む。


(……アナスタシア(わたし)は、優しい子なんかじゃない。だって、全部──アナスタシア(わたし)のせいなんだから)


「……お兄様」

「どうした?」

「大好き」


 そう言って、思い切り抱きつく。

 すると、テオドールは驚いたような声を上げながらも、しっかりと受け止めてくれた。

 彼の匂いがふわりとして、心がすっと安らいでいく。


「まったく、アナスタシアは甘えん坊だな」


 揶揄うような声が頭上から降ってきても、わたしは手を離さず、しっかりと抱きしめ続けた。




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