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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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守りたいもの-5


◇◇◇◇


「二人とも、今日はありがとうございました」


 軽くお礼を言って、わたしたちは馬車に乗り込む。そして、二人に見送られながら、馬車はゆっくりと動き出した。


 短い滞在時間にも関わらず、とにかく、今日は色々とありすぎた。一気に疲れが押し寄せてきて、わたしは思わず「ふぅ」とため息をつく。


 まず、わたしを襲った犯人が死んだことも驚きだったが、マルガレーテさんに自分の秘密を話すことになるとは思わなかった。


(でも、あの場では正直に言うしかなかったから……これでよかったよね)


 それに、問題はここからだ。

 わたしにはどうしても確かめないといけないことがある。そのためには、あの恐ろしい悪魔ともう一度話をしなければならない。


(マルガレーテさんの言うことが本当だったら、わたしが殺される心配はないけど……)

 

 そんなことを考えながら、窓の外をぼんやりと眺めていれば、ギシっと椅子が軋む音が聞こえてきた。


(………なに?)


 音の方へと視線を向けると、真向かいに座っていたはずのレインが、ゆっくりと立ち上がっていた。


「ど、どうしたの?」


 動揺を隠さずにそう尋ねると、彼は無言でわたしの隣に座った。急に近づいた距離に、思わずドキリと胸が高鳴る。


「レイン?」


 名前を呼んでも、彼はただじっとわたしを見つめている。いつもと違う様子に戸惑っていると、彼は視線をそっと動かし、ようやく口を開いた。


「アナスタシアさ、戻ってきてから元気ないよね」

「……え?」

「庭園で、何かあったの?」 


 その言葉に、今度はわたしが黙る番だ。

 彼の言うとおり、マルガレーテさんとの話が終わった後から、ずっと気分は沈んでいた。


 それでも、必死に平然を装っていた。それなのに、どうしてレインには分かってしまうのだろう。


 そのことを嬉しく思いながらも、わたしの心は複雑な気持ちでいっぱいだった。だって、レインには言えないから。


「別になんでもないの。ただ、ちょっと疲れただけ」


 そう言って、誤魔化して笑って見せても、彼の視線は痛いぐらいに刺さる。

 

 それに気がつかないフリをして、「そういえば」なんて話を変えようとすれば、彼の手がそっとわたしの手に重なった。


「アナスタシア」


 名前を呼ばれて、思わず息を呑む。


「君が何を隠してるのか、何に怯えているのかは知らないけど、言いたくないなら無理には聞かない」

「……え?」

「だけど、これから先、どんなことがあっても、俺は君のそばにいる。……それだけは覚えておいて」


 そう言うと、彼はふっと微笑んだ。その優しい笑みと言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。


 ゲームの中のレインは、アナスタシアに忠実で、彼女に命じられれば、どんなことでもする。隷属の契約による縛りによって。


 だから、表向きは従順でも、心の中では憎しみを抱えていた。そして、心優しいエミリアと出会うことによって、アナスタシアを裏切り、彼女の元から去ってしまう。


 だけど、今のレインにはそんな素振りはない。いつだって、わたしを優しく守ってくれて、心を砕いてくれているように感じる。


 そのことを嬉しく思う反面、胸の奥では、ずっと苦しさが消えなかった。


 どれだけわたしがラスボス悪女になりたくないと思っていても、わたしの中には恐ろしい存在がいて、いつまで正気でいられるのか、自分でも分からない。


 だから、彼の幸せを考えるなら、わたしは彼から離れるべきだと、ずっとそう思っていた。


 ……なんて、そんなのは建前で。

 本当は、ただ、わたしがレインに裏切られるのが、怖くて耐えられないだけ。


 物語のように、いつか、彼が自分の意志でわたしの元を去ってしまう日が来るのなら──その時を待つくらいなら、その前に、自分から終わらせてしまった方が楽だと、逃げていたんだ。


「……わたし、嘘をついてた」


 そう切り出した声は、思っていたよりも震えていた。重なった手に、ぐっと力が入る。


「あなたの幸せのためとか、そんなふうにきれいな言葉を並べてたけど」


 言葉が喉に詰まる。それでも何とか続きを口にする。


「だけど、本当は全てを知られて──レインに嫌われるのが、あなたがわたしの元から去ってしまうのが、怖かっただけ。……だから、ずっと何も言えなかった」


 これが──弱くて、臆病なわたしの本音だった。


 わたしの言葉が途切れると、馬車の中がしんと静まり返った。勢いで話してしまったが、この後のことを何も考えていなかった。


「何か言ってほしい、です……」


 耐えきれずにそう言うと、彼は困ったように少し眉を下げた。


「ごめん。俺のこと、そんなに好きだなんて信じられなくて……言葉が出なかった」


 信じられない、なんて言っているが、その表情は心底嬉しそうだ。口角が上がるのを隠せていない。


「俺に嫌われるのが怖くて、泣いちゃうぐらいなんだ?」

「なっ……!」


 確かに嫌われるのは怖いとは言ったけど、泣いたなんて、一言も言ってない。勝手に付け加えないでほしい。


 慌てて否定しようとした、その瞬間──馬車が急に激しく揺れる。思わずバランスを崩し、そのまま目の前のレインの胸に倒れ込んでしまった。



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