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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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守りたいもの-4



「私も最初は男の妄言だと思ったさ。悪魔と契約している女を殺せと依頼されただなんて……だけど、君の影から感じるその嫌な気配に納得してしまった」


 真っ直ぐと向けられた視線が鋭く刺さって、嫌な汗が背中に伝っていった。きっと、もう誤魔化せない。先ほどの言葉といい、彼女は確実にわたしのことを疑っている。


「私は君のこと、本当に好ましく思っていたんだ。殿下とだけでなく、私ともこれから先も仲良くしてもらえたら嬉しいなと……本気でそう思っていた。だけど、男の言葉が真実なのであれば、私は君を……」


 その先の言葉を、マルガレーテさんは言わなかった。この国では、悪魔召喚は禁術であり使用することは禁止されている。


 いかなる理由があろうとも、許されることではない。なので、これから先、わたしに待っているのは悲惨な末路だけ。


(……そしたら、リヴィエール家のみんなや、レインにも迷惑かけちゃうな……)


 城の方へと視線を向ける。今ごろ、彼はユリウスと談笑でもしているのだろうか。

 この先の恐ろしい未来なんて、考えたくない。そして、それに彼を巻き込んでしまうことも。


(わたしは、彼を守りたい)


 マルガレーテさんの立場を考えると、他にも確かめる方法は、たくさんあったはず。だけど、こうして二人きりの場で聞いてくれたということは、まだチャンスはあるはずだ。


 そう思って、わたしはゆっくりと口を開いた。


「マルガレーテさんの言うとおり、私の影には悪魔がいます」


 その言葉にマルガレーテさんが、わずかに息を呑んだ。そして、少しだけ身構えた様子の彼女に、わたしは敵意がないことを精一杯アピールする。


「だけど、この悪魔と契約したのはわたしではないんです」

「……どういうことかな?」

「正直に全てをお話しします。……だから、今から話すこと、二人だけの秘密にしてくれるって、約束してくれますか?」


マルガレーテさんは少しだけ迷う素振りを見せる。当たり前だ。悪魔と契約している女の言葉を信じろだなんて、無理な話だと思う。


(それでも、どうかお願い)


 祈るようなわたしの心の声が届いたのか、しっかりと頷いてくれた。


「わかった、君を信じよう」

「……ありがとうございます」


 ゆっくりと頭を下げて、わたしは深呼吸をした。うまく話せるか心配だった。それでも、ここで諦めるわけにはいかない。そう思って、わたしは口を開いた。




 そして、わたしはマルガレーテさんに話した。


 本来のアナスタシアが世界を滅ぼすような恐ろしい存在であることも、わたしが異世界からきたことまで、全部。


 最初は信じられないと言った様子で聞いていた彼女だったが、やがて納得したように何度か頷いた。


「君が目覚める前に「アナスタシア・リヴィエール」が悪魔召喚を行っていた。そのせいで、君は知らない間に悪魔を影に飼ってしまっていたと……」

「ええ、大変不本意ながら」

「なるほど。……だが、経緯はどうあれ、今の君が悪魔と契約しているということは変えられない。そのことはわかっているね?」

「……もちろん、分かっています。なので、わたしはこの力を絶対に使用しません」


 そう、わたしはそう思っている。今までも、この先も、ずっと、それは変わらない。


 だけど……わたしがそう思っていても、いつまでわたしでいられるか分からない。


 アナスタシアが目覚めてしまったら、きっと彼女はこの力を使うだろう。そうなれば、取り返しのつかないことになる。


 ならば、わたしにできるのは一つだけ。


「だけどもし、わたしが、自分の意思でなくてもこの力を使ってしまったら……その時はこの命をもって償います」


 死にたくなんかない。だけど、きっとそれしかない。誰かを傷つけ、世界を破滅へと導くぐらいならば、自分ごと恐ろしい存在を葬るだけだ。


「それが、わたしにできる唯一のことですから」


 だから、悪魔召喚という禁忌を犯したことについては、それで許して欲しい。そう伝えると、マルガレーテさんは顔を顰めた。


「……そんなことをいうものじゃない。君に何かあれば多くの人が悲しむ……もちろん、私もその中の一人だ」


 優しく頭を撫でられて、思わず目頭が熱くなる。


「ありがとうございます……せめて、わたしに悪魔をどうにかできる力があればいいんですけどね」


 本来のアナスタシアが目覚めてしまった時に、悪魔の力が使えないように、あの存在自体をどうにかできればいいのに。


 だけど、対話することすらままない存在を、どうにかする方法なんて思いつかない。やけになって「悪魔を服従させる魔法なんてないですかね」なんて、冗談まじりに聞いてみた。


「そもそも、禁術を使えど人間に手を貸す悪魔なんていない。そのほとんどが契約時点で殺される」

「えっ……そうなんですか?」

「ああ。だから契約を結ぶということは、悪魔は契約者に服従したということ。命令に背くことも、主人を傷つけることすらできないはずだ」


 確かにあの時、あの恐ろしい存在は「自分はアナスタシアのものだ」と言っていた。そして、わたしを殺そうとしていたはずなのに、突然やめた。


(マルガレーテさんの言うことがもし本当なら、アレはわたしを傷つけることはできない。ならば……)


「だからといって、むやみに悪魔と関わるのはお勧めしないよ。できれば、このまま触れずにいた方がいい」


 見透かすようなその言葉に、思わず苦笑いを浮かべると、念押しするように「分かってるよね」と言われてしまった。


「大丈夫です……分かって、ますから」


 悪魔になんて関わらない方がいい。アレの恐ろしさも、話が通じる相手でないことも、前に嫌というほど分からされた。


(だけど、わたしには、どうしても知らないといけないことがある……)


 ぎゅっと握りしめた手に力を込める。その様子に気づいたマルガレーテさんが、わたしの手をそっと握りしめた。


 そして「殿下たちのところへ戻ろうか」という彼女の言葉で、ゆっくりと歩き出した。




 部屋へと戻れば、何故かユリウスは仏頂面で頬杖をついていた。そのふてぶてしい態度に目を丸くしていると、隣でマルガレーテさんがくっくっと笑う。


(えっ? なんで今笑ったの?)


 わたしだけ状況が飲み込めていない。なので、何があったのかと、こっそりレインに問いかけたが「ただ世間話してただけ」と言われてしまった。


(ただの世間話で、あんなに不機嫌になるもの……?)


 いまひとつ納得できなかったが、それ以上話すつもりはない彼の様子に、渋々諦める。……まあいいか、今度、ユリウスに聞いてみよう。




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