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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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守りたいもの-1



 星夜祭から数週間が経ったある日。

 馬車に揺られながらわたしは、ガチガチに緊張をしていた。


「……大丈夫?」

「だ、大丈夫よ……ありがとう」


 そんなわたしに前に座るレインが心配そうに声をかけてくれる。


 ──今日、わたしはマルガレーテさんに星夜祭のことで呼び出されている。


 あの日、わたしを襲った男はマルガレーテさんが拘束した。そして、また何か分かれば連絡すると言われていたのだ。


 ……けれど、色々あって(主にお母様のせいで)すっかり忘れていた。そんな中、先日ようやく届いたのがマルガレーテさんからの手紙だった。


 内容は、犯人について情報があるから話したいというもの。そして──レインも連れてくるように、と。


 なので、言われた通りに、こうして一緒にマルガレーテさんが待つ場所へと向かっているのだが……。


「ねえ、本当に大丈夫? ドブみたいな顔色だけど」

「ドッ……大丈夫よ」


 レインの失礼な言葉を無視をして、窓からの景色をぼんやりと眺める。段々と近づいてくる王城に、わたしの気分は沈んでいく一方だ。


(犯人ついての情報が知れるのは嬉しい。でも、だからって……何も王城に呼び出さなくてもいいじゃないか!)


 もう少し、他に場所はなかったのだろうか。前にユリウスから呼び出された時も思ったが、王城はどこか威圧感があり居心地が悪い。


 なので、できればあまり来たくはなかったのだが、マルガレーテさんの誘いを断れるわけがない。しかもユリウスにまで「絶対にこいよ」と念押しされた。


(ユリウスが今日のことを知ってるってことは、マルガレーテさんは、彼にも話したのね。……ってことは、今日、ユリウスもいるってこと?)


 ちらりと、目の前に座るレインを見る。もし今日の場にユリウスも同席するのであれば、ひとつだけ、彼に言っておかなきゃいけないことがある。


「ねえ、レイン。今日、もしユリウスと会っても失礼な態度を取ったりしちゃダメよ。相手は一応王太子なんだから」


 以前から、レインはユリウスのことになると、機嫌が悪くなる。なので、念のためにそう伝えれば、レインはため息をついた。


「はいはい、分かってるよ」

「……本当に? 睨んだりもしちゃダメだからね」

「しないってば」


 外面のいい彼のことだ。流石に公の場では変なことはせずに、上手くやるとは思う。……だけど、何か不安なんだよなあ。


 そんなわたしの心情を察したのか、レインが分かりやすく顔を顰める。


「そんなに信用ないわけ?」

「そういうわけじゃないけど……」

「何を言われても何をされても、大丈夫だって。眉ひとつ動かずに耐えてみせるよ」


 自信満々にそう言い切るレイン。


「じゃあ、もし……ユリウスがわたしに変なことしたら?」

「ぶっ殺す」


 ……ほら、やっぱりダメじゃないか。


 たしかに彼は何を言われようと何をされようと、耐えられる。だけど、それは自分のことに限ってだ。


(前から過保護だとは思っていたけど、星夜祭以来、さらに増した気がする……わたしのことになると、途端に冷静さが吹き飛ぶんだから)


 困ったものだ。自分のことはどうでもいいと雑に扱うくせに。わたしのことを大切に扱ってくれるのと同じぐらい、自分のことも大切にしてほしい。


「ぜっったいにダメだからね! わたしが何を言われてても、何をされてても、絶対に耐えて!」

「努力はするよ」

「努力じゃなくて、絶対! 分かった?!」


 必死になってそう言うと、レインは肩をすくめて「はいはい」と頷いた。……本当に大丈夫だろうか。


「本当に分かった?」

「分かったってば。……というか、そんなに念を押すってことは、変なことされる予定でもあるわけ?」


 まずい、矛先がこちらに向いてしまった。


「あ、あるわけないでしょ! ただ、その……万が一の話!」

「……ふぅん」


 レインがじとっとした視線をこちらに向けてくる。赤い瞳に見られて、何も後ろめたいことなんてないはずなのに、妙に落ち着かない。


「本当に何もないから!」

「へぇ? 本当に? アナスタシアは、すぐ俺に隠しごとするから信用できないんだけど」


 身を乗り出したレイン。一気に近くなった距離に鼓動が速くなって、思わず視線を逸らしてしまう。


「なっ……何もないってば……!」


 そして、彼の手がゆっくりとこちらに伸びてきた瞬間、馬車がぴたりと止まった。


 どうやら、城の前に着いたようだ。そのことにほっと胸を撫で下ろす。


「……ほ、ほら、行きましょう! マルガレーテさんが待ってる」

「はいはい」


 まだ騒がしい心臓を押さえながら、わたしはゆっくりと馬車を降りた。



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