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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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星夜祭-8


 そして、広場まであと少しというところで、わたしたちは立ち止まった。


「ど、どうしよう……」


 目の前には行き止まりの表示。どうやら、星夜祭のフィナーレに向けて、混雑緩和のために規制をかけたようだ。迂回ルートを探そうにも、時間は迫っている。


「もう、いいんじゃないですか? 諦めましょうよ」

「ダメよ! エミリアが待ってるんだから!」


 すっかりやる気をなくしたレインに喝を入れて、わたしは考える。


「もう一回、さっきの道に戻って……でも、それだと遠回りになっちゃうから……」


 悩んでいる間にも、どんどんと時間がなくなっていく。どうしよう、このままじゃあ……!


「……しょうがないな」


 突然、レインがわたしの腕を掴んだ。


「舌、噛まないでよ」

「え──?」


 言い終わるより早く、ふわりとわたしの身体が宙に浮いた。夜風が頬を撫で、どんどんと街並みが遠ざかっていく。


「と、」

「と?」

「飛んでる〜〜〜っ!!!」


 わたしの腕を掴んでいるレインに、きらきらと目を輝かせながらそう言えば、彼は呆れたように口を開いた。


「ただの浮遊魔法の応用だよ、大したことない」

「いやいや、充分すごいよ!」


 昔、レインから浮遊魔法は教わったことがある。その時は小枝を数センチぐらいしか浮かせることができなかったが、今のわたしは物体を難なく浮かせるぐらいには成長した。


 それでも、わたしにこんなことはできない。やっぱり、彼はすごいんだ。


「ふふ。こんな風に空中を散歩できるなんて、夢みたい」


 興奮で高鳴る心臓を抑えながら、わたしはふと視線を下へと向けてみた。


 ……待って、思ったより高いな?


 立っている感覚のない足元、眼下に広がる暗闇。地上ではあんなに大きかった建物たちが、やけに小さく見える。


 そして、びゅう、と夜風が勢いよく全身を撫でれば、その強すぎる風圧が、わたしの恐怖心を一気に煽った。


(どうしよう、一気に怖くなってきた。だって、よくよく考えたら、命綱とかなにもない。つまり、この手を離されたら終わりってこと……?)


 想像だけで目眩がして、空いている方の手で慌ててレインの肩を叩く。すると、彼は「なに」と不満げな声を漏らした。


「ね、ねえ……やっぱり地上を歩かない? 急に怖くなってきちゃった」

「そんな時間ない。もう少しだから我慢しな」

「お、鬼!!」


 ……こうなったら、頑張って楽しいアトラクションだと思うか。しかし、一度芽生えた恐怖心はなかなか消えてくれない。なので、ぎゅっと目を瞑り、ガタガタと身体を震わせながら耐えていれば。


「そんなに怖いの?」

「怖いよ! 絶対に離さないでね!」

「……しょうがないな」


 そう言うと、レインがわたしの身体を抱き寄せた。突然のことに、思わず目を開ける。


「ちょ、ちょっと、誰かに見られたら……!」

「誰も見てないでしょ、こんな上空」

「そ、れは……そうかもしれないけど……」


 ぐっと近くなった距離、落とさないようしっかりと身体を支える腕。赤い瞳がまっすぐわたしを見つめている。その全てにドキドキして、胸の奥が、きゅっとなった。


 ──なのに、ふと、わたしの脳内にある光景が浮かんだ。


「……ねえ、レイン。その、こういうの、今後はやめにしない?」

「こういうのって?」

「今みたいな……その、わたしたちって、ちょっと距離が近すぎると思うの」


 わたしは、先ほどの二人の姿を思い出していた。


 レインにその気はなくても、こうしてわたしは意識をしてしまう。それに、いくら主人と従者という関係だからとはいえ、エミリアもいい気はしないだろう。


「他意はないって分かってるの。だけど、その、エミリアにも申し訳ないし……」

「は? 何であの女に悪いわけ?」


 訳がわからないと言った表情を浮かべるレイン。その様子に、言わないほうがいいのかもと思ったが、悩んだ末、わたしは素直に聞くことにした。


「えっ、だって……貴方たち、恋人同士でしょ?」


 そう言葉にした瞬間、全身が浮遊感に襲われた。


「えっ、嘘、いやあああああっ!!!」


 気づけば、わたしの身体は重力に従って落下していった。パッと手を離したままでいるレインの姿が遠くの方で見える。


(……この状況で手を離すだなんて、嘘でしょ?!)


 怒りと焦りで脳内は大忙しだが、この状況ではどうすることもできない。


 やがて、もうだめだ──と目を瞑った瞬間、落下がぴたりと止まった。そして、ふわりとまたレインの元へと戻っていく。


(た、助かった……)


 再びわたしの身体を抱きしめた彼の耳元で、うるさいぐらいに叫んだのだった。


「落とすなんてひどい! 最低! レインの馬鹿! 死ぬかと思った!」

「ごめん、ごめん。アナスタシアがあまりにも変なこと言うから、手元が狂った」


 嘘だ、わざとに決まってる。どこが気に障ったのかは分からないが、何も手を離すことないじゃないか。

 ぶつぶつと文句を言いながら、今度は何があっても落とされないように、彼の首にしがみつく。


「……もしかして、エミリアと恋人同士だってこと、わたしに隠すつもりだった?」

「待って。まだ、その妄想話続ける気なの」

「妄想って……」

「何を勘違いしてるか分からないけど、俺とあの女が恋人同士なわけないでしょ」


 ……本当に? 先ほど見た光景が忘れられず、今ひとつ信じることができない。


「………照れ隠し?」

「いますぐ浮遊魔法を解いてもいいんだけど」

「やだやだやだ、ごめんってば!」


 身体がわずかに傾いて、わたしは慌てて謝罪を口にする。いまの体勢だとレインも一緒に落ちることになるが、彼ならやりかねない。



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