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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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星夜祭-5



「そっちが聞いてきたんだろ」

「それはそうですけど……今日の先輩、どうしちゃったんですか? いつもは悪口ばかりいってくるのに、さっきからやけに素直だし……」


 照れるわたしを見て楽しんでいるのかとも考えたけど、今日のユリウスはそんな風には見えなかった。


「最後だからな」

「最後?」

「ああ。想いを伝えるのも、態度に出すのも全部……今日で最後だ」


 その言葉に、わたしは何も言えなかった。

 ユリウスはふっと微笑むと「いい思い出になったよ、ありがとう」と穏やかに告げた。


「……わたし、何もしてないですよ。今日だって、食べ歩きを教えたぐらいで……それに、」


 気持ちにも応えられるわけでもない。お礼を言われる理由なんて、どこにもない。


 だけど、ユリウスは静かに首を横に振った。


「王族に生まれた以上、恋愛ができるとは考えてなかった。そもそも、くだらねぇって思っていたしな。……でも、意外と楽しいものだと知ったよ」


 以前、恋愛に関する本を読んでいたわたしに「くだらない」と言ったユリウスの言葉を覚えている。まさか、その彼がこんな風に言うなんて──。


「これからは、友人としてお前の力になりたい。困ったことがあれば言え」

「助けてくれるんですか?」

「ああ。お前は俺のソウル魔法を知っても、怖がらずいてくれる貴重な人間だからな」


 そう言ったユリウスは、わたしを見ているようで、どこか遠くを見つめているようにも見えた。


 ……ユリウスのソウル魔法。

 魂を武器として具現化するのではなく、彼の瞳に特性が宿る特殊なもの。


 わたしが知っているのは、その特性が相手の身体の自由を奪うということだけだった。


「改めていうと、俺のソウル魔法の特性は洗脳だ。魔法をかけた相手を自由自在に操ることができる。特殊がゆえに、今でこそまだ扱えるようになったが……昔は誤って発動してしまうことも多くてな。……よく気味悪がられたものだ」


 ユリウスが困ったように微笑む。その笑みが、どこか寂しそうに見えて、胸がぎゅっと締め付けられる。

 わたしの表情に気がついたのか、彼は小さく息を吐いて言った。


「そんな顔するな、昔の話だ」

「……先輩は意地悪だけど、気味悪くなんかないですよ」


 わたしの言葉に、ユリウスは一瞬だけ目を見開いた。だが、すぐに「そうかよ」と小さく笑った。


「まあ、俺のことはもういいんだ。……それで? お前はどうなんだ」

「どう、とは?」

「好きな奴がいるのはいいが、婚約となれば家同士の問題もあるだろ? その辺りはちゃんと考えてるのか?」

「……そういうの、まったく考えたことなかったです」

「は?」


 だって、アナスタシア(わたし)は、どのルートでも死ぬラスボス悪女だから。


 前世の記憶を取り戻してから、ラスボスにならないよう、必死に行動はしてきた。

 けれど、その先──未来のことを想像するなんて、考えたことなかった。


 黙り込んだわたしを見て、ユリウスはため息をついた。


「ちゃんと、考えろよ。お前も貴族の娘なんだから」

「そうですよね……」


 貴族間の結婚なんて、政略結婚が当たり前。それは、わかっているけど……


「まあ、相手がどんなやつかは知らないが……お前が好きな奴と上手くいくことを願ってるよ」


 そう言って、ユリウスはふわりと笑った。その表情はとても優しくて、あたたかな眼差しに思わず泣きそうになった。


 ………だめだ、泣くな。

 わたしはスカートの裾を強く握りしめながら、何とか声を振り絞った。


「ありがとうございます、ユリウス殿下」

 

 ………わたしを好きになって。

 そして、その想いを伝えてくれて。


 




「そろそろ、戻るか。さっきの場所まで送ろう」

「いや、大丈夫ですよ。……先輩は、早く公務に戻らないといけませんし」

「問題ない」


 きっぱりとそう言い切ったユリウス。……いや、絶対に問題ある。

 この頑固な男をどうしたものかと考えていれば、その場に、嗅ぎ慣れた花の香りがふわりと漂った


「問題大アリだけどね」

「マルガレーテさん?!」


 いつもの如く、音もなく現れたマルガレーテさんに驚いていれば、ユリウスが「チッ」と軽く舌打ちをする。


「公務をほったらかして、どこで何をしてるかと思えば……まさか、アナスタシアちゃんと一緒だったとはねぇ」


 そう言って、ニヤニヤと笑うマルガレーテさんに嫌な予感がした。慌てて「何もないですよ」と言うが、マルガレーテさんはまるで聞いちゃいない。


 「やるねえ、殿下」と楽しそうだ。


 ……ああ、これ絶対に勘違いされてる。

 こうなったら何を言っても無駄。諦めて、この場をやり過ごすしかない。


「それにしても、よくこの場所が分かりましたね」


 こんな大通りから外れた人気のない路地裏なのに、どうやってわたしたちの姿を見つけたのだろう。


 わたしの問いかけに「それはね」とマルガレーテさんが笑う。


「私のソウル魔法のおかげさ」

「マルガレーテさんのソウル魔法?」

「ああ。一度刻印を付与した対象の元には、自由に行くことができるんだ」


 刻印を付与されるって、どういう状態なんだろう?

 身体のどこかにマークでもあるのかな、と考えていると。


「ちなみに、アナスタシアちゃんにも刻印は付与済みだ」


 どうやら、知らない間にわたしにも付与されていたらしい。……話を聞くかぎり害はなさそうだし、気にすることもないだろう。


「さあ。戻ろう、殿下。流石にこれ以上は私が怒られてしまう」

「分かった、分かった。けど、俺は自分で戻るから、コイツを送ってやってくれ」

「アナスタシアちゃんを?」


 マルガレーテさんの視線がこちらに向けられて、慌てて首を横に振る。王太子を差し置いて自分を送らせるなんて……流石に無理だ。


「わたしのことはお気になさらず! 自分で帰れますので!」


 必死の剣幕でそう伝えれば、ユリウスは渋々といった様子で納得してくれた。その様子に、ほっと胸を撫で下ろし、二人に手を振ってお別れした。




◇◇◇◇



 わたしは賑わう街の中をトボトボと歩いていた。


 あれから、どれくらいの時間が経ったのかは分からない。早く戻らなきゃ、と思うのに足取りは重い。


 だって、絶対にレインに怒られるもの。

 ……ああ、考えただけで恐ろしい。


 それでも、これ以上二人を待たせるのは申し訳ない。そう思って小走りになった瞬間、前方に見慣れた後ろ姿が見えた。


 あれは……レインだ。隣にはエミリアもいる。

 二人は道の端で立ち止まり、何かを話しているようだった。


 何だ、二人ともまだ戻ってなかったのか。──ちょうどよかった。そう思って声をかけようとした、その瞬間。


 わたしの目に映ったのは、レインの手に重ねられたエミリアの手。そして、エミリアは顔を綻ばせながら、レインに話しかけていた。


 レインの顔はこちらからは見えない。だけど、彼の手には、しっかりとあるものが握られていた。


 ……あれって、もしかして。


 ちゃんと確認しなくても分かった。あれは、特別なお守りだ。そして、それをレインが受け取ったということは──。


(そっかぁ……やっぱり、そうだよね……)


 胸の奥がズキリと痛んだ。


 目の前の光景をこれ以上見ていたくなくて、わたしはそのまま逃げるように引き返した。




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