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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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星夜祭-4



 どこへ行くのかと思えば、ユリウスは露店が並ぶ市場へと向かった。そして、しばらく歩いた後、彼がある露店を指差す。


「あれは何を売ってるんだ?」


 ……確か、あそこは串焼きが売っているところだ。


「串焼きですね」

「………串、焼き」

「結構、美味しいですよ」


 たまにこっそりと屋敷を抜け出して、市場に遊びに行くことがある。その時に何度か食べたことあるが、なかなか美味しい。


 なので、「香ばしくて、ジューシーだ」と味の感想を素直に伝えれば、ユリウスが屋台に並ぶ。そして、串焼きを二つ買うと、一つをわたしにくれた。


「ほら」

「あ、ありがとうございます……」


 王太子にご馳走になるなんて恐れ多いが、ちょうど小腹が空いていたので、ありがたく受け取る。


 ……もしかして、強請ってるように思われちゃったかな。だとしたら申し訳ない、と思いながらもそのまま串焼きにかぶりついた。


「………先輩は食べないんですか?」

「このまま食べるのか? 座る場所とか……」

「串焼きの醍醐味は、歩きながら食べることですよ」


 そう伝えると、ユリウスは戸惑いながらも串焼きを一口食べる。すると「……うまい」と感動したような声を漏らしたので、思わず笑ってしまった。


(王太子に食べ歩きを教えるなんて、怒られちゃうかな……)


 しかし、心配をよそに当の本人はどこか楽しそうだ。深く被ったフードのせいではっきりとは分からないが、わずかに見えた口元は緩んでいる。


「……喉が渇いたな」

「あっちに美味しい果物のジュースが売ってますよ」


 そう言って、わたしは果実水が売ってるお店を指差す。


「へぇ。……その隣の店は?」

「あそこは甘味が売ってるお店ですね。その隣は、また別の串焼きを売ってて……」


 ひとつひとつ、露店の説明をするが、ユリウスは何も答えない。下から覗き込むように彼を見つめれば、フードに隠れたサングラス越しの金色の瞳と目が合う。


「えっ、と……?」


 ……もしかして、食い意地がはってるやつだと思われた? それとも、やっぱり令嬢が露店事情に詳しいのってまずいのか……?!


 しかし、次の瞬間、ぐいっと手を引かれる。突然のことに目を丸くしていれば、ユリウスが口を開いた。


「よし、全部食べるぞ!」


 その声は、まるで子供のように無邪気だった。わたしの手を引いて、どんどんと進んでいく。

 転ばぬように必死に彼の後をついていきながらも、わたしは大きな声で叫んだ。


「流石に全部食べるのは無茶ですって〜〜〜!」


 


◇◇◇◇



 人気のない路地裏。

 フードを脱いだユリウスの隣で、わたしは死にそうになっていた。


「……さすがに、食べすぎたな」

「だから! 全部食べるのは無茶だって言ったじゃないですか!」


 怒りを露わにしながらそう言えば、何がおかしいのか、ユリウスは楽しそうに笑う。……いやいや、笑い事じゃない。


「串焼きを五本も買った時は正気を疑いましたよ!」

「食べ比べるのも、醍醐味なんだろ?」


 ニヤリと笑うユリウス。


 あーあ……余計なこと言うんじゃなかった。数十分前の自分を恨みながらも、わたしは手に持っていた水を口に含んだ。


「というか、先輩。何でまた市場で食べ歩きを? 星夜祭に関係ないですよね」

「やったことなかったから、一度やってみたかったんだ」

「……だからって、あんなに買わなくてもいいと思いますけど」

「なかなかこんな機会はないからな、堪能しようと思って」


 ユリウスの立場を考えれば、その気持ちもわかるが、わたしを巻き込むのはやめてほしい。


 胃から込み上げてくる何かを必死に堪えていれば、ふと、横から視線を感じた。何かと思えば、ユリウスが黙ってこちらを見ている。


「………わたしの顔に何かついてますか?」

「いや、面白いなと思って」

「面白い?!」


 人が必死になってるというのに、この男は。

 じっと睨むようにユリウスの顔を見つめていれば、彼は「なんだよ、その顔は」と言って顔を顰めた。


「シュローダー先輩って……わたしのどこが好きなんですか?」


 わたしの言葉に、ユリウスは目を丸くした。


 人の顔は面白いと言うし、揶揄うようなことばかりしてくる。おもしれー女枠だと思うけど、それ以外でどこを好かれているのか全く分からない。


「どこが好きって、」

「やっぱり、面白いところですか?」

「それもあるが……」


 やっぱり、あるんだ。


「実は、街で何度かお前の姿を見たことがあった」

「えっ」

「道で困っている商人を助けたり、街の子供たちと遊んだりしていただろ。……あと、豪快な食べ歩きも」


 まさか、そんな姿を見られていたとは思わなかった。驚きと恥ずかしさから、思わず顔を隠してしまう。


「令嬢らしからぬ行動ばかりだったが、自由なお前の姿に目を奪われた。きっかけは、そんなものだ。あとは、そうだなぁ……ころころと表情が変わるところも見ていて飽きなくて、好きだ。あと、意外と勝気なところと……」


 スラスラと出てくる言葉に、慌てて「もう、大丈夫ですから!」とストップをかける。自分から聞いておいてアレだけど、これ以上は流石に恥ずかしい。




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