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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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星夜祭-3



 その場に気まずい空気が流れた。今更、どう言い訳しても、何をしたって、もう遅い気がする。

 

 多分、テオドールの妹だからとか、自分の正体を知っているからとか、ただただそういった理由だったのだ。


 なのに、なんて恥ずかしい勘違いをしてしまったのだろうか。しかも、それを本人に言うなんて……ああ、穴があったら入りたい。


 しかし、ユリウスの口から発せられたのは予想外の言葉だった。


「今更かよ」

「……えっ」

「だから、今更気づいたのかよ。察しがいいのか悪いのか、よく分からないな」


 ……それって、つまり?

 ゆっくりと細められたサングラス越しの瞳と目が合い、わたしの口からは情けない声が漏れた。

 

「ま、ま、待ってください! その言い方だと、わたしのことが好きってことになっちゃいますけど?!」

「はあ? 何を今更なことを……お前が聞いてきたんだろ」

「それはそうなんですけど、でも……!」


 ──まさか、こうもあっさりと認められると思わないじゃないか。


 突然のことに慌てるわたしをよそに、ユリウスはいつも通りだ。なんなら「面白い顔だな」と悪口まで言ってきた。……この人、わたしのこと好きなんだよね?


「まあ、別にお前とどうこうなりたいとは思ってないけどな。お前には好きな奴がいるし、それに俺は一度、振られてるからな」

「振っ……え? わたし、告白されましたっけ?」

「婚約者になれって言っただろ」


 ………あれ、告白だったんだ。

 全然そんな雰囲気なかったし、何ならわたしをからかっているんだろうなーくらいにしか思ってなかった。


 だけど、もしかしたらわたしが気づいていなかっただけかも。そう思って、あの日のことを思い返してみるが、失礼なことを言われた記憶しか出てこなかった。


 ──うん、やっぱりアレは告白じゃなかったな。


「何だよ、その顔は。文句でもあるのか?」


 じろりと睨まれてしまい、慌てて首を横に振る。


「い、いえ! そういうわけじゃないですけど……」

「仕方ないだろ。誰かに告白なんてしたことなかったし、するつもりもなかったんだから」

「……な、なるほど」


 気まずそうに、それでいてどこか照れたように目を逸らされてしまい、思わずわたしも言葉に詰まる。


 それ以上、ユリウスは何も言わなかった。わたしも何を言っていいか分からず、ただ無言の時間が流れる。何だ、この空気は。やけに落ち着かない。


 ちらりと横目でユリウスを見れば、彼もどこか落ち着きのない様子だった。……ちょっとかわいいかも。


 ユリウスのことは嫌いじゃない。最初は本当に嫌な奴だと思っていたけど、彼の内面を知る内に推し候補になるまでには、好意的な感情を持つようになっていた。


 だけど、これが恋愛感情でないことはわかる。

 

 どうして、ユリウスはわたしのことを好きになってくれたのだろう。いくらアナスタシア(わたし)の容姿が整っているからとはいえ、喧嘩を売ったし、酷い目にもあわされた。


 普通に考えると、好感度が上がる要素がまったく思いつかないが……やっぱり「俺に逆らうとはおもしれー女」って、恋の始まりになるのかな。


 一人で勝手にそう納得していれば、ユリウスが「それで?」と聞いてきた。


「それで……とは?」

「お前の好きな相手って誰なんだ?」

「へっ?!」


 そこを深掘りされるとは思わなかった。予想外の質問に間抜けな声を出せば、ユリウスが「教えろよ」と迫ってくる。


 ──どう考えても、自分のことを好きだと言ってくれている相手とする話じゃないよね? だけど、ユリウスは教えるまで諦めなさそうだ。


 なんて答えるのが正確なのかと頭を悩ませていれば、突如、その場にド派手な音が鳴り響いた。驚きで身体を揺らせば、隣からくっくっ、と笑い声が聞こえてくる。


「ただの合図だよ。光籠を飛ばす前に花火を上げるからな」


 その言葉通り、夜空に次々と花火が打ち上がる。


 おそろく魔法で作られたものだろう。前世で見ていた花火とは少し違っていたが、それでも綺麗なことには変わりなかった。


 なので、つい夢中になって見惚れていれば、ユリウスが「なあ」と声を掛けてきた。何かと思い視線をそちらに向ける。


 少しだけ眉が下がった表情に、どこか寂しさのようなものが滲んでいた。


「いま、この景色を本当は誰と一緒に見たかった?」

「誰と?」


 そう聞かれて、思い浮かぶのはただ一人。気まぐれで、意地悪で、それでもどこまでも優しく、愛しい──わたしの大切な従者。


 つい黙り込んでしまえば、ユリウスが「へぇ」とつまらなさそうに呟いた。


「……よっぽど、その男のことが好きみたいだな」

「えっ?! 別にそういうわけじゃ……」


 慌てて言い訳をするが、ユリウスは「どう考えてもその顔はそうだろ」と呆れたように言った。わたしって本当に分かりやすいんだな。

 

「それにしても、俺が隣にいるというのに……他の男のことを考えられるのは腹が立つな」

「いや、先輩が話を振ったんですよね?!」


 ぶつぶつと文句を言っていれば、ユリウスがどこからかローブを取り出した。急にそれを羽織ったかと思えば、彼はフードを目尻まで深く被る。


 ……何だ? そもそも、サングラスもあるのに更に目元を隠してしまうと、視界が悪くなりすぎない?


 余計な心配をしていると、次の瞬間、ユリウスが急に立ち上がった。何事かと思えば、彼は「行くぞ」と言って、手を差し伸べてくる。……行くって、どこへ?


 首を傾げるわたしを見て、ユリウスは盛大に舌打ちをした。そして、そのままわたしの手を引いて歩き出したので、必死に彼の背中に向かって叫ぶ。


「ちょ、ちょっと……どこへ行く気ですか! わたし、ここに居ないといけないんですけど!」

「大丈夫だ、すぐ戻れば問題ない」


 いやいや、そんな勝手な。だけど、何を言ってもユリウスは止まらない。ずんずんと彼は大通りの方へと向かって行く。


 半ば引きずられるようにして、わたしは彼の後を着いていった。



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