表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/51

星夜祭-2

 

「……うゔっ、きもちわるい」


 大通りから少し離れた場所にあるベンチに座って、わたしは項垂れていた。鏡を見なくてもわかる。今のわたしの顔は、ひどいものだ。


「アナスタシア様、大丈夫でしょうか?」

「……ありがとう、エミリア」


 ハンカチで額の汗を拭ってくれるエミリアにお礼を言いながらも、わたしは情けない声で唸っていた。


 まさかここまで人が多いと思わなかった。

 どこにいっても人、人、人──足を踏まれ、身体を押され、もうめちゃくちゃだった。


 しかし、せっかくのお祭りなのだ。いつまでもこうして介抱してもらっていては、二人に申し訳ない。

 そう思って、「もう大丈夫」と立ちあがろうとした瞬間──遠くの方にテオドールの姿を見つけた。


 そして、その傍には見知らぬ綺麗な女性の姿が。明らかに近い距離と、照れたようにそれでいてどこか幸せそうに笑いながら話している。


 仲睦まじい二人の様子に、一気に血の気が引いていくのがわかった。


「アナスタシア様っ?!」


 そのままふらふらとベンチに倒れ込んだわたしをみて、二人が焦ったように声を上げた。心の底から心配してくれる二人の様子に胸が痛む。


 だけど、無理だった。あの光景は耐えられない。推しの熱愛現場なんて、心身にくるものがある。


 ──まさか、あんなにラブラブだとは。


 エミリアがテオドールのルートに入っていないことも、好意を寄せていないことも分かっていた。だから油断していたのだ。


 ヒロインと結ばれないなら、暫くは誰のものにもならないだろうと。……そんなわけないのにね。


(………悲しいけど、本当に悲しくて辛いけど、推しの幸せは祝福しなくちゃ……)


 幸せになってね、テオドール・リヴィエール。

 優しくて、かっこよくて、大好きなわたしの義兄であり推し。


 人気投票で君が上位になれるよう投票券付きのシュチュエーションボイスCDを大量に買ったのは、いい思い出だよ。


 なんて、感傷にふけっていれば、そんなわたしを現実へと戻すかのように軽く肩を叩かれた。


「アナスタシア様。私、何か飲み物を買ってきますね」

「えっ、でも…この混雑の中、大変よ。わたしも一緒に……」

「大丈夫ですよ。アナスタシア様は、ここでゆっくり休んでいてください」


 そういうと、エミリアは立ち上がる。

 去り際、彼女はちらりとレインの方に視線を向けた。ほんの一瞬だったが、その様子にあることを察したわたしは、慌てて口を開く。


「……エミリアだけだと危ないから、レインもついていってあげて」

「いや。俺はアナスタシア様のそばにいないと」

「いいから。エミリアがこの人混みで迷子になったら大変でしょ? わたしはここで待ってるから!」


 ここなら人も少ないし、見晴らしもいい。だから迷子になる心配もないから大丈夫だと、安心させるかのように笑う。

 しかし、それでもレインはなかなか首を縦に振らない。


「ねえ、レイン。お願いだから」


 そう言えば、渋々といった様子で彼はエミリアの後をついて行った。小さくなっていく二人の背中を見つめながら、わたしはぽつりと呟く。


「これで、エミリアがレインにお守りを渡すタイミングを作れたかな……」


 きっと、さっきのあの視線の意味はそういうことだろう。ただ、きっかけを作ったところで、レインが受け取るかは分からない。基本的に他人に興味のない彼のことだ、断る気がする。


 なんて、自分に都合のいい答えを望んでるだけなんじゃないか──そんな気がして、嫌になる。


 深いため息をつきながら、二人の帰りを待っていれば、その場に誰かの足音が響いた。もう帰ってきたのか?と不思議に思っていれば。


「来ていたのか」

「シュローダー先輩!」


 振り向いた先には、ユリウスが立っていた。しかも、その姿はいつもの学園で見る「ユーリ・シュローダー」としての姿ではなく、王太子としての格好だ。


「テオドールと来てるのか?」

「……いえ、お兄様は知らない綺麗な女性と先約があったので」


 隣に腰掛けてきたユリウスにぶっきらぼうに答えれば、彼は目を丸くした。


「綺麗な女性?」

「ええ。腰まである亜麻色の髪に、琥珀色の瞳を持つ女性でした」

「ああ、ソフィアのことか」


 なるほど、先ほどの女性はソフィアというのか。覚えておこう。


「それで? 兄に振られたから、一人で不貞腐れていたのか?」

「不貞腐れてなんかいません! 今は居ないだけで、わたしの従者と……あと、エミリアと来ているんです」


 エミリアの名前を口にすれば、ユリウスの顔が分かりやすく歪んだ。おそらく人の忠告も聞かないで……とか思っているのだろう。


 でも、仕方ないじゃないか。あんな曖昧な忠告でどうやって気をつけろというのだ。


「……後で後悔しても知らないからな」

「怖いこと言わないでくださいよ。……それより、先輩はどうしてここに? その姿ってことは公務の最中ですよね?」

「ああ。だが、面倒になって途中で抜けてきた」


  いいのか、それは。マルガレーテさんもこの間、仕事を抜け出していたし、この国のお偉いさん方は自由すぎやしないか。


「流石に頃合いを見て戻るけどな。……適当に暇でも潰すかと思っていれば、お前の姿が見えたからな」

「……なるほど?」


 つまり、それってわたしに会いにきたってこと?


 何食わぬ顔で話すユリウスをよそに、わたしの頭の中はある考えで埋め尽くされていた。


 てっきりずっと「この俺に逆らうとはおもしれー女」扱いで、気に入られていると思っていた。

 だけど、これは……もしかすると、もしかするのだろうか。 


「あのー、前からちょっと思ってたんですが……」

「なんだ?」

「もしかして……シュローダー先輩って、わたしのこと好きなんですか?」


 そう口にした瞬間、目の前のユリウスが低く「は?」と声を漏らした。更には、何言ってんだコイツ、と言わんばかりの表情まで向けられてしまう。


 ──どうやら、わたしは選択肢を間違えたらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ