星降る夜に願いを-1
「………星夜祭?」
昼食の時間。エミリアと他愛もない会話を交わしていたとき、彼女がふいにそんな言葉を口にした。
聞き慣れない響きに首を傾げると、目の前のエミリアが説明をしてくれた。
「この国では、五十年に一度だけ、流星群が見られる特別な夜に開かれるお祭りがあるんですよ」
「へぇ……」
「その日は街中も賑わい、願い事を書いた光籠を空に飛ばしたり、大切な人たちと星の刺繍を施したお守りを渡し合うのです」
名前は違うけど、そのお祭り、なんだかすごく覚えがある。もしかして「スターライトフェスティバル」のこと……?
ゲームの中で好感度が上がるイベントのひとつであった「スターライトフェスティバル」。
この世界では、五十年に一度、流星群が夜空を流れる特別な夜がある。
その日、願い事を書いた光籠を空に飛ばせば、星たちがそれを運び、いつか必ず叶えてくれる──そう、言い伝えられている。
そしてもう一つ、この夜に欠かせない風習が「お守りの交換」だ。
家族や友人など、大切な人たちと、星の刺繍を施したお守りを手渡し合い、互いの幸せや健康を願い合う。
さらには、特別な想いを伝えたい相手にだけ──自分の瞳と同じ色の糸で刺繍したお守りを贈ると、その想いがきっと届くと言われている。
……ちなみに。
ゲームの中では好感度が低い状態で、特別仕様のお守りを渡すと、困惑されたり、嫌な顔をされたりと、なかなかに胃が痛い展開が待っている。ロマンも何もあったものじゃない。
「そして、なんと今年がその特別な年なんです!だから、お守りの準備を早めにしておきたくて。よければ、今日の授業のあと、一緒に材料を買いに行ってくれませんか?」
「もちろんよ」
「ふふ、やったぁ!」
わたしがうなずくと、エミリアは嬉しそうに顔を綻ばせた。
──あの日、あの出来事のせいで、もしかしたら彼女との関係が気まずくなるかもしれない。そんなふうに思っていたけれど。
目の前の彼女の態度に、少しだけ、ほっとした。
「五十年に一度だなんて、本当に特別ですよね。……私、参加できるのが嬉しくて、今から楽しみなんです」
目をキラキラと輝かせながらそう話すエミリア。
ゲームをプレイしていた頃、お守りをつくるミニゲームが難しすぎて、何度も心が折れそうになった。
なので、このイベントにも、お守りにも、あまりいい思い出はないのだが……目をキラキラとさせるエミリアを見ていたら、そんな事は言えない。
笑みを浮かべながら「わたしも楽しみよ」と答えていれば、ふいに背後から声がした。
「なんだ、星夜祭の話か?」
聞き慣れた声に顔を上げれば、そこにはテオドールが立っていた。
「お兄様!……あ、シュローダー先輩もこんにちは」
「こ、こんにちは……」
隣に立っていたユリウスにも挨拶をすれば、彼らはわたしたちの隣に腰を下ろした。
そんな様子にエミリアも微笑みながら、挨拶をする。
「こんにちは。お二方も星夜祭に参加されるのですか?」
「ああ、せっかくだからな」
エミリアの問いかけに、テオドールが答える。
二人のやり取りを聞きながら、わたしはあることに気がついた。
よく考えたら、図書室での一件以来、エミリアとユリウスが顔を合わせるのって、これが初めてなんじゃ……?
彼女は既にユリウスの正体を知っている。
それでも、まるで何事もなかったかのように、自然に振る舞っていて、ユリウスもエミリアに対しては、完全に「ユーリ・シュローダー」で接している。
まるであの日の出来事などなかったかのような二人の態度に、ほっとしたような、それでいてどこか引っかかるような気持ちになる。
「アナスタシア様? どうしました?」
「気分でも悪いのか?」
「だ、大丈夫ですか……?」
三人から声をかけられ、思わず瞬きをする。
そんなに表情に出ていたんだろうか、と自分でも驚いてしまう。
「あ……ううん、大丈夫。ちょっと考えごとしてただけ」
慌てて笑顔をつくるけれど、その視線はついエミリアとユリウスの方へと向かってしまう。
このまま何もないといいけど……。
そこからの会話はどこか上の空だった。
◇◇◇◇
休憩時間。
お手洗いを済ませ、教室に戻ろうと歩いてると、突然誰かに腕を引っ張られた。
「うわ──って、シュローダー先輩?!」
何事かと思えば、仏頂面のユリウスが立っていた。
そして、彼は人気のない場所にわたしを連れて行くと、辺りを見回した後、こそこそと小声で話し始めた。
「お前、俺の忠告を聞いてなかったのか?」
「忠告?」
首を傾げたわたしを見て、ユリウスは大きくため息をついた。
「あの女には気をつけろって言ったよな?! どうして、一緒にいるんだ」
「あの女って……」
そういえば、前にそんなこと、言われてた気がする。
でもそのときは名前も聞いていなかったし、誰のことか分からなくて──
「エミリア・セラフィーナのことだよ!」




