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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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星降る夜に願いを-1


「………星夜祭?」


 昼食の時間。エミリアと他愛もない会話を交わしていたとき、彼女がふいにそんな言葉を口にした。


 聞き慣れない響きに首を傾げると、目の前のエミリアが説明をしてくれた。


「この国では、五十年に一度だけ、流星群が見られる特別な夜に開かれるお祭りがあるんですよ」

「へぇ……」

「その日は街中も賑わい、願い事を書いた光籠(ひかりかご)を空に飛ばしたり、大切な人たちと星の刺繍を施したお守りを渡し合うのです」


 名前は違うけど、そのお祭り、なんだかすごく覚えがある。もしかして「スターライトフェスティバル」のこと……?

 

 ゲームの中で好感度が上がるイベントのひとつであった「スターライトフェスティバル」。


 この世界では、五十年に一度、流星群が夜空を流れる特別な夜がある。

 その日、願い事を書いた光籠(ひかりかご)を空に飛ばせば、星たちがそれを運び、いつか必ず叶えてくれる──そう、言い伝えられている。


 そしてもう一つ、この夜に欠かせない風習が「お守りの交換」だ。


 家族や友人など、大切な人たちと、星の刺繍を施したお守りを手渡し合い、互いの幸せや健康を願い合う。


 さらには、特別な想いを伝えたい相手にだけ──自分の瞳と同じ色の糸で刺繍したお守りを贈ると、その想いがきっと届くと言われている。


 ……ちなみに。

 ゲームの中では好感度が低い状態で、特別仕様のお守りを渡すと、困惑されたり、嫌な顔をされたりと、なかなかに胃が痛い展開が待っている。ロマンも何もあったものじゃない。

 

「そして、なんと今年がその特別な年なんです!だから、お守りの準備を早めにしておきたくて。よければ、今日の授業のあと、一緒に材料を買いに行ってくれませんか?」

「もちろんよ」

「ふふ、やったぁ!」


 わたしがうなずくと、エミリアは嬉しそうに顔を綻ばせた。


 ──あの日、あの出来事のせいで、もしかしたら彼女との関係が気まずくなるかもしれない。そんなふうに思っていたけれど。


 目の前の彼女の態度に、少しだけ、ほっとした。


「五十年に一度だなんて、本当に特別ですよね。……私、参加できるのが嬉しくて、今から楽しみなんです」


 目をキラキラと輝かせながらそう話すエミリア。


 ゲームをプレイしていた頃、お守りをつくるミニゲームが難しすぎて、何度も心が折れそうになった。


 なので、このイベントにも、お守りにも、あまりいい思い出はないのだが……目をキラキラとさせるエミリアを見ていたら、そんな事は言えない。


 笑みを浮かべながら「わたしも楽しみよ」と答えていれば、ふいに背後から声がした。


「なんだ、星夜祭の話か?」


 聞き慣れた声に顔を上げれば、そこにはテオドールが立っていた。


「お兄様!……あ、シュローダー先輩もこんにちは」

「こ、こんにちは……」


 隣に立っていたユリウスにも挨拶をすれば、彼らはわたしたちの隣に腰を下ろした。

 そんな様子にエミリアも微笑みながら、挨拶をする。


「こんにちは。お二方も星夜祭に参加されるのですか?」

「ああ、せっかくだからな」


 エミリアの問いかけに、テオドールが答える。

 二人のやり取りを聞きながら、わたしはあることに気がついた。


 よく考えたら、図書室での一件以来、エミリアとユリウスが顔を合わせるのって、これが初めてなんじゃ……?


 彼女は既にユリウスの正体を知っている。

 それでも、まるで何事もなかったかのように、自然に振る舞っていて、ユリウスもエミリアに対しては、完全に「ユーリ・シュローダー」で接している。


 まるであの日の出来事などなかったかのような二人の態度に、ほっとしたような、それでいてどこか引っかかるような気持ちになる。


「アナスタシア様? どうしました?」

「気分でも悪いのか?」

「だ、大丈夫ですか……?」


 三人から声をかけられ、思わず瞬きをする。

 そんなに表情に出ていたんだろうか、と自分でも驚いてしまう。


「あ……ううん、大丈夫。ちょっと考えごとしてただけ」


 慌てて笑顔をつくるけれど、その視線はついエミリアとユリウスの方へと向かってしまう。


 このまま何もないといいけど……。


 そこからの会話はどこか上の空だった。




◇◇◇◇


 休憩時間。

 お手洗いを済ませ、教室に戻ろうと歩いてると、突然誰かに腕を引っ張られた。


「うわ──って、シュローダー先輩?!」


 何事かと思えば、仏頂面のユリウスが立っていた。


 そして、彼は人気のない場所にわたしを連れて行くと、辺りを見回した後、こそこそと小声で話し始めた。


「お前、俺の忠告を聞いてなかったのか?」

「忠告?」


 首を傾げたわたしを見て、ユリウスは大きくため息をついた。


「あの女には気をつけろって言ったよな?! どうして、一緒にいるんだ」

「あの女って……」


 そういえば、前にそんなこと、言われてた気がする。

 でもそのときは名前も聞いていなかったし、誰のことか分からなくて──


「エミリア・セラフィーナのことだよ!」



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