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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第二章

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秘密と嫉妬と-5



「あ、えっと、宮廷魔術師のマルガレーテさんって人なんだけど、」

「何があったら、宮廷魔術師とキスするような状況になるわけ……?」

「………わたしの魔力の性質を調べようとしてくれたみたいで?」


 さすがに魂の話とかは言えないので、大分端折ったがそう伝えれば、目の前から盛大なため息が聞こえてきた。


「魔力の性質を調べるだけなら、キスする必要なんてない」

「えっ?!」

「揶揄われたんだよ、その女に」

「で、でも、マルガレーテさんは……!」


 ただ単純に、魔力の性質を調べようとしてくれたわけじゃない。わたしの影の中にいる存在を調べようとしてくれていたから……そう言いかけて、はっとして言葉を飲み込んだ。


「なに、他に理由でもあるの?」

「う、ううん! 何でもないわ!」


 慌てて首を振れば、空気がしんと静まり返った。

 まずい、これでは逆にそうだと言っているようなものじゃないか。


 気まずい沈黙だけが、間に流れていた。

 やがて、その沈黙を破るように、わたしはゆっくりと口を開いたのだった。


「……ねえ。リボンにかけてくれた魔法って、結局どういう魔法だったの?」

「あれは……簡単に言うと、他者との触れ合いを拒む魔法だよ」

「触れ合いを拒む……?」

「といっても、あくまでここに触れようとする時だけ、だけど」


 そう言って、レインは指先で自身の唇を、そっと指差した。


 ──なるほど。

 だから、あの時。キスしようとした瞬間だけ、わたしたちの前に、透明なバリアが現れたのか。


「でも、どうしてそんな魔法を?」


 わたしの問いにレインは何も答えない。まるで言いたくないと言わんばかりに、俯き視線を逸らした。

 こうなった彼が素直に口を割らないのは、知っている。


 だから、わたしはそのまま話し始めた。

 

「マルガレーテさんとキスするときね、本当はちょっと迷ってたの」


 わたしの言葉に、レインが顔を上げる。


「だから、レインの魔法のお陰で助かっちゃった。ありがとう」

「……別にお礼を言われるようなことじゃない。あれは、ただの、俺のエゴで」

「それでも、わたし、今とっても嬉しいの」


 わたしの言葉に、レインは驚いたように目を見開いて、こちらを見ていた。


「だって、レインがリヴィエール家のことを考えて、行動してくれたってことだもんね?!」

「は?」


 キラキラと目を輝かせるわたしとは対照的に、何故かレインは冷めた表情を浮かべていた。


「貴族の娘であるわたしが、軽々しく誰かとキスなんてしたら、品位に関わるし、家の名誉にも傷がつく。だから……レインは、そうなる前にちゃんと予防策を取ってくれたのよね」


 命を助けたお礼なのか、隷属の契約の縛りなのか。わたしのことを充分すぎるほど気にかけてくれているのは、ちゃんと伝わっていた。


 それと同時に、成り行きでこの家にやってきた彼が、リヴィエール家に特別な想いがないのは、仕方のないことだとも思っていた。


 だから今回のレインの行動を見て、彼が従者として、そして家族として、リヴィエール家に心を開いてくれているんだとわかって──本当に嬉しかった。


 そう素直に伝えれば、レインは何も言わずにただ黙って、わたしの話を聞いていた。


「さっき怒ってたのも、婚約者でもない男の人と変なことしてないかってことよね……たしかに、最近のわたしは淑女としての意識が甘かったのかもしれない。これからは、魔法がなくても大丈夫なように、気を引き締めて行動する。

 だから──はい、仲直りの握手!」


 レインの前に右手差し出せば、彼もにっこりと笑って、わたしの手を握った。


「………やっぱり、」

「なあに?」

「アナスタシアって、馬鹿だよね」


 その言葉と同時に、握る手に痛いぐらい力を込められる。

 突然の痛みで顔を歪めるわたしを見て、レインはどこかすっきりとした表情を浮かべていた。


「いたい、いたい、いたい! ちょっと、離して!」

「無理」

「なんで?!」


 どんどんと力を強めるレイン。わたしは訳も分からず、ただただ痛みに耐える。


「かわいい従者との──家族との戯れだよ、我慢しな」


 そう言ったレインは、意地悪く笑いながらも、どこか少しだけ困ったような表情をしていた。

 その顔を見た瞬間、わたしの胸の奥が、何故だかきゅっと締めつけられた。


「レイン、」

「なに?」

「………ううん、何でもない」


 言いかけた言葉を飲み込んで、わたしは小さく首を振った。


 本当は、レインが従者としてでも……家族としてでもなく、ひとりの人間として、わたしに心を向けてくれているのかも、なんて。


 あまりにもそれは、わたしにとって都合がよすぎるか。



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