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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第二章

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秘密と嫉妬と-3


 屋敷に戻ったわたしは、そのまま自室へと向かった。


 重たい足取りのままソファに腰を下ろし、背もたれに身を預ける。深く沈み込むその感触に、思わず息を吐いた。


「つっかれたぁ〜〜!」


 今日は、本当に色々あった。ありすぎた。


 ユリウスに呼び出されたかと思えば、そのまま王城に連れて行かれてしまい……そこで、待っていたのは、サクル食べ放題という神展開と、マルガレーテさんとの出会い。


「そういえば、レインにリボンのことを聞かなくちゃ……」


 ポケットにしまってあったリボンを取り出す。

 もし、レインがくれたリボンを持って行っていなければ、あのままマルガレーテさんと口付けをしていただろう。


 ──実際、ほっとした。

 マルガレーテさんのことが嫌いとかではない。同性とはいえ、やはり少しだけ、ファーストキスをあの場で済ませてしまうことに、抵抗があったのだ。


 まあ、わたしの影の中に何がいるのか分からないのは、残念だったけど。


「影の中、ねぇ……」


 何だかとても大事なことを忘れているような気がする。だけど、全く思い出せない。まるで記憶の中にモヤがかかってしまったみたいに。


 何だっけ、あのとても恐ろしい存在は──。


「……まあ、いいか」


 ぽつりとそう呟いた。きっと、いつかちゃんと思い出す時が来るだろう。


 それよりも、今はメアリーを呼んでさっさと着替えなくては。いつまでもこの格好では、気が休まらない。


 そう思い、立ちあがろうとした瞬間──突然、視界が暗くなった。


「……えっ?……な、なに?!」

「──今日は楽しかったですか、アナスタシア様」


 慌てふためくわたしの耳元で、地を這うような低い声がした。


「……どう、して」


 心臓がドクドクとうるさい。手のひらにはじんわりと汗が滲んでいる。

 気配などこれっぽっちも感じなかったのに。


「どうして、だなんて。アナスタシア様が一番分かっているでしょう?」

「……れ、れ、レイン……話せば、わ、わかると思うの!」


 目元を覆う彼の手にそっと触れる。引き剥がそうとしても、その腕は微動だにしなかった。

 力が強い。逃げられない。


 ──まずい。これは確実にバレている。


 頭の中で警報が鳴り響く。今すぐ逃げろ、と。しかし、この状況で逃げられるはずがない。


 わたしは観念して、降参のポーズをとった。


「説明を……説明をさせてください!」


 そう叫んだ瞬間、ようやく彼の手が離れる。

 ゆっくりと振り向くと、レインはにっこりと笑っていた。


 ──ああ、その笑顔が何よりも恐ろしい。



◇◇◇◇



「アナスタシアって馬鹿だよね」


 説明を聞いたレインは、盛大なため息をついてから、そう言った。


「……ねえ、レイン。あなた、最近、わたしのことを馬鹿って言いすぎじゃない? そろそろ怒るわよ」

「もう怒ってるじゃん」


 隣から呆れたような視線が刺さって、思わず目を逸らす。まだ怒ってはいない……はず! ちょっと、ムッとはしたけど。


「そもそも、なんで隠すわけ?」

「だっ、だって……王族に呼び出されたなんて言ったら、心配かけると思って……」

「いや、事後報告されるほうが、よっぽど心配なんだけど」


 ──ごもっともだ。

 反論すらできず、わたしはただ黙って俯いた。


「ごめんなさい、次から気をつける……だから、みんな……特にお兄様には内緒にしてほしいなー、なんて……」

「どうしようかな」

「これからは隠さないって誓う! レインの言うこともちゃんと聞く! だからおねがい〜〜!」


 甘えるように距離を詰めれば、冷たい視線を向けられる。それでも、めげずにじっとレインの目を見つめていれば、彼はゆっくりと口を開いた。


「そんなに大好きなお兄様には知られたくない?」


 その言葉にこくりと頷く。


 だって、テオドールはまだユリウスの正体を知らない。いつかユリウスの口から、直接伝えるつもりだとしたら、今は内緒にしておいてあげたい。


「アナスタシアは本当に好きだね、お兄様のことが」

「レインのことも好きよ! 大好き!」


 媚を売るとかではなく、素直な気持ちでそう言ったのだが、何故か盛大な舌打ちが聞こえてきた。



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