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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第二章

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秘密と嫉妬と-2



「おい、そろそろ話は終わったか?」


 その声に顔を上げると、扉の前にはユリウスが立っていた。

 

「シュローダー先輩!」

「何だその情けない顔は……って、マルガレーテはどこへ行った?」

「……どこかへ行っちゃいました」


 わたしの言葉にユリウスは、怪訝そうに顔を顰める。しかし、これ以上はどうにも言えない。


「まあ……あいつも気分屋なところがあるからな。それで?」

「え?」

「俺を追い出してまで聞きたかったことは、ちゃんと聞けたのか」


 皮肉を含んだその問いに、思わず言葉が詰まる。聞けた、と言い切ることはできないが、聞けなかったと言うのも嘘になる。

 

「聞けたような、聞けなかったような……?」

「お前なあ…」


 呆れた表情を浮かべるユリウスに、わたしは「あはは」と乾いた笑みしか返すことができなかった。


 でも仕方がない。マルガレーテさんとキスしようとしてた、なんて口が裂けても言えないのだから。


「それにしても、美人の破壊力ってすごいですよね……あの瞬間は、確実に神スチルでした」

「はあ?」

「何でもないです。……そろそろ、帰りますね」


 そう言って、手元に握っていたリボンをそっとポケットにしまう。屋敷に戻ったら、レインにこのリボンにかけた魔法のことを、ちゃんと聞かなくてはならない。


 ……まあ、その前に無断で外出したことがバレてないといいのだけど。──もしバレていたら、今日は大人しく部屋に引きこもろう。


 そんなことを考えていたときだった。

 歩き出したわたしの手を、ユリウスが掴んだ。


「シュローダー先輩?」


 何事かと思い、ユリウスの方を見上げれば、彼は視線を逸らしたまま、ぽつりと口を開いた。


「……図書室でのこと、悪かった」


 その一言は、とても小さな声だったけれど、わたしの耳にはちゃんと届いた。

 ──あのユリウスが、謝るだなんて。


 あまりにも意外すぎて、一瞬、言葉が何も出てこなかった。けれど、彼の真剣な表情を見ていたら、何か言わなくては、そう思い、わたしはゆっくりと口を開く。


「……あの日は、わたしも失礼なことを言ってしまったので、もう気にしてません。それにいっぱい美味しいものをご馳走にもなったので」


 本当に幸せな時間だった。あんなにサクルを食べられる日など、もう当分の間はこないだろう。

 にこにこと笑みを浮かべて、そう伝えれば、ユリウスの表情が僅かに緩んだ。


「ならいいが。……ほら、とっとと行くぞ」

「……いや、先輩が引き留めたんですけど」


 ずんずんと歩いていくユリウスの後を急いで着いていく。その様子は先ほどまでとは違い、いつものユリウスだ。


 先ほどまでのぎこちなさはどこへやら、今は何だか安心したような、そんな顔をしている。


 もしかして、ずっと謝ろうとしていた……?

 途中、何か言いたげな顔をしていたのも、そわそわしていたのも──全部、謝るタイミングを見計らっていたのかもしれない。


 そう思ったら、少し……ほんの少しだけ、胸があたたかくなった。どうしよう。今、ユリウスのことを「可愛い」なんて思ってしまった。


 ──やばい、推しが増える音がする。


 隣を歩くユリウスにバレないよう、わたしは視線を逸らし、少しだけ赤くなった頬を手で隠すのだった。


◇◇◇◇



「テオドールにくれぐれもよろしく」

「はい! 伝えておきます!」


 和やかなユリウスの態度に、少し気が緩んでしまったのだろう。わたしはつい思ったことを口にしてしまった。


「それにしても、シュローダー先輩って、他人に謝ったりとかできたんですね……!」


 しまった、と口を押さえても、もう遅い。しかし、ユリウスは呆れたように眉をひそめただけで、何も言わなかった。


「………今のは、不敬罪にあたります?」

「そうしたいのか?」

「い、いえいえそんな! とんでもない…!」


 どうやら怒ってはなさそうだ。ほっと胸を撫で下ろしたわたしに、ユリウスはふっと軽く笑った。


「……見ていて飽きないな、お前は」

「お褒めいただき光栄です……?」


 思わず語尾が上がってしまう。褒められているのか、からかわれているのか分からない。


 瞬きをしながらユリウスを見ていれば、ふいに彼は視線を逸らした。


「羨ましいよ、お前の相手が」


 相手……? 言葉の意味がわからず、首を傾げる。


 わたしの反応に気づいたユリウスが、視線を戻した。サングラス越しの黄金の瞳と目が合い、気まずさから、今度はわたしの方が目を逸らしてしまった。


「これから先、お前みたいなやつを一番近くで見ていられる"誰か"のことが羨ましいって意味だよ」

「それって……」

「ああ、そうだ。──あの女にはせいぜい気をつけろよ」


 とってつけたようなその一言と同時に、馬車の扉がバタンと閉められる。


「えっ……?!」


 呆気に取られているうちに、馬車はゆっくりと動き始めていた。どんどんと遠ざかっていくユリウスの姿。


 色々と彼には聞きたいことがある。だけど、それより何よりも。


「あの女って、いったい誰のこと……?」


 こうして、少しの不安と謎を残して、ユリウスとのお茶会は終わったのだった。





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