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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第二章

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本性-1

 

 翌日。わたしは一人、学園の図書室の端っこで頭を悩ませていた。


(当たり前だけど、相手の気持ちがわかる魔法……ってのは、ないのね)


 レインに言われた通り、勉強をしにきたのはいいが、目当ての本は見つけられずにいた。なので、諦めてエミリアに協力するにあたって、必要だろうと思う恋愛に関する本を読むことにした。


 複数の本を手に取り、適当に読み漁っていく。そうして、パラパラとページをめくっていれば、突然誰かに肩を叩かれた。


 突然のことに、恐る恐る後ろを振り向けば、そこに立っていたのはユーリもといユリウスだった。


「こんにちは……アナスタシアさん」

「こ、こんにちは、シュローダー先輩」


 まさかユリウスが声をかけてくるとは思わず、声が裏返る。そんなわたしを気にした様子もなく、彼は「失礼します」と、隣に座った。


 分厚い眼鏡に、わざとらしい猫背。無造作というか、髪の毛はところどころ寝癖で跳ねている。本来の彼の姿とはかけ離れたその容姿に、さすがだと思った。


(そういえば、テオドールが推しになる前は ユリウスのことが気になってたな。後々、俺様な性格と知って推し変したのだけど)


 それにしても分厚い眼鏡だ。いくら変装のためとはいえ、これで本当に前が見えているのだろうか。そんな事を考えながら、ついついじっと彼の顔を見つめてしまっていれば、ユリウスが不思議そうに首を傾げる。


「あの……僕の顔に何かついてますか…?」

「い、いえ! 何でもないです!」


 慌てて首を横に張れば、彼が私の手元にある本を指差した。


「ところで、アナスタシアさん。そんなに熱心に何の本を読んでいたんですか?」

「えっ! えぇっと、それは……」


 本の内容が内容なので、できれば教えたくなかったが、ここで隠す方が怪しいかと思い、わたしは手元にあった本を彼に差し出した。


「異性を虜にする魔法?」

「友人が恋に悩んでまして……その何か力になれないかなと」


 タイトルを読み上げられてしまい、思わず視線を逸らす。エミリアのためとはいえ、こういった類の本を読んでいたことがバレるのは、少し恥ずかしい。どうかテオドールには言わないでくれ。


「へぇ。なるほど」


 パラパラとページをめくり、ユリウスが内容を確かめる。何か惹かれるものでもあったのだろうか?


「ご友人のためとは、優しいんですね」

「いえいえそんな……わたしも彼女の恋がうまくいけばいいなって応援してるので」


 そうやって笑いながら話をする。本来の性格とは異なり、今の彼とは話がしやすいな、なんて考えていれば。


「………くっだらねぇ」


(ん? いま、くだらないと言った?)


 とても小さな声だったが、わたしの耳には、はっきりと聞こえた。くだらない、確かに彼はそう言った。いくら何でもそれは聞き捨てならない。


「いま、くだらないって言いました?」

「いえいえ、そんなまさか。アナスタシアさんの聞き間違いですよ」

「いや確実に言いましたよね! くだらないって!」

「図書室では静かに、ですよ。アナスタシアさん」


 なぜこちらが間違っているかのように、宥められているのだ。彼のその態度にも段々と腹が立ってきて、わたしはつい悪態をついてしまった。


「……嫌われ王子のくせに」

「は?」


 ゲームの中での彼のキャッチコピーである「嫌われ者の孤独な王子」。


 元々、本来のユリウスは傲慢で俺様な性格で、さらに王太子という地位を利用して、好き放題にやる人間だ。なので、本来の彼はあまり好かれてはいない。


 エミリアと出会い改心することによって、王族としての立派な人間になるのだが。今の彼はまだ改心前なので、最悪な性格野郎のままということだ。


 なので、さっきのわたしの言葉は彼のプライドを傷つけるには充分というわけで。


 目の前のユリウスの顔から笑みが消えた。


「……お前、いま、なんて言った」

「わたしは特に何も言ってませんけど……空耳では?」

「嫌われ者って言っただろーが!」

「図書室では静かに、じゃなかったですっけ? というか、先輩。そっちが素なんですね、こわいこわい」


 煽るようにそう言えば、ユリウスの額に青筋が浮かぶ。そうして、子供のように「言った」「言ってない」と言い争いを続けていれば。


 突然、勢いよく頰を掴まれた。何事かと思っていれば、地を這うような低い声がその場に響いた。


「……誰にそんな口を聞いてるのか、分からせてやるよ」

「なっ」


(い、嫌すぎる…!)


 その言い草と無遠慮に触れられたことによって、全身に鳥肌が立つ。しかし、そんなのはお構いなしに、ユリウスは空いている方の手で分厚い眼鏡を乱暴に外した。


 途端に晒される黄金の瞳。その黄金の瞳が妖しく光ったかと思えば、彼はゆっくりと口を開いた。


「……嫌われ者? 二度とそんな舐めた口を俺に聞くな。分かったな」


 何を偉そうに言っているんだ?そう思ったが、次の瞬間。わたしは自分の意思とは裏腹に、首を縦に振っていた。


「はい、仰せのままに」


(何これ……? 勝手に口が動いてる?!)


 困惑するわたしとは反対に、ユリウスは満足気に笑った。


「ふっ、さっきまでの威勢はどこいった。……ついでだ、頭も下げてもらおうか」


 ユリウスのその言葉に反論したいのに、出来ない。それどころか、身体は勝手に頭を下げる。自分の身体なのに、わたしの思い通りに動かせない。


 頭を上げ、目の前の彼を睨めば、くすくすと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「反抗的な態度だな。そうだ、もう二度とそんな態度を取れないようにしとくか」

「……なに、いって…」

「跪いて靴を舐めろ」


(馬鹿じゃないのかこの男は! 誰か靴なんて舐めるものか!)


 心の中ではそう思うのに、わたしの身体はまるで言うことを聞かない。そして、彼の前に跪くと、そっと彼が履いている靴へと顔を近づけていく。


(やだやだやだ……! 誰か……!)


 人目を忍んで、端っこの方に座ったのが、間違いだった。この場にはわたしとユリウスしかいない。


 心の中で必死に助けを求めるが、どんどんと顔は靴へと近づいていく。もう諦めるしかない、そう思っていれば、その場にやけに透き通った声が響いた。


「アナスタシア様に何をさせているのですか?」



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