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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第二章

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シナリオには逆らえない-1

 


 あの後。テオドールとユリウスに案内してもらい、わたしは無事に講堂へと辿り着いた。これからこの場所で学園長の挨拶やら説明等が行われるらしい。


 中へ入ると、バラバラと数十人の生徒が居た。


(ええっと…座席は自由なのね)


 なるべくフランクに魔法を学び高め合ってほしい、というのがこの学園のモットーだ。なので、こういう場でも座席は決まっておらず、誰がどこに座ってもいいみたいだ。


 適当に空いている座席に腰掛けて、辺りを見渡す。元々顔見知りだったり、初対面だったり、様々だろうが。皆、和やかな雰囲気で会話している。


 クロイツ学園では、学園生活の中で生徒間での身分差による処罰はない。なので、貴族社会のルール等を気にすることなく、誰とでも仲良くなれるはずなのだが。


(なぜか誰も隣に来ないのよねぇ……)


 それどころか遠目に何かを噂されている気もする。試しに目が合った女生徒に微笑んでみたが、何故かすぐに顔を逸らされてしまった。


 もしかして、何かやらかした? しかし、思い当たることはない。となると入学早々、上級生といたのがまずかったか? いやでも、テオドールは家族だから問題ないはず。


 ぐるぐるとそんな事を考えるが、答えはでないので諦めて窓の外をぼんやりと眺める。今日も空が綺麗だな、なんて考えていれば、隣から聞き覚えのある声がした。


「あ、あの…お隣よろしいですか?」


 ソプラノの可愛らしい声に小柄で華奢な体型。肩まである栗色の髪と大きくて丸い桃色の瞳。そして何より正統派ヒロインと言わんばかりの可愛らしい顔立ち。


「え、」


(まさか、この少女は)


 そこに立っていたのはこの世界のヒロインであるエミリアだった。突然の事で、何も言えずじっと彼女を見つめていれば、エミリアが不安そうな顔をする。


「……やっぱり、駄目でしたか?」

「あ、そうじゃないの! 大丈夫だからどうぞ!」


 しどろもどろになりながらも、そう伝えると、エミリアは「ふふっ、よかったです」なんて可愛らしい笑みを浮かべた。やばい、わたしまで攻略されてしまいそうだ。


「実は誰も座ってくれないから不安だったの」

「ふふっ、それはきっとアナスタシア様がお綺麗だから、みんな緊張していたのですよ」


 綺麗だなんてそんな。お世辞だとしても嬉しいものだ。にやけそうになる顔を必死に抑える。


(やっぱりヒロインは中身も素敵だなぁ…ゲームをプレイしている時も、エミリアの頑張り屋でひたむきなところが好きだったし…って、待って、いま名前呼ばれた?)


「……わたし、自己紹介したっけ」

「ああ、実は門のところで上級生の方と話してるのをたまたま聞いてて…」


 ああ、なるほど。門のところはみんな通るから、目立っていたのか。変なことしなくてよかった。


「改めまして、アナスタシア・リヴィエールよ。よろしくね。えぇっと、あなたは…」


 もちろん知っているが、そんな事は言えないので、知らないふりをして名前を尋ねればエミリアも自己紹介をしてくれた。


「よろしくね、エミリア」

「はい!」


 眩しいぐらいの笑顔に胸がきゅんとした。もしわたしが攻略対象キャラだとしたら、簡単に好感度がカンストしていたことだろう。よかった、ラスボスで。


 ついでに敬語や呼び名など、かしこまらなくてほしいと伝えたのだが、癖なので、と返されてしまった。


(ゲームの中では敬語じゃなかった気もするけど……まあ、もう少し仲良くなればきっと話し方も変わるよね)


 そのタイミングで、ちょうど鐘が鳴った。少しの違和感を残しつつも、わたしは学園長の話に集中することにした。





 一通りの説明が終わると、どうやら今日は初日ということもあり、これで解散らしい。それを合図に、ばらばらと講堂から人が出ていくなか、エミリアが声をかけてきた。


「アナスタシア様、よければこの後ご一緒にお茶でもいかがですか?」


 とても魅力的な誘いに心が揺らぐ。しかし、朝、強引にレインを置いて行ってしまった上に、このまま帰りも遅くなってしまったら……?


 確実に嫌味だけで済まない。スパルタ特訓が更にハードモードになるだろう。それだけは避けたいので、ここは早急に帰って彼の機嫌を取らないといけない。


「ごめんなさい、今日は予定があって……」

「そう、なのですね。残念です」


 悲しそうな表情を浮かべるエミリアに胸が痛くなるが、わたしも命は大切にしたい。また今度、と約束をして、そのまま別れた。




 テオドールとは時間が合わないため、一人で帰るのだが、あらかじめ、迎えはレインではなくメアリーに頼んでおいた。


 メアリーには、レインにバレないように来てほしいという無理難題を押し付けてしまったが、仕事ができる彼女のことだ。きっと上手くやってくれるだろう。


 そう思い、軽やかな足取りで門へと向かえば、そこにはメアリーではなく、レインが立っていた。


「何でレインがここにいるの?!」

「着いてくるな、とは言われましたが、迎えにくるなとは言われてないので」


 確かに迎えにくるなとは言っていない。言ってないけど……! 不満を訴えるため、じっとレインを睨むがまるで効果はない。それどころか早く帰るぞと、言わんばかりの態度だ。


「明日からは迎えにも来なくていいから! 迎えに来たら絶交だからね!」

「はいはい」


 軽く受け流すレインの態度に、わたしは思わずムッとした表情を浮かべた。この様子だと、明日もどうせ迎えにくるのだろう。なんなら朝から着いてくるかもしれない。


「本当に、本当に、絶交だからね?」

「はいはい」


 念押しをするが、まるで聞いちゃいない。


 まあいい。とにかく今はエミリアと鉢合わせる前にさっさと帰ろう。レインの手を取り、馬車へと乗り込もうとしていれば。


「アナスタシア様!」


 エミリアがわたしの名前を叫ぶ声がした。息を切らしながら、階段を駆け降りるその姿を見て、ふとある事を思い出す。


 あれ、これってもしかしてゲームで見たエミリアとレインの出会いのシーンなのでは?


 このままでは、エミリアは階段から落ちて、それをレインが助けるというイベントが発生してしまう。脳裏にぼんやりとそのときの場面(スチル)が浮かぶ。


 あの体勢からお姫様抱っこで受け止めるってすごいよな、って今はそれどころではない。


 なんて考えている間に、ゲームと同じようにエミリアが足を滑らせる。


「エミリア!」


 まずい。このままでは、シナリオ通りに二人のイベントが発生してしまう。とにかくそれだけは回避しなければ。


 そう思ったわたしは、気づいたら走り出していた。そうして、無我夢中でエミリアの元へと駆け寄ったわたしは、そのまま。


「───ぐっ?!」


 彼女の下敷きになってしまったのだった。




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