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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第一章

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悪女の告白-4

 


 その質問にわたしは簡単に説明をした。アナスタシアがリヴィエール家の養子であること。そのせいでお母様によく思われていなくて、将来的にこの家での立場も危うくなるかもしれないこと。


「だからもしもの時のために、わたしを守ってくれる人が欲しかったの」


 これは嘘ではない。奴隷を買う予定はなかったが、何かがあったときに守ってくれる誰かがいてほしいとは思っていた。


 まあ、それがレインになってしまったことにより、わたしの死亡確率は上がってしまったのだけど。


「なるほど」


 レインは納得したかのように頷いた後、和かな笑顔でとんでもないことを言い出した。


「つまり俺は奥様を始末したらいいのですね」

「わたしの話聞いてた?!」


 いまの話をどう解釈したらそんな物騒なことになるのか。思わず開いた口が塞がらない。


「てっきり守って欲しいってそういう話かと……」

「全然違うよ! わたしはお母様と仲良くなりたいって思ってるの!」


 そりゃサクルを捨てられた時や今回のことでもクソババアって思ったりはするけど、別に酷い目に合わせようなどは思ったりしない。


 今後のため(主にわたしの生死に関わるので)良好な関係を築いていきたいと心から思っている。


「仲良く? それなら、精神操作の魔法でもかけましょうか? 簡単に奥様と仲良くなれますよ」

「そういうこともしたくないの! それに、レインにもそんなことさせたくない」

「俺は慣れてるので気にしなくていいですよ」


 精神操作の魔法はこの世界では禁術とされている。それなのにレインは当たり前のようにそんなことを言ってのけた。いくら幼少期から過酷な環境にいたとはいえ、彼のこの思考は心配になる。このままではダメだ。


 わたしはゆっくり深呼吸をした後、レインと向き合った。


「あのね、レイン。今までがどうだったかは分からないけど、わたしはレインに危険なこととか悪いことをしてほしくないし、させたりもしない」


 レインが何も言わないまま、こちらを見ている。 


「だから、これからはレインも魔法は悪いことに使うのではなくて、優しいことだけに使ってほしいな」

「……それは命令ですか?」


 彼の確かめるようなその言葉に、私は首を左右に振った。


「ううん。これは命令じゃなくて、わたしからのお願い」

「お願い……」

「うん。だからレインが嫌ならそれでもいいよ」


 レインの考えをすぐに変えれるとは思っていない。それでも、偶然とはいえ、彼をあの場から連れ出してこの家に連れてきたのはわたしだ。だから、わたしには責任がある。


 そんなことを考えながら彼の瞳をじっと見つめていれば、少しだけ気まずそうに視線を逸らしながらぽつりと呟いた。


「…………まあ、努力はしますよ」


 その言葉に顔が緩むのがわかった。嬉しさから「ありがとう」と勢いよく彼の手を握れば、ため息をつかれてしまった。


「変なご主人さまですね、本当」

「隷属の契約も方法がわかったらすぐに解除するからね!」


 ぶんぶんと握った手を上下に振っていれば、流石に「やめてください」と怒られてしまった。


「そうだ。ついでに、その呼び方と言葉遣いもやめにしよう」

「……は?」

「レインにアナスタシア様って呼ばれるのむず痒いのよね。それにその貼り付けたような笑顔もなんか怖いし…」


 ふたりで逃げていた時はぶっきらぼうだったし、それに少し意地悪だった。屋敷に来てからのいかにもな猫被りが少し気にはなっていた。


 これを機にそういうのもやめてほしい。とはっきり伝えれば、レインが顔を顰める。


「ね! いいでしょ、お願い」

「………猫被りって失礼な」

「ふたりのときだけでいいから!」

「……はあ、わかった。ふたりのときだけだから」

「うん! ありがとう!」


 その瞬間、貼り付けたような笑顔が消えて、ソファに座る態度も少しだらけた。あからさまな変化に思わず笑ってしまう。


「ついでにどうしたらお母様と平和的に仲良くなれるかも考えて」

「そんなの媚び売っとけば?」

「売ろうとしたら気持ち悪いって言われたもの」


 その言葉にレインが思い出したかのように「ああ、そうだったけ」と言った。あの出来事はわたしにとっては、なかなかの衝撃だったのだが、彼にとっては取るに足らないことのようだ。


「話しかけても嫌な顔するし、使用人たちを使って嫌がらせしてくるし。難易度が高いのよ」

「……アナスタシアっていまいくつ?」


 なぜいまこのタイミングで年齢を聞かれたのかは分からなかったが、とりあえず答える。


「十二歳よ」

「……あと三年か。なら今の間に魔力を今以上に高めて クロイツ学園の入学を目指しなよ」

「クロイツ学園……」


 クロイツ学園とは、ゲームの中でエミリアやアナスタシアが通う学園のことである。一定以上の魔力を持った貴族の人間しか入学できない、一応名門校という設定である。


 そして、クロイツ学園の中で王太子であるユリウスと出会う。先に入学していたテオドールがユリウスと仲良くなっていて、それをきっかけにエミリアたちもユリウスと交流を持つようになるのだ。


 そんなゲームの設定を思い出しながらも、なぜ急に学園の話?と首を傾げていれば、レインが「察しが悪いな」と呟いた。猫被るなと言ったのはわたしだけど、ちょっといきなり変わりすぎてないか。


「あの名門校には王族も入学する。そこで王族に媚び売っていっそ「いい関係」にでもなれば、あの女狐も流石に認めるでしょ」


 いつの間にかお母様のことを女狐呼ばわりしているが、一旦ここはスルーしておこう。


「王族といい関係…」

「まあ、それを目指すならアナスタシアは魔力だけじゃなくて礼儀作法や学術、貴族令嬢としての作法も極めた方がいいと思うけど」


 これは今のままでは貴族令嬢らしくないという意味だろうか。失礼な。


「作法は無理だけど、魔法を極めるなら手伝ってあげる」

「本当? 優しく教えてくれる?」

「さあ、それはアナスタシア次第かな」


 不敵な笑みを浮かべるレイン。こんなことなら、いっそ猫を被ったままでいてもらった方がよかったかもしれない。


 少しだけ自分の発言を後悔しながらも、わたしはレインの提案に乗っかることにした。


 別にユリウスと「いい関係」になりたいわけではないが、魔法は極めておけば身を守る術となる。ラスボスにはなりたくないので、ほどほどにはしようとは思うが。


「まあ、いいわ。これから指導よろしくね、レイン」

「任せなよ。あの女狐を泣かせることができるぐらいに強くしてあげる」

「いや、だからわたしは平和に仲良くしたいんだってば……」


 わたしはお母様を泣かせたいなんて全く思っていない。しかし、レインは泣かせる気満々だ。


 何とか穏便に済ませられるように頑張ろうと思いながら、前から気になっていたことをついでに尋ねてみた。


「ちなみにレインはいくつなの? 勝手に同じぐらいかと思ってるのだけど……」

「アナスタシアと同じ歳だよ」


 そう言って、レインは意地悪そうな顔で笑った。


(あ、これは絶対に嘘だな)


 ゲームの中でも年齢不詳だったので、教えて欲しかったのだけど。しかし、問い詰めたところで素直に答えてもらえるはずはないので、ここは諦める。


(見た目を変えることのできる魔法もあるぐらいだから、もしかしたら実際はおじいちゃんとかかも……いっそ性別も違ってたりして…)


 さまざまな姿のレインを頭の中で想像して、いっそそれはそれでありかもしれない、と思ったのだった。





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