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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第一章

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悪女の告白-2

 


「ねえ、レイン。何か困っていることとかはない? そのメアリーたちのこととかで……」

「ああ、俺が避けられていることですか?」

「そう、そのことなのだけど……」

「どうせ奥様に命令されてるのでしょう。別に気にしていませんよ」


 さらりと言ってのけたレインに、思わず目を丸くする。


「みんなの態度が変な理由が、お母様のせいだって気づいてたの……?」

「ええ。見たらわかりますよ。それに、こういうこと今までにもありましたし」


 持ってきた焼き菓子を頬張りながら平然とした様子で話すレイン。その焼き菓子をどうやって調達したのかも気になったが、今はいい。


「今までにも?」

「身元の分からない奴隷の扱いなんて、どこにいってもそんなものですよ。別に困っていないので、ご主人さまも気にしなくていいですよ」


 その言葉に胸がひどく痛んだ。自分とそう年齢が変わらないように見えるが、どこか諦めた表情を見せるのは、レインの境遇のせいだろう。


 彼が今までどうやって生きてきたのかも知らない。だけど、出会ったときの光景からして、きっと想像できないぐらいに、心身ともに辛い目に遭ってきたことは間違いない。


(ゲームの中でも謎の多いキャラクターだったし、これからのことを考えると、彼のことをもっとちゃんと知る必要があるよね)


「ねえ、レイン。話したくないのならいいのだけど、もしよかったらレインのこと教えてほしいな」

「……俺のことですか?」

「そう。これから一緒にこの家で過ごすでしょう? だから、ちゃんと話しておきたくて」


 この間もそう思ってレインを自室へと招いたはずだったが、隷属の誓約のせいですっかり有耶無耶になってしまった。


(まあ、途中でわたしが考えることを放棄したのが悪いのだけど……でも仕方ない。色々重なってキャパオーバーだったのだ)


 じっとレインを見つめながら返答を待っていれば、彼は少しだけ考える素振りを見せてから、ゆっくりと口を開いた。


「ご主人さまが知りたいとおっしゃるなら何でも答えますが……代わりに、俺もご主人さまのことを聞いてもいいですか」

「もちろん! なんでもいいよ!」


 いったい何が気になるのだろう。何を聞かれるのか少しだけドキドキしながら持っていれば、レインからは予想外の質問が投げかけられた。


「では、ご主人さまの名前は何ですか」

「……名前?」 

「はい。ちゃんとお聞きしてなかったと思って」

「……そういえば自己紹介してなかったけ」


 言われてみれば、出会ってからあれよあれよという間に屋敷に連れ帰り、そんなことを話す時間はなかった。周りの人間から聞いてはいるだろうが、きちんと彼に対して名乗ったことはなかったかもしれない。


 だからいままで「ご主人さま」呼びだったのだろうか。悪いことをしたと思いながら、わたしはレインに今更ながらの自己紹介をしたのだった。


「改めて、わたしはアナスタシアって言うの。よろしくね」

「アナスタシア様…」

「そう。これからはご主人さま呼びじゃなくて、そっちの方がいいな」


 こくりと頷いたレインは、もう一度わたしの名前を呟いてこちらをじっと見つめる。彼の赤い瞳に見つめられると、なぜだか少しだけ落ち着かない。


「ねえ、アナスタシア様」

「なに?」

「俺たち、あの日初めて会いましたよね」

「え? ああ、そうだね」


 その言葉に初めて会ったときのことを思い出す。屋敷に戻る途中、路地裏からして音がして、建物を覗けばレインが居たのだ。


 そして、彼の赤い瞳と目が合った瞬間、「たすけて」と言われて、気がついたら中に入っていた。そこから散々な目にあったが、無事に家に帰れて本当によかった。


 そう口を開こうとした瞬間、レインがわたしの頬に手を寄せた。


「……レイン?」

「俺の記憶違いかなと思いましたが、嘘をついてる様子はないし」

「え、えっと…?」


 レインの言動の意図がわからない。頭の中に疑問符を浮かべるわたしを無視して、彼は言葉を続ける。


「ねえ、アナスタシア様。あの日、初めて会ったはずなのに」


 レインの手が無遠慮にわたしの頬を撫で、下へと降りていく。そしてゆっくりと赤い瞳が細められた。


「どうして俺の名前を知っていたのですか」



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