第9話 奇跡を起こした少女
火の国での功績を称えられた世未たち第5部隊に、新たな任務が託されます。喜びと緊張が入り混じる中、彼女たちは次の試練に備えることに……。準備の中で芽生える世未の新たな決意をぜひご覧ください。
第5部隊全員が揃い、謁見の間へ辿り着いた。高い天井に飾られたシャンデリアが静かに光を揺らし、火の国の紋章が刻まれたタペストリーが壁を飾っている。深紅のカーペットが敷かれた謁見の間には、無言の兵士たちが立ち並び、その視線が私たちの一挙手一投足を見守っていた。足を踏み出すたび、静寂が緊張感をさらに高めていく。
私たちはその中央を通り、ようやく国王に初対面できた。玉座に座る国王は、長い髭を揺らしながら威厳に満ちた眼差しをこちらに向けていた。歳を重ねた風貌ではあったが、その背筋は真っ直ぐで、いかなる状況にも揺るがない強さを感じさせた。
「今回は、我が火の国を救ってくださったその功績、誠に感謝いたす。その暁として、これを受け取ってほしい」
と、側近の兵がルロンドさんに何かを手渡している。
「帝国軍は益々勢力を増している。他国も影響を受けて、国が成り立つことが難しくなっておる。そこで提案なんだが、火の国の代表として他国を助けてやってもらえんかの?……もちろん、ワシから援助金も出す。」
「国王殿、私たちの部隊はまだまだ未熟です。援助が務まるかどうかは、わかりません。」
第5部隊のメンバーは顔を見合わせ、一人がぽつりと呟く。
『これって、まさか戦場に戻れってことじゃ……?』
その言葉に誰かが続けた。
『いや、でも断ったら国王様の顔に泥を塗ることになるぞ……』
控えめな囁きが次第に広がり、空気が一層張り詰めていく。
「火の国が勢力を広げなければ、次に帝国軍が攻め込んできた時、勝利を掴む保証はない。むしろ、火の国そのものが崩壊する危険すらあるのじゃ。国の勢力拡大のために、ワシが代表してお願いする……」
ルロンドさんは少し考えたのか、間を開けた後に、事態を受け入れた。その直後、私は国王様に戦の話を詳しく聞かせてほしいと頼み込まれたのだ。
「世未と申すか。危機を救った要になったと兵から聞いておる。その名誉を称え、これを受け取ってもらいたい」
私は側近の兵から火の国の腕章を手渡された。ずっしりとしたその感触が、私に託された期待の重さを物語っているようだった。『これが私の功績なのだ』と、自分を奮い立たせるように心の中で繰り返した。
「他国へ訪ねる際に、きっと役立つであろう。それでは本日は以上になる。」
私たちは宮殿を後にした。国王様から頂いた腕章は、ローブの腕元へ身に着けておこうと決めた。改めてそれをじっくりと見つめる。 私はジョーや部隊の人たちを助けることができた――その事実が、心の中で温かく広がるのを感じた。
『この腕章が示すのは、私がただ守られる存在ではなく、誰かを守れる存在になれたという証なんだ』
その思いが、自分を支える確かな力となっていくのを感じた。腕章を眺めながら、私は心の中で小さく息を吐いた。ジョーにこの気持ちを伝えるなら、今しかないかもしれない。勇気を出そう――そう自分に言い聞かせた。
それにしても、国王様に謁見したせいか、一気に肩の力が抜けて疲れが出た。
「世未、顔色悪いよ?大丈夫?」
ジョーが声を掛けてくれた。心配してくれているんだろうか。
「うん、少し疲れたけど、大丈夫」
穏やかに会話をしていた時、横からフラッシュの様な眩しい光が走った。驚いて真横を見ると、カメラをぶら下げた白いペリカンが、鋭いくちばしを少し開けてニヤリと笑っていた。その小さな眼鏡が妙に似合っていて、いかにも記者らしい風貌だ。
「はーい!特ダーネ!もう国中の注目の的になってるヨー!」
ペリカン記者はニヤリと笑い、翼をパタパタと振りながら新聞を差し出す。まるで自分のスクープが世界を救うと言わんばかりの誇らしげな様子だ。
「特ダーネ!」
という言葉を高らかに叫ぶと、今度は小さな羽で眼鏡を押し上げ、そのまま意気揚々と飛び去っていった。そこには『奇跡を起こした少女』と大きな見出しになっており、私の写真が載っていた。どうやら火の国では私たちは一躍、時の人となっているようだ。その記事を見たルロンドさんは、少し困った表情で溜息をついていた。
「全員、今後についての作戦会議だ。支度を整えたら部屋に集合」
ルロンドさんの静かな声に、部隊全員が背筋を伸ばし、表情が引き締まる。誰もが心の中でこれからの任務への覚悟を固めているように見えた。世未も、腕章に触れながら小さく息を整えた。
「(大丈夫、きっとやれる)」
その静かな決意が、彼女の瞳に確かな輝きを宿らせていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!今回は世未たちが次の試練に向けて準備を進める様子を描きました。彼女たちの成長や、仲間との絆がこれからどう深まるのか、ぜひ次回もお楽しみに!