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第5話 紅蓮の少女、未来を燃やす

イグナに迫る帝国軍の脅威――その戦場で、世未は新たな力を覚醒させる瞬間を迎えます。これまで幼馴染としての関係を築いてきたジョーと再会するも、予想外の展開が二人を飲み込んでいく。果たして、この戦いの行方は……?激動の第4話、ぜひお楽しみください!

「くそっ、予想以上に敵国の動きが早い。」

 

「第5部隊、直ちに戦闘準備をし、配置に着け。お前たち、聞け!火の国が負けるのはここが最後だ!俺たちは炎を宿す者だ。その誇りを忘れるな!」

 

 ルロンドさんは仲間に指令を送っているようだった。

 

 「この攻撃は奴らの計画の一部に過ぎない。全体の動きを見極める必要がある。作戦会議で全てを詰める。お前たち、まずはこの場を乗り切れ!」

 

 私にも何か出来ることはないかと気持ちが落ち着かない。

 

「世未、俺について来い」

 

 意を決して、ルロンドさんと私は大急ぎで街の外へ出る。そこには見慣れない姿の人たちが大勢いた。皆整列していたため、私も急いで傍に並ぶ。

 

「帝国軍が来た!今日でこの国もお終いか……」

 

「弱音吐いてないで戦うしかないんだよ!アタイたちがイグナを守らないでどうすんのさ!」

 

 隣で話す兵たちの話を聞く限りでは、火の国は帝国軍より不利な状況であることが予想される。不利な状況にむやみに戦うことは得策ではない気がする。

 

「今から第5部隊に新人を紹介する。彼女は世未。魔法使いなので後衛に配置する予定だ。――そしてもう一人新人がいる。おい、こっちだ」

 

 ルロンドさんが手招いて呼び寄せている。私の他にも召喚された人がいるのだろうかと緊張してしょうがない。しかし目の前に現れたのは、見慣れた人物だった。

 

 「彼は、皆越譲治君だ。急な所なんだが、皆よろしく頼む」

 

 ルロンドさんは困惑している兵たちを落ち着かせようとしたのか、至って冷静な表情でいた。世未は息を飲んだ。こんな場所でジョーに会うなんて……。

 

 「ジョー……どうしてここに?」

 

 その声は震えていた。頭の中では、何十もの疑問が渦巻く。なぜジョーがここにいるのか。なぜ今、この場所で再会したのか。彼が何か言いかけた瞬間、私は目をそらした。こんな状況で、どうして素直に喜べるだろう?ジョーの目が大きく見開かれ、まるで時が止まったかのように私を見つめていた。

 

 「世未……!」

 

 ジョーの驚いた表情が徐々に真剣なものに変わった。何か言いかけた彼を、ルロンドが制止する。

 

 「雑談は後だ、今は戦うことに集中しろ」

 

 ジョーは一瞬だけ私を見つめ、その後ルロンドの言葉に黙ってうなずいた。私たちに警告した後、ルロンドさんは声を張って指揮を取り始めた。

 

 私たちはその指揮に従い、帝国軍と接触する。前線で戦う部隊たちは、主に剣士や槍士を扱った人たちだった。ジョーは剣士なのか、先に前線で戦っていた部隊に交じり援護している様子だ。私たち後衛部隊は魔法使いや弓使いといったジョブを会得している人たちが多いようだった。仲間の魔法使いたちは、火属性以外の魔法を扱う人たちばかりだった。私も積極的に援護を始める。炎を纏った魔法に仲間たちが驚いているようだった。

 

 私たちが配属された第5部隊は、先に帝国軍と戦っている第3部隊と合流できた。そのため手数も増えた分、勝率も上がるはずだ。しかし、想像以上に帝国軍は手強かった。怒号と金属音が響き、血の匂いが鼻をついた。足元には倒れた仲間たちの影が広がり、血の色が闇夜に溶け込んでいた。前衛部隊の数がじわじわ減ってきている。第5部隊の伏兵が、静かに城へ増援を求める。その間、帝国軍の攻撃を受けながらも耐え続けた。これ以上の敵の進行は危険なのでは……そう考えた私は、一度配置から離れた。


「(このままじゃ……皆殺されちゃう!あれは……!ジョーが危ない)」

 

 視界の端に映るジョーの姿が、心を締め付けた。

 

 「私なんかが……」


 思考は途切れ、騎馬の群れが彼に迫るのが見えた。


 次の瞬間、騎馬の群れが彼に迫っているのを見て全てが吹き飛んだ。騎馬の群れが最前線にいるジョーたちを目掛けて走っていたのだ。ノクターン・ストライダーは、ただの生き物ではなかった。闇そのものが形を成したような存在で、その蹄跡には黒い裂け目が残り、大地が崩れる音が響いていた。魔法を唱え続けていた私は、詠唱を一旦止めた。後衛の配置から離れた私は、急いで前衛まで走った。帝国軍の前衛から見ると、目立つ位置に私がいることになる。

 

「何している!配置に戻るんだ!」

 

 咄嗟に気付いたルロンドさんは、大声で私に命令を下す。でも私はその声を無視して詠唱を続けた。

 

「ジョー!死なないで!いやあぁぁ……」

 

 大声を挙げた途端、私の額がとてつもない痛みを発した。額が割れそうだ。そして私の体を赤い光が覆う。赤い光は力がみなぎってくるような感覚があった。赤い光が肌を焼くような熱さを感じさせた。視界が揺らめき、耳鳴りが響く中、胸の奥に眠っていた力が目を覚ますような感覚が広がっていく。それは恐怖を通り越し、力への歓喜にも似た衝動だった。しかし、同時に『自分ではない何か』に支配されているような違和感も拭えなかった。

 

 もしかしたらジョーを助けられるかもしれないと思い、ターゲットをノクターン・ストライダー騎馬へ変える。騎馬の瞳は血のように赤く輝き、その蹄が地面を打つたびに黒い靄が立ち上った。息が白く霧のように広がり、冷たい恐怖を周囲に撒き散らしていた。騎馬の群れは、猛スピードで私に目掛けて駆けてくる。

 

「当たって!ソーラ・フレア!」

 

「危険だ!戻れ――」

 

 ルロンドさんの強い口調を耳に残しながら、私は直径2メートル程の大きさの炎を放った。炎は真紅の渦を巻きながら空中に放たれ、燃え盛る光が周囲の夜空を赤く染めた。その熱は肌に感じるほど強烈で、周囲の空気が揺らめいた。

 帝国兵の姿が微塵もない。強大な炎により跡形もなくなっていた。その時先頭にいた帝国兵の精鋭部隊の大勢を消し去った。見たところ、帝国軍の数は3分の1程に激減していた。

 

「そんな……馬鹿な……」

 

 残された兵たちは戸惑いを隠せない様子だった。ざわめき始めたと思ったら、敵の副官らしき人物が指揮をする。

 

「全軍、撤退!」

 

 副官の指示により、わずかな数の兵たちは急いで撤退して行った。私は安堵して、腰が抜けてしまった。

 

「良かった……なんとか、ジョーを助けられた……」

 

 しかし、へたり込んでいた私に、さきほどの副官が剣を掲げて私の方へ走ってきた。

 

「隊長の仇だ!消えろ!」

 

 と剣を振りかざすその形相と恐怖で震えてしまい、体が動かない。そして、死を覚悟したそのとき……。

 

「させるか!うおおぉぉ!」


 ジョーの剣が一閃し、副官の胸を貫いた。彼の顔には怒りと深い決意が浮かんでいた。


 「もう誰も失わせない……」


 その言葉が聞こえた気がした。その瞳には、これまでに背負った痛みと、誰かを守るための決意が宿っていた。次の瞬間、副官の動きが止まり、その巨体が地に伏せた。

 

最後まで読んでくださりありがとうございます!今回の第4話では、戦場での緊迫感と世未の成長、そしてジョーとの再会による感情の揺れを描きました。戦いの中で覚醒した世未の力、そしてジョーの決意が物語をどう動かしていくのか……。次回もぜひお楽しみに!ご感想や応援メッセージ、お待ちしています!

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