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第46話 土の石、そして少女は消えた

いよいよ土の神殿の最深部にたどり着いた一行。

不気味な静けさの中、ローテンスの存在を感じ取る世未。

そのとき、扉の向こうから現れたのは――恐るべき敵将だった。

 敵将ローテンスが吐き捨てるように言った。

 

 「フン、俺様と戦おうっていうのか?馬鹿な奴だ……。生きて帰れると思うなよ」

 

 ジョーが剣を構えた。私はそれに呼応するように杖を掲げ、素早く呪文を唱える。

 

「今だよ、ジョー!」

 

 炎が渦巻く直前、ジョーの剣がローテンスの槍を正面から受け止め、その場の空気が、ぴたりと静止した。

 

『煉炎の渦よ、すべてを呑め。ファイアスパイラル!』

 

 ローテンスと帝国兵を中心に炎の魔法を繰り出す。見事命中して、相手にダメージを与えた。

 

「火の魔法だと……!?面白い女だな」

 

 その隙を見てジョーがローテンスに向けて剣を振りかざす。すかさずローテンスも大槍を構えて、剣が交わった。

 私は次の呪文に集中して詠唱を始めた。

 

『灼熱の槍よ、導きのままに走れ。ラヴァ・ライトニング!』

 

 その炎は光を交えてローテンスに直撃した。

 

「フッ……やるじゃないか。でも俺様に効くと思うか?――ハアァァァ!」

 ローテンスは叫び声をあげた。

 その風圧に負けて、ジョーと私は吹っ飛ばされた。その音に気付いたのか、ルロンド隊長たちが駆け付けてきた。

 

「なんだ?ウジャウジャと人が湧きやがって。1対7なんて雑魚に等しい!」

 

 それを機に、ローテンスは大槍を振り回し、無差別に攻撃を始めた。見たこともない力と速さで技を繰り出している。その圧倒的な強さで、あっという間に皆が散り散りになった。すぐに立て直そうとするルロンド隊長だったが、構えた剣がローテンスによって弾き飛ばされる。

 

「ルロンド隊長!」

 

 私の声も虚しく、前衛で戦っていたアディとルロンド隊長はなぎ倒されてしまった。その勢いで後衛で戦う皆も負傷したようだった。要であるユリアに回復を願うしかない……と思っていたのだが、今までの戦いで魔力とアイテムが底を付き、ユリアもなぎ倒された。

 

「フン、馬鹿な奴らだ……」

 

 私たちは皆倒れてしまい、もはや全滅してしまった。ローテンスはすたすたと私の方向へ歩いて来る。

 

(もう、駄目かもしれない……皆やられてしまった)

 

 「……そこの女、面白い魔法を使うんだな。この俺様が感心を寄せているんだ、光栄に思え」

 ローテンスは槍を向けながらも、どこか愉しげに笑った。

 

「俺様はな、強気な女には……どうも、弱くてな。お前の力、嫌いじゃないぞ?」

 そう言いながら、槍の矛先を私の首元へと突きつける。

 

「俺様と一緒に来ないか? 来るなら――仲間の命だけは奪わずに済ませてやる」

 完全な脅し。でもその目には、わずかに躊躇がにじんでいた。

 

(私が拒否すれば、どちらにしろ皆ここで殺される……そんなの、絶対に嫌だ)


「さぁ、どうする?」


「……さない――許さないっ!!」

 

 胸の奥からこみ上げた熱が、額へと駆け上がっていく。

 次の瞬間、額のあたりがじんじんと光り出し、赤い宝石のような輝きが浮かび上がった。

 地響きが走り、建物全体が震え始める。


「皆が死んじゃうなんて、そんなの絶対いや……守らなきゃ!」


 波動のような力が全身を駆け巡り、私の内側から何かが解き放たれた。

 その衝撃で壁にヒビが入り、床が軋み、空気がピリピリと震える。


「あなたの話なんて、聞かないんだからっ!」

「何ィ!?」

 

 ローテンスは地震に少し動揺してしまったようで、その隙に私は物凄いスピードでローテンスの大槍を奪い、感じたことのない力で斬った。それが見事顔に当たった。

 

「くそっ!目がっ……」

 ローテンスは片手で目を覆いながら腰に持っていた大槍で私を斬ろうとする。しかし瞬きもしないスピードでかわす。そしてその大槍を奪い、ローテンスの腹部をえぐる。

 

「ぐおおぉぉ……!なんだ、この女の力は……!?くそっ、撤退だ!」

 

「待って! 土の石を渡して。置いていけば……あなたは見逃してあげる」

 

 一瞬、ローテンスの目がこちらを睨みつけたが、すぐに顔を背け、

「……くそっ!」

 石を床に叩きつけ、一目散にその場を離れた。


 その瞬間を見ていたのだが、私たちも皆揃って逃げなければ、いずれ土の神殿が崩れてしまうかもしれない。一刻を争う事態だったため、皆を起こす。幸い意識はあるようで、一命を取り留めた。そしてディーンは床を這いながらモニタールームへ向かう。その間にルロンド隊長が立ち上がった。

 

「世未……その石は、まさか……!」

 

「ルロンド隊長、ここは危ないです。樹木へのアクセスが完了したらすぐに出ましょう!」

 

「そうだな。……と言っているうちに、ディーンがなんとかしてくれたようだ。流石だな」

 

 皆もなんとか立ち上がり、私たちは力を振り絞り、急いで外へ逃げきった。

 出口へ出た瞬間、土の神殿は崩壊したのだった……。

 

「間一髪だったな……世未が居なければ、確実に俺たちは生きて帰れなかった」

 

 振り向くと、世未の姿が見当たらない。


「全員、無事か!?」

 

 ルロンド隊長の声に、ひとりずつ頷きが返ってくる。ユリア、アディ、ディーン、ラト──

 だが、誰かがいない。

 皆が互いの顔を確認し合い、ジョーがはっとした表情を浮かべた。

 

「……世未は!?」

 

「まさか、瓦礫の中にいるのか……?」

 

「嘘だ……こんなことって……世未――!」

 

 皆困惑している中、ジョーは目の前にある瓦礫を1つずつ取り始めた。

 

「嫌だ嫌だ……頼むよ、助かっていてくれ……」

 

「ジョー、気持ちは分かるが、俺たちだけの救出だと時間があっても足りないのが現状かもしれない」

 

「じゃあどうしたらいいって言うんだよ!?」

 ジョーはルロンドの胸ぐらを両手で掴んだ。


 「……アタイ、ちょっと気になってるんだけどさ。あのローテンスって奴、世未にだけ明らかに甘かったよね。なんか、他の相手にはあそこまで喋らなかったし……目つきもちょっと違ったし……もしかして“女に弱い”って噂、本当かもね」

 

 ジョーとルロンドが言い合っている横で、アディがぽつりと漏らした。

 

「なんか、他の相手にはあそこまで喋らなかったし……もしかして“女に弱い”って噂、本当かもね」

 

 その一言に、ルロンドもジョーも一瞬だけ沈黙した。

 

「……アタイの勘、外れてるといいけどね」

 

「助けを呼ぼう。人手が多いほど助かる確率も上がる。パーティを二手に分ける。俺たちは援助を要請しに、ジョーたちは捜索を」

 ルロンドの提案に、誰も異論はなかった。


「俺は……あいつを絶対に見つける」

 瓦礫の中を見つめながら、ジョーが強く呟く。

 その声に、ラトとディーンが静かに頷いた。


 崩れた神殿の奥深く──瓦礫の隙間に、赤く淡く、宝石のような光が瞬いていた。

 世未の名を叫ぶ声だけが、崩れた空間に虚しく響いていた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

今回は衝撃の展開になりましたが、まだ物語は続きます。

次回もどうか見守っていただけたら嬉しいです✨

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