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第44話 その優しさは、私だけのものなの?

新たな回復魔法の使い手を求めて向かったその家で、

出会ったのは元気いっぱいな少女・ユリアだった。

仲間として加わった彼女とともに、私たちは旅立つ――

 ユリアが仲間に加わり、私たちは土の神殿へ向かう準備を整えた。

 元気いっぱいで無邪気な彼女に、最初はすこし戸惑いもあったけれど――

「回復魔法なら任せて!」という明るい声が、不思議と私たちの背中を押してくれるようだった。


 ユリアが支度を終えて外へ出てきたとき、自然とみんなが歩き出す空気になっていた。


 ジョーは剣の柄を軟くたたきながら「それじゃあ行くか」と笑った。

 その一言をきっかけに、私たちは土の神殿を目指して歩き出した。


 ユリアの家を出た後、私は初めて仲間になったユリアの事がすこしだけ不安だった。


「……ユリア、大丈夫かな?」

 私はすこし不安気にラトに話し掛けた。


「でもあの子、元気がいいわよね。きっと大丈夫よ」

 ラトは何でも見通しているようで、自然と安心させてくれる。……すこし肩の力が抜けた気がした。


「無茶はさせない。だが、あの力があれば俺たちの勝算も増す」

 ルロンド隊長は胸を張り、力強く発言する。


「おう、みんなで守ってやろうぜ!」

 ジョーは明るくみんなを引っ張る。


「うん!あたしも全力でやってみる!」

 ユリアもみんなの声に応えたかのように元気に応えるのだった。


 私たちは土の神殿に行くため、地図を開き場所を把握する。神殿の位置が確認できたためそこに向かって歩き始めた。相変わらず砂漠地帯は乾燥していて喤もカラカラになるため、ユリアのアドバイスで水と回復アイテムを多めに買うことにした。神殿に着くまでの間に自己紹介をしながら仲を深める。


「隊長、ルロンドって名前なんですね。それだけイケメンだと周りの女の子が放っておかないよね!」

「……何度も言うが、俺は自分のことをそんな風に思ったことはない。勘弁してくれ」

 珍しくルロンド隊長は困った表情をして頭を押さえている。

「それにジョーは話しやすいしイイ感じ!」

「ありがとな」


 ジョーとユリアが剣の話題で盛り上がっていた。どうやらユリアは剣も扱える魔法剣士らしい。とても頼もしい限りなのだが、二人が仲良さそうに話しているのを見ているのは、なんだかとても胸がモヤモヤする。

(私がいないところで、二人だけの空気ができていくみたいで……私はそこにいなくても、平気なのかな?)

 そんな思いが、胸の奥をそっとかき添ける。

 私は目を伏せ、会話の辺の外からぼんやりと砂を見つめていた。


 そこにラトとディーンも加わり、親睦を深めているようだった。なんだかすこしホッとしたが、自分ももっとあの辺の中に入っていけたらいいのになっていう気持ちもあり、とても複雑な思いだった。


「世未、大丈夫?なんか辛そうに見えるけど?」

「うん、大丈夫……心配してくれてありがとう」


 隣にいたアディが心配そうに声をかけてくれた。すると私たちの様子に気が付いたのか、先頭で歩いていたルロンド隊長がこっちへ歩いて来た。ルロンド隊長はアディから話を聞いて、私のことを気遣ってくれているのかもしれない。


 「疲れたか?慣れないことをさせてしまってすまない。この地帯を歩くだけでも体力を消耗すると言うのにな」

「そ、そんな。大丈夫です。それは皆同じですから!」

「何かあったら俺に言うんだぞ?」


 時々掴めない心の距離感に戸惑う。

 誰にでもこんなに優しいのか、それとも私だからなのか……。答えは曖昧で、だからこそ余計に気になってしまう。


 はい、と返事をしながらも、ルロンド隊長は私の傍を離れない。よほど気がかりなのが伝わってくる。


(ルロンド隊長は、私のことをどう思ってるんだろう……?)


 ふいにそんな疑問が頭を過ぎる。本人に聞いてみなければわからないのは当然な事だが、気になる。


 そんなことを考えながらモンスターと戦っているのだから、集中できるはずもない。ぼんやりと考え事をしていたのか、鋏の動きに気づくのが一瞬遅れた。

 次の瞬間、肩に走る激痛。巨大な鋏が容赦なく私の体を裂いた――。


(痛い……。流血してる。でもこんな怪我、この間の骨折に比べたら全然マシだよね……)


 そんな思いでいたら、ルロンド隊長が駆け付けてきた。


「大丈夫か!?ユリア、回復を頼む!」


 その声に気付いたユリアもこちらに駆け付けてきて、回復の呪文を唱えた。見事に傷が癒えたのだ。


「ユリア、ありがとう」

「全然!回復のために、私がいるんだからね」


 しかし服に付いてしまった血液の後が生々しく残っている。破れた箇所の服から肌が見える程だった。


「世未ちゃん、ちょっと来て」


 ラトが私の手をそっと引いた。風の音が遠ざかり、日陰になった岩場の奥は、世界から切り離されたような静けさがあった。


「どうしたの?」

「肩に包帯を巻いてあげるから、少しだけじっとしてしててね♪」

「ラト……ありがとう」


 私はラトの細やかな気配りができる心にとても感動した。

 思わず包帯を巻く仕草に魅入ってしまう。手際の良さも、流石と言ったところだ。


「できたわよ、これで大丈夫。変に露出が目立ったりもしないわ♪」

「ラトって本当に優しいよね」


 心からそう思えた。


「だ、だからね?その笑顔は反則級なんだってば!世未ちゃんてば本当に可愛らしいわね♪」


 無意識だったかもしれない。私は気付いた時にはラトを抱き締めていた。


「世未ちゃん!?……もう~、仕方のない子ねぇ~」


 私は頭を優しく撫でてもらい、少しだけ泣いた。でも俯いていたので、それは誰にも気付かれないだろうと思った。


 その時、誰かの声が響いた。


「世未!ラト!おーい、返事してくれよ!」


 砂風の向こうから、少し焦ったジョーの声が響いた。

 砂漠の砂で視界が悪いこともあり、私たちは消えた者となっていたようだった。


 あの真っすぐな声を聞いて、なんだか少しだけ心が温かくなる。


 心配するといけないと思い、2人で走って皆の方へ向かった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

仲間の優しさや想いが、少しでも心に届いていたら嬉しいです。

次回もどうぞ、お楽しみに✿

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