第42話 女に弱い敵将、その意外な噂
前話では、土の国王から帝国軍の影と“土の石”の話を聞き、
新たな敵・ローテンスの存在が浮かび上がりました。
情報収集を進めるため、42話では街中へ――。
私たちは、一旦荷物を置きに来た。少し身軽になったため、宿屋から出て街へ出た。
宿を出て街に出たが、どこか物寂しい空気が漂っていた。普段は賑やかな通りも、戦の影響で活気が薄れている。
人々は私たちを警戒するかのように視線を逸らし、足早に去っていく。帝国軍への恐怖が街全体に染みついているようだった。
2組ずつに分かれてそれぞれ街の人に話を聞き込みに向かった。ジョーが私と組むと言い切ったため、自然とペアが決まった。少々危険はあるが、情報と言えばやはり賑わう酒場がいいかと相談して決める。さっそく足を運ぶのだが、思ってた以上に人が多くいた。普段は酔客で溢れる酒場も、どこか重苦しい空気に包まれていた。戦争の影響か、笑い声も少ない。
そこでカウンター越しで1人飲みしている男性がいたので声を掛けてみる。
「土の国や神殿、何か知ってることがあれば教えてもらえませんか?」
「おいら、神殿から奇跡的に生還してきたんだよ……」
「詳しく教えて下さい!」
「でも、奥の方まで行ったらヤツがいてなぁ……おいらの仲間はそいつにやられちまった……。うっ……思い出すだけで辛い」
その男は泣き始めてしまい、それ以上話を聞きだすことは出来なかった。仕方なく、他の人に話を聞いてみようと辺りをキョロキョロしていたのだが、どこかで見覚えのある白いペリカンがいた。
「はーい!特ダーネ!情報満載ヨー!」
「あなたは!火の国に居たペリカンさんね!」
「とっておきのネタがあーりますヨー!なんと、あの剛腕ローテンスに意外な弱点があるのヨ!」
「なんだと!?教えてくれ!」
無意識なのか、ジョーは自分の後ろへ私を守るように立つ。
「世の中情報はお金で買うのヨ!1000Gで手を打つのヨ」
「ちぇ、いい商売してるな」
私たちは目を合わせ、ジョーは少し納得いかない表情をしながらお金を渡した。
「毎度!それで、ローテンスは女に弱いそうですヨ!ね?有力情報デショ?」
と一言私たちに告げ、どこかへ飛び立ってしまった。私たちはその情報を聞き入れたので、皆と合流するために宿屋へ向かった。宿屋の休憩スペースには、ラトとディーンが居た。そして私たちは情報交換を始めた。
「女に弱いってことは、少なくともローテンスが男であることは間違いなさそうね」
「そんな簡単な弱点で倒せるなら、誰も苦労しないだろ」
ラトに続いて、ジョーが怪訝そうな顔をした。
「でも、意外と真面目なタイプほど、女の人の扱いに疎かったりするよね?」
ディーンは腕を組みながら、首をひねる。
「あ、ボクたちも街の人に聞き込みしてきたんだけどね、どうもライゼン皇帝とローテンスは仲が悪いらしいわよ?」
「僕たちが話しかけたのは元帝国兵の老人だったんだけど、“昔から犬猿の仲だった”って断言してたよ」
相槌を打つ私に、もう1つと言って人差し指を挙げてラトが話始める。
「そうね、簡単に言うと、ライバル関係だって噂を聞いたわ」
ライバル関係となると、同じ部隊でいて居心地が悪そうだ。
カランと扉の開く音が鳴り、ルロンド隊長とアディが戻ってきた。
「ルロンド隊長!こっちです!」
と右手を挙げて居場所を知らせた。2人はすぐに気付き、近くの空いている席に座った。私たちは話していた情報を伝えた。
「そうか……ライゼン皇帝とローレンスの関係性が見えてきたな。側近でいるはずのローレンスが、土の神殿で単独行動をしている可能性がある。しかし女性に弱いと言っても、世未をおとりにする訳にもいかないし……」
部屋の空気がピリつく。
「そんな危険なことさせられるかよ!」
ジョーの拳が震え、机を軽く叩く音が響いた。
「俺が守るって決めたんだ。世未を危険な目に遭わせるなんて、絶対に許さない」
アディは、わざとらしく笑いながら肩をすくめた。
「まぁ、女らしくなくても強けりゃいいのさ」
と、どこか寂しそうに目を伏せた。
視線をそらしながら、アディは苦笑いを浮かべた。
「私、昔から“男勝り”だとか“頼りがいがある”って言われてきたからね。そういう意味では、“女”って意識は薄いんだよね」
その言葉に、ラトが気を使ったように声をかけた。
「でもアディは、いつものままがカッコいいと思うわよ♪」
少し照れたように笑うアディを見て、場の空気が少しだけ和らいだ。
「しかし、全員が戦っても勝てるかどうかは疑問だと思うがな」
「うぐっ……だからって世未を前線に出すのは危ないと思うぜ?」
しばらく全員に沈黙が訪れる。
「そういえば、ルロンド隊長は何か情報ありましたか?」
「残念ながら、あまり有力な情報はなかった。……強いて言うなら、この街で回復魔法が使える術師がいるという噂を聞いたくらいだ。
“白いフードの女が、人知れず傷を癒していた”と話していた男もいた。
顔は見えなかったが、手当ての光は確かにあったと……。それだけだ」
「回復魔法……!もし使えたら、とても戦闘に役立ちそうですね」
「可能なら、今回だけ仲間に加えるというのも手だな」
皆とても驚いている様子だった。
(どんな人なんだろう……?)
「一度、その人に話を持ち掛けるのはどうですか?」
「皆の意見も聞きたい」
ルロンドが腕を組み、冷静な声で指示を出す。
「まずは回復術師を探す。ローテンスとの戦闘で負傷者が出れば、速やかに支援できる体制を整えたい」
ラトが軽く手を挙げて口を開く。
「街の人にそれとなく聞いてみるわ。もしその術師が本当にいるなら、情報を集める価値はあると思う」
ディーンはその言葉に頷き、「確かに、回復役がいると安心できるよね」と相槌を打つ。
「街の人にもそれとなく聞いてみるよ。回復術師が本当にいるなら、大きな戦力になるはずだ」
私たちはあれこれと話し合ったが、やはりローテンスが強いという予測があるため、回復の手立てが欲しいと話がまとまった。
「よし、では今日も遅い。各自解散だ」
散り散りになる前、ルロンドが最後に一言付け加えた。
「回復術師が見つかれば、戦況が大きく変わるかもしれない。明日が楽しみだな。」
ジョーが力強く頷いた。
「おう、明日は絶対見つけようぜ!やるっきゃねぇ!」
その夜、久しぶりに少しだけ希望が見えた気がした――。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
少しずつ真相に近づきつつある仲間たち。
次回もぜひ楽しみにしていてくださいね。




