第39話 癒える傷と、ほどける距離
仲間たちと力を合わせ、風の神殿での激闘を乗り越えた私たち。
傷ついた身体を癒しながら、風の石を手に入れたことで、再び風が吹き始めた。
戦いの中で生まれた仲間との絆と、ほのかな恋心が交差する物語。
先ほどの戦闘の最中、部屋の奥に何かが輝いていたのを思い出し、私はそちらへと視線を向けた。
すると微かな風を感じ、「カタン」と軽い音が響いた。
まるで私たちに導かれるように、風の石らしきものが足元へ転がり込んできたのだ。
「よし、これが風の石だな」
ルロンド隊長がすぐに駆け付け、それを手に取る。
そして負傷を負った私たちは、先ほどのモニタールームまで運ばれ、ラトの手当てを受けた。
私とアディとジョーは特に怪我が酷かったため、壁を背もたれにして休む。
その間にディーンが風の石を使い、魔導装置を起動して風のエネルギーの供給を行う。
「よし、樹木とのアクセスに成功したよ! これで風を起こせるはずだ。今回も僕のおかげだね♪」
ラトはディーンの傍まで歩いていき、彼の頭を掴んで軽く揺らしながら、苦笑いをしていた。
「ディーン、この状況でよくそんなこと言えるわね。皆、怪我が酷いんだから程々にしなさいよ」
「……ごめんなさい」
珍しく怒るラトの姿に怯えて、ディーンは皆に謝った。
「ま、いいわ。ちゃんと謝罪したことだし、皆の手当てを手伝ってくれない?」
ディーンは少し緊張した様子で頷くと、丁寧に医療キットを手に取った。
「さっきはごめんなさい……。ボクのせいで大変になっちゃったよね」
普段の彼からは想像できない素直な謝罪に、仲間たちは驚きつつも小さく微笑んだ。
ディーンは真剣な表情で、私の傷にそっと薬を塗りながら、小さく呟いた。
「今度はちゃんと役に立つから……絶対」
ラトは私たちが気づかない間に、回復用の医療キットや食料を準備しておいてくれた。
私たちが街に帰るまでの道のりも困難だと予測されるため、今夜は野宿となる。
特に私は全身骨折している疑いもあり、ほとんど身動きが取れなかった。
ラトが手当てをしてくれる間、自分の体の奥深くから、じわりと温かな感覚が広がっていくのを感じた。
(また、この感じ……前にもあった。私の体が勝手に回復してる?)
そう考えると少し不安だったけれど、どこか不思議な安心感もあった。
モニタールームは比較的モンスターが集まりにくいため、そこで寝泊まりし、
夜間は体力が回復した者が交代で見張り役をすることにした。
ちょうどルロンド隊長とラトが交代することになり、ルロンド隊長は静かに私の隣に腰を下ろした。
普段より少しだけ近いその距離に、なぜか胸が小さくざわつくのを感じた。
ルロンド隊長の肩が私の肩に軽く触れる距離で、胸が無意識にドキリと鳴った。
(あれ……なんだろう、この感じ。側にいるだけで、不安が溶けていくような……)
同時に、ジョーと約束したはずの心が、どこか揺れていることにも気づいてしまった。
「起きていたのか。隊長はどうだ?」
「まだ全身が痛くて……はは、いつも迷惑かけちゃってごめんなさい」
「俺は、迷惑だなんて思ったことは一度もないぞ?」
「今回は、私は力になれなかったけど、皆が頑張って戦ってくれたから、なんとかなったんです」
「……あまり自分のことを責めるんじゃない」
ルロンド隊長の声は、いつもより低く、静かで、どこか優しさが滲んでいた。
彼の真剣な眼差しが、私の心を穏やかに撫でていく。
「今回の戦いに限らず、皆よくやってくれている。作戦も成功したことだし、今はきちんと体を休ませるんだ」
「……ありがとうございます」
気づけば私の頬が熱くなっていた。
その言葉だけで心が温かく満たされて、安心しきった私はそのまま眠りに落ちていった。
翌朝、私の体は完治しており、自由に動けるようになっていた。
この異常な回復の早さは、手当てをしてくれた皆のおかげ――
そして、私自身に眠る不思議な力のおかげでもある気がしていた。
「ちょっと待った、昨日全身骨折したんじゃなかったのか?」
「はい。昔から、たまにこういうことがあって……自分でも不思議なんだけど、気がつくと治ってるんです」
私がそう伝えると、ルロンド隊長の視線が鋭くなった。
何かに気づいたように、私の瞳をじっと覗き込んでくる。
「……そうか」
その一言にどんな意味が込められているのか分からなかったが、
彼の目はどこか優しく、それでいて深く、私を捕らえて離さなかった。
「じゃあ、街まで歩けるかぃ? なんならアタイも手を貸すよ」
私はその場で数回ジャンプをし、身体を軽く伸ばして、腕をぐるぐると回してみた。
「ほら、この通り! もうバッチリです!」
その時、勢いよくジョーが寄ってきた。
「今日は俺が超側近で守る!……って、痛っ……」
勢いよく腕を上げたものの、痛みに顔をしかめるジョー。
照れて赤くなる彼を見て、私の口元にも小さく笑みがこぼれた。
「……あ、今のナシな」
その場で皆の笑いが起きる。
ふと視線を感じて顔を上げると、ルロンド隊長が真っ直ぐ私を見つめていた。
私と目が合った途端、隊長は一瞬だけ戸惑ったように目元を揺らし、慌てて視線を逸らした。
(……今の、なんだろう? まるで私のことを気にしてるみたいで……)
胸の奥が小さく跳ねるのを感じながら、私は隊長の横顔をそっと盗み見た。
軽傷で済んだ3人を中心に陣形を整え、風の神殿を出ることができた。
外に出た途端、心地良い風が頬を撫で、空には風に乗った雲がゆっくりと流れていた。
枯れていた木々もわずかにざわめき、まるで国全体が息を吹き返したかのようだった。
街が見えてきた瞬間、賑わい始めた人々の笑い声や、どこか懐かしい街の活気が耳に届いた。
疲れ切っていた仲間たちの表情にも自然と安堵の笑みが戻り、胸が熱くなった。
今回も読んでくださり、本当にありがとうございます!
戦いの中で支え合い、仲間との絆が深まっていく様子を描きました。
少しずつ変わっていく心模様にも注目していただけたら嬉しいです。
次回もどうぞお楽しみに!




