第37話 剣に宿る想いと、静かな誘惑
デートの余韻が残る中、ジョーの優しさに触れて心が揺れた世未。
靴擦れの痛みも、想いの温度に変わっていく。
そして――朝が来る。再び、それぞれの歩みが動き出す。
まだ空が白みはじめる前、風の国の城壁から遠くを見つめる男の姿があった。
「……今日、か」
ルロンド隊長は風が吹かない空に目を細めながら、ゆっくりと息を吐いた。
自分も何かを動かすときだと――そう思いながら、その場を静かに離れた。
♦♦♦
翌朝、ダメ元で足を見たら――すっかり治っていた。
(まぁ、昔から傷の治りは人一倍早いんだよね。ジョーにも昔「ゾンビかよ」って笑われたし……今日もきっと平気だと思ってた。よし!今日は魔法の特訓ができそう)
ロビーのソファに腰掛けていたルロンド隊長が、ふと私の足元に目をやった。
「……その足、まだ痛むのか?」
「え、あ……もうほとんど大丈夫です」
「言葉よりも、実際を見せろ」
低く、静かな声。次の瞬間、ルロンドは迷いなく立ち上がり、私の前で膝をついた。
「る、ルロンド隊長っ!? だ、大丈夫ですから!」
「いいから黙ってろ」
その声に有無を言わせる力があって、私は思わず固まってしまう。
彼の手がそっと、けれどしっかりと私の足首に触れた。
触れられた場所が、じんわり熱を帯びる。
いつもの冷静さを纏った顔なのに、こんなに近いのは反則だ。
「……やはり、まだ赤みが残っているな」
「え、でも、もう……全然、痛くないし……」
「“痛くない”と“大丈夫”は違う」
言いながら、彼はゆっくりと立ち上がり、
そして何の前触れもなく、私の頭に手を添えた。
「お前が無理するのは、あまり好きじゃない」
その言葉が、静かに胸に落ちた。
温度も、距離も、まるで呼吸が乱されるみたいに――苦しい。
「俺が見ている。だから、無茶はさせない」
「……た、隊長……」
目が合う。いつもより柔らかいその瞳が、まっすぐ私を見ていた。
「もしまた無理をしたら……ちゃんと俺が止めるからな」
その言い方が、妙に優しくて、
でもどこか独占的にも感じてしまって――胸がきゅっと締めつけられた。
♦♦♦
私はジョーと丘へ向かい、魔法剣の特訓を始めた。
魔法を剣に纏わせる連携技だが、魔法の動きを操るのが難しく、何度やってもうまくいかない。
ジョーが休憩を促す中、私は一人で魔法陣を描き続けた。
「今日はもう解散しようぜ」
「ううん、あとちょっとで出来そうな気がするの。頑張らせて」
集中を極限まで高めて魔法を放つと、ついに成功。
そのまま模擬戦に挑み、見事“魔法剣”が決まった。
『やったぁ!』
私たちはその場でハイタッチを交わした。
「ちょっと待った。さすがに疲れたし、今日はもう休もう」
「でも……」
私も魔力をかなり使っていた。
ジョーは私の頭をポンポンと撫でて言う。
「俺、ずっと世未が頑張ったの見てたよ。だからこそ、休もう?」
「……確かにそうだね」
「よしよし。世未は頑張り屋なんだから。俺が一緒じゃなきゃダメだね」
うっ、と痛いところを突かれたような気がした。私たちは暗くなった道を警戒しつつ、宿へ戻った。
♦♦♦
2人が宿へ戻る頃、その様子を少し離れた場所から見ている影があった。
「なるほど……魔法の流れを操作して剣に繋げるのか」
木陰に立つルロンド隊長は、腕を組みながら真剣な目でふたりを見つめていた。
「……あの2人、想像以上にいい動きをしているな」
彼は静かに踵を返す。
「――ならば、こちらも……手を打つとしよう」
そう呟き、夜の城へと消えた。
♦♦♦
帰った後は疲れ果てて、ベッドへ直行した。
(魔力、使いすぎたな……明日も連携が決まるといいな)
考え事をしながら眠りについた。
♦♦♦
目を覚ますと、アディの姿はもうなかった。
支度を終えてホールへ行くと、アディとルロンド隊長が連携技の相談をしていた。
昨日の成功がどれほど特別だったかを実感しながら、私はその成果を2人に伝えた。
「何?もう仕上がったのか……流石と言った所だな」
「アタイたちも頑張んなきゃねぇ!世未ありがと。隊長、行くよー」
2人はそのまま外へ向かった。
「そういえばラトとディーンは……」
そう思った直後、2人が部屋から出てきた。
「ん?あ、世未ちゃん。調子はどう?」
私は魔法剣が成功した話を簡単に伝えた。
「やるじゃん!ラト、僕たちも行こうよ」
2人もすぐに外へ行ってしまった。
私も特訓を再開したくなり、ジョーを探しに街を歩き回ったが見つからず、昨日の丘へ向かった。
(あ、いた……)
「ジョー!来てたんだ。すごく探してたの」
「あー悪ぃ!声かけておけばよかったな」
「ううん、大丈夫。早速始めよう」
私たちは特訓を再開。昨日のイメージ通りに魔法を放ち、剣に絡める。
「できた!」
「おっし、これぞ炎の魔法剣だな!」
ジョーがそのままモンスターを倒し、私は魔法を解除。
その後も数回模擬戦を行い、実戦感覚をつかんでいった。
疲労が限界に達した頃、ようやく宿へ戻った。
「ジョー、私結構コツが掴めてきたよ」
「俺も。やっぱり世未とペア組んで正解だったな」
笑顔でハイタッチを交わし、宿に着いた。
♦♦♦
夜、廊下を歩いていると、ルロンド隊長とすれ違った。
「……特訓の成果は出ているようだな」
「はい、ジョーと力を合わせれば、魔法剣も形になってきました!」
「そうか。……だが、無理をするな」
歩みを止め、ふいに一歩近づいてくる。
「えっ……?」
「昨日、お前……ふらついていただろ」
彼は私の髪をそっとかき上げ、額に手を添えた。
「!? た、たいちょ……っ」
「熱は……ないか」
いつもより優しい声だった。
「……そんなに心配しないでください。もう大丈夫だから」
私が笑うと、彼はわずかに目を細めた。
「笑って誤魔化すな。体調の悪さを隠す癖は昔から直っていない」
ふっと目を逸らし、でもまた私を見る。
「――無理をしたら、ちゃんと叱るからな」
「え……」
どくん、と胸が鳴った。
「……あまり心配させるな。それだけだ」
そう言って彼は去っていった。
(……やっぱり、ちょっとズルいよ、隊長)
♦♦♦
ロビーでは皆が集まり、話していた。
私たちも加わると、ルロンド隊長が口を開いた。
「明日――風の神殿へ向かう」
その声は静かでありながら、凛とした決意が滲んでいた。
「俺たちも、ようやく“戦う準備”が整った。ここからが……本番だ」
いよいよ、風の神殿へ向けて動き出す時が来た。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
登場人物たちの関係も少しずつ深まってきました。
次回も見守っていただけたら嬉しいです✨




