第36話 その可愛さ、罪だから
風の国での謁見を終えたあと、私はジョーとの大切な約束へ向かった。
ラトに可愛く仕上げてもらい、少しだけ背伸びをした特別な装いで。
今日という日が、きっとかけがえのない一日になると信じて――。
「お待たせ! 遅れてごめん」
私は息を切らして走ってきたため、肩で息をするほど苦しかった。ちらっと時計を確認したけれど、やっぱり遅刻してしまったことに申し訳なさを感じる。
ジョーの反応が返ってこないので、ゆっくり頭を上げた。
「なんだよ……すげぇ心配したじゃん」
そう言いながら、抱きしめられた。
「何かあったのかと思ったよ……すぐにラトとどっか行くしさ」
「ええと、心配かけてごめんね?」
ジョーはゆっくり体を離した。
「よく見たら、めちゃくちゃ可愛い格好で来てるじゃん」
「ラトに協力してもらっちゃった♪」
ジョーは一瞬、ぽかんと口を開けたあと、照れくさそうに笑った。
「そういうことか。俺のために、そんなにオシャレしてくれたの? ……嬉しい」
言い終えるや否や、思いっきり抱きしめられて――私は驚いた。
「ずっとこのままでいたいけど、とりあえず街を1周してみない?」
「うん、行こう」
ウィンドウショッピングをしながら、寄ってみたいお店を探すことにした。
「風が止まってても街は活気で溢れている。凄いな……」
(早く連携技を編み出すためとはいえ、手を繋いで歩くのは恥ずかしい……)
「本当の風の国、見たいね」
「うん……いたたっ……」
「どうした?」
「慣れない靴履いて歩き回ったから、靴擦れしちゃったみたい。えへへ」
ジョーは辺りをぐるりと見回した。何か探しているようだ。
「あ、あそこに喫茶店があるから入ろう」
「うん、ありがとう」
私たちは飲み物を注文して、お店の人から受け取り、対面の席に座ることができた。
「気付かなくてごめんな。足どうなってんの? 一旦見せて?」
「ん? 平気だよ」
私はあまり心配をかけないように、取り繕った笑いをしてしまったかもしれない。
「本当に? じゃあそのままこっちに足伸ばして見せて」
「えっ……?」
「いいから、ちゃんと見せなって」
ためらっている私の足首に、ジョーの手がそっと触れた。
軽く引かれるようにして、私は抵抗する間もなく靴を脱ぎ、両足を彼の膝の上に乗せてしまっていた。
アキレス腱の辺りが真っ赤になっていた。
「世未……嘘は良くないよ? だいぶ痛そうじゃん」
「あ、あはは……ごめん、心配かけたくなくって」
「俺は世未のこと、小さい頃からいつも見てたから、心配性にもなるって。
でもそれは気にしなくていいの。もう俺の役割だから」
思わず胸がきゅっと締め付けられる。
(ジョーは、普段から優しい。
もし付き合うことになったら、もっと大事にしてくれるのかな?)
勝手な想像をして胸の鼓動が早くなる。
恥ずかしくて目が合わせられなくなってしまい、思わずそっぽを向く。
窓の外は、綺麗だけど人がいないのでとても寂しく感じる。
でも、目の前にいるジョーの存在が、不思議とそれを忘れさせてくれた。
「ジョー……。連携技のことなんだけど、街の外だったら、たぶん魔法も使えるから……落ち着いたら一緒に練習しようね」
「そうだな。まあ、この傷をちゃんと治してからの話ね」
「うっ、確かに……そうします」
私たちはゆっくり時間を過ごした後、喫茶店を出た。
やはり靴擦れは結構痛いが、我慢して宿屋まで向かうしかなかった。
そして宿屋の方向へ向き直すと、ジョーがしゃがみ込んでいた。
「はい、おぶるから乗って?」
「ええっ!? 私、重いよ? ていうか恥ずかしい……」
「今だけ世未の主張は通りません~。いいから早く乗って」
(すっごく恥ずかしいけど、乗せてもらうしかないか……)
「うん……」
私はジョーに負担をかけまいと、ゆっくり乗った。
ジョーはそのまま立ち上がり、歩き始めた。
「なんだ、やっぱり全然軽いじゃん」
「そうかな? でもジョーが負担にならないなら良かった」
「なるわけねぇだろ、全くもう~」
宿屋までいろんな話をしながら帰り着いた。
私は部屋までおぶってもらい、ようやく地面に降りた。
「さてと、可愛いお姫様に傷が出来ちゃったな」
「!?」
驚いて声が出ない。
「傷が出来ているから、水で洗ってから絆創膏だな。はい、これでよし」
「ジョー、何から何までありがとう」
「……全然、何にも気遣わなくていいって。
今日こうして一緒にデートができて、ホント嬉しいよ」
「私も。いつもドジばかりしてるけどね」
「世未はそのままでいーの。そういうとこ含めて……全部が好きだから」
その言葉が頭の中で何度もリピートする。
(好き? え? 何? ええ!?
心臓の音、うるさすぎない!? 顔、熱すぎない!?
いや待って、ジョーは普通に言ってるだけかも……!?
でも、ジョーの目、めちゃくちゃ真剣……!)
突然の不意打ちに、一気に顔が火照ってしまったかもしれない。
とても緊張するし、心臓が破れてしまいそうだ。
♦♦♦
(言っちゃった……! いや、まあ本音だし?
でも、世未、固まってる? やばい、赤くなってる。
え、俺、やりすぎた!? いや、可愛い。やばい、可愛い。
やっぱり言ってよかった)
♦♦♦
「ありがとう……」
言葉を選ぶ間もなく、ぽつりと零れていた。
(……もしかして、私、ジョーに気持ちが傾いてる?)
私はジョーのことをずっと見つめた。
無意識だったかもしれない。
そのときジョーが、距離なんてないほど近づいてきて、私の頬にキスをした。
「な、なな……」
(やっべ、やりすぎた? でも可愛いから仕方ない ←)
「ごめん、世未が可愛すぎて、気持ちがもう、抑えきれなかった」
「キス……初めてされたかも」
「じゃあ、初チューは俺がもらった♪」
ご機嫌そうなジョーを見て、私まで嬉しくなった。
デートも解散した後、私たちはより親密になった気がして嬉しい反面、
早く風の国を復興させたいという思いが募った。
(――この人と、もっと一緒に歩いていけるように。
私も、ちゃんと強くならなきゃ)
ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。
皆さんのおかげで、世未とジョーの世界を広げることができました。
これからも温かく見守ってもらえたら、とても嬉しいです!




