表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/48

第36話 その可愛さ、罪だから

風の国での謁見を終えたあと、私はジョーとの大切な約束へ向かった。

ラトに可愛く仕上げてもらい、少しだけ背伸びをした特別な装いで。

今日という日が、きっとかけがえのない一日になると信じて――。

「お待たせ! 遅れてごめん」

 私は息を切らして走ってきたため、肩で息をするほど苦しかった。ちらっと時計を確認したけれど、やっぱり遅刻してしまったことに申し訳なさを感じる。

 ジョーの反応が返ってこないので、ゆっくり頭を上げた。


「なんだよ……すげぇ心配したじゃん」

 そう言いながら、抱きしめられた。


「何かあったのかと思ったよ……すぐにラトとどっか行くしさ」

「ええと、心配かけてごめんね?」


 ジョーはゆっくり体を離した。


「よく見たら、めちゃくちゃ可愛い格好で来てるじゃん」

「ラトに協力してもらっちゃった♪」


 ジョーは一瞬、ぽかんと口を開けたあと、照れくさそうに笑った。


「そういうことか。俺のために、そんなにオシャレしてくれたの? ……嬉しい」


 言い終えるや否や、思いっきり抱きしめられて――私は驚いた。


「ずっとこのままでいたいけど、とりあえず街を1周してみない?」

「うん、行こう」


 ウィンドウショッピングをしながら、寄ってみたいお店を探すことにした。


「風が止まってても街は活気で溢れている。凄いな……」

(早く連携技を編み出すためとはいえ、手を繋いで歩くのは恥ずかしい……)


「本当の風の国、見たいね」

「うん……いたたっ……」

「どうした?」

「慣れない靴履いて歩き回ったから、靴擦れしちゃったみたい。えへへ」


 ジョーは辺りをぐるりと見回した。何か探しているようだ。


「あ、あそこに喫茶店があるから入ろう」

「うん、ありがとう」


 私たちは飲み物を注文して、お店の人から受け取り、対面の席に座ることができた。


「気付かなくてごめんな。足どうなってんの? 一旦見せて?」

「ん? 平気だよ」


 私はあまり心配をかけないように、取り繕った笑いをしてしまったかもしれない。


「本当に? じゃあそのままこっちに足伸ばして見せて」

「えっ……?」

「いいから、ちゃんと見せなって」


 ためらっている私の足首に、ジョーの手がそっと触れた。

 軽く引かれるようにして、私は抵抗する間もなく靴を脱ぎ、両足を彼の膝の上に乗せてしまっていた。

 アキレス腱の辺りが真っ赤になっていた。


「世未……嘘は良くないよ? だいぶ痛そうじゃん」

「あ、あはは……ごめん、心配かけたくなくって」

「俺は世未のこと、小さい頃からいつも見てたから、心配性にもなるって。

 でもそれは気にしなくていいの。もう俺の役割だから」


 思わず胸がきゅっと締め付けられる。


(ジョーは、普段から優しい。

 もし付き合うことになったら、もっと大事にしてくれるのかな?)


 勝手な想像をして胸の鼓動が早くなる。

 恥ずかしくて目が合わせられなくなってしまい、思わずそっぽを向く。

 窓の外は、綺麗だけど人がいないのでとても寂しく感じる。

 でも、目の前にいるジョーの存在が、不思議とそれを忘れさせてくれた。


「ジョー……。連携技のことなんだけど、街の外だったら、たぶん魔法も使えるから……落ち着いたら一緒に練習しようね」

「そうだな。まあ、この傷をちゃんと治してからの話ね」

「うっ、確かに……そうします」


 私たちはゆっくり時間を過ごした後、喫茶店を出た。

 やはり靴擦れは結構痛いが、我慢して宿屋まで向かうしかなかった。

 そして宿屋の方向へ向き直すと、ジョーがしゃがみ込んでいた。


「はい、おぶるから乗って?」

「ええっ!? 私、重いよ? ていうか恥ずかしい……」

「今だけ世未の主張は通りません~。いいから早く乗って」


(すっごく恥ずかしいけど、乗せてもらうしかないか……)

「うん……」


 私はジョーに負担をかけまいと、ゆっくり乗った。

 ジョーはそのまま立ち上がり、歩き始めた。


「なんだ、やっぱり全然軽いじゃん」

「そうかな? でもジョーが負担にならないなら良かった」

「なるわけねぇだろ、全くもう~」


 宿屋までいろんな話をしながら帰り着いた。

 私は部屋までおぶってもらい、ようやく地面に降りた。


「さてと、可愛いお姫様に傷が出来ちゃったな」

「!?」


 驚いて声が出ない。


「傷が出来ているから、水で洗ってから絆創膏だな。はい、これでよし」

「ジョー、何から何までありがとう」

「……全然、何にも気遣わなくていいって。

 今日こうして一緒にデートができて、ホント嬉しいよ」

「私も。いつもドジばかりしてるけどね」

「世未はそのままでいーの。そういうとこ含めて……全部が好きだから」


 その言葉が頭の中で何度もリピートする。


(好き? え? 何? ええ!?

 心臓の音、うるさすぎない!? 顔、熱すぎない!?

 いや待って、ジョーは普通に言ってるだけかも……!?

 でも、ジョーの目、めちゃくちゃ真剣……!)


 突然の不意打ちに、一気に顔が火照ってしまったかもしれない。

 とても緊張するし、心臓が破れてしまいそうだ。


 ♦♦♦

 

(言っちゃった……! いや、まあ本音だし?

 でも、世未、固まってる? やばい、赤くなってる。

 え、俺、やりすぎた!? いや、可愛い。やばい、可愛い。

 やっぱり言ってよかった)

 

 ♦♦♦


「ありがとう……」

 言葉を選ぶ間もなく、ぽつりと零れていた。


(……もしかして、私、ジョーに気持ちが傾いてる?)


 私はジョーのことをずっと見つめた。

 無意識だったかもしれない。


 そのときジョーが、距離なんてないほど近づいてきて、私の頬にキスをした。


「な、なな……」

(やっべ、やりすぎた? でも可愛いから仕方ない ←)

「ごめん、世未が可愛すぎて、気持ちがもう、抑えきれなかった」

「キス……初めてされたかも」

「じゃあ、初チューは俺がもらった♪」


 ご機嫌そうなジョーを見て、私まで嬉しくなった。


 デートも解散した後、私たちはより親密になった気がして嬉しい反面、

 早く風の国を復興させたいという思いが募った。


(――この人と、もっと一緒に歩いていけるように。

 私も、ちゃんと強くならなきゃ)

ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。

皆さんのおかげで、世未とジョーの世界を広げることができました。

これからも温かく見守ってもらえたら、とても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ