第34話 デートの約束と、ざわつく胸の音
風の国での作戦会議を終え、それぞれが胸に想いを秘める夜。
ぎこちない空気の中、ジョーはついに自分の気持ちと向き合い始める。
交差する視線と高鳴る鼓動──風の国に、静かな変化が訪れる。
ひとまず荷物を置くために宿へ戻った私たちは、それぞれ部屋へ戻ることになった。
風の国では、さすがに部屋割りまで一緒というわけにはいかず、私はアディと同室で過ごすことになった。
「世未、ジョーが1階のホールで待ってるからって言ってたよ」
「えっ? なんだろう……?」
「準備ができたら行ってきなよ」
「うん、伝言ありがとう」
私は一通りの準備をして、ロビーへ向かった。
「よ、お疲れ」
「うん。話って何?」
なんとなく空気がぎこちない。
(……ジョー、何か言いにくそう?)
私はジョーの表情を見つめた。考え事をしているような感じだった。
「隊長からの提案でさ、親密になるって話があったじゃん。俺たち、もう長い付き合いだし、どうしようかなと思ってさ?」
「え、じゃあ……アディと組めばよかったんじゃない?」
(……はっ、しまった! 何か変なこと言っちゃったかも!?)
「俺はどうしても世未がよかったんだよ!」
(はいぃ!? 私、振られたよね……?)
「……隊長が、お前の隣にいるの、見てるのが辛くてさ。だから、絶対に世未と組みたかったんだ」
「……もしかして、それってヤキモチ?」
「そうとも言うかも……」
ジョーにしては歯切れの悪い答えが返ってきた。
私のことが気になるというよりは、ルロンド隊長に敵意を持っているのだろうか。
「……世未は、誰にも渡したくない」
「……そんなの、ずるいよ。そんなふうに言われたら……」
突然、ジョーに抱きしめられた。
さっきまで近い距離にはいたが、想定外のことで驚いた。耳元で囁かれる。
「俺、世未のこと振ってからずっと、気にしてた」
(あの時の言葉……胸が締め付けられるように痛かった)
でも今、ジョーの目はまっすぐで、あのときとはまるで違っていて――。
「でもあのときの気持ちに、嘘はつきたくなかった。だけどさ、最近おかしいんだ。世未と隊長が一緒にいるとこ見ると、モヤモヤする」
「ええっと、それって……」
「振って傷つけたことは悪いと思ってる。でも、俺、世未のことが好きだ……。本当に自分勝手でごめん……」
「ええと……」
(どうしよう!? ジョーが私のことを好き? ちょっと頭がパニックかも)
「……急にこんなこと言われても困らせるだけだよな。ごめんな。でも、もう1回だけ俺のほうを見てほしい」
(……ジョーが、あの日のことをちゃんと悔いてくれてる。傷つけたことも向き合って……それだけで、少し救われた気がした。だったら私も、もう一歩だけ信じてみよう)
「……うん、わかった」
「ありがとう。返事は待つって決めてる。……でも、待ってる間に他の男に取られるのは、マジで勘弁な?だから――俺のこと、ちゃんと見てて?」
(どうしよう……嬉しい。でも、まだ私の中にはあのときの痛みも残ってる。それでも、こんなにも真剣なまなざしで想ってくれると、もう……。私を振ったあの日の言葉、あの瞬間──ずっと胸の奥で引っかかってた。でも……)
胸がじんわりと熱くなる。
ジョーは顔が赤い。私もつられてしまいそうだった。
「というわけでさ、俺とデートしない?」
全力の笑みで誘われて、私は胸の鼓動が早くなるのを感じた。
(……怖くても、もう一度信じてみよう)
「……いいよ」
「いやったぁ!」
突然立ち上がり、ガッツポーズを決める姿がちょっと可愛く見える。
ぎゅうって、心がわし掴みにされそうだった。
改めて、こんな人に『好き』って言ってもらえるなんて……それだけで、胸がいっぱいになる。
話し合った結果、日程は明日の謁見の後にしようということに決めた。
(……ドキドキしてる。でも、不思議と嫌じゃない。この胸の高鳴りは、きっと――明日が、ちょっと楽しみになってきた。こっそりラトに相談してみよう。きっと力になってくれるよね……? こんなふうに人を想うのって、もしかして……恋、なのかな?)
♦♦♦
その夜、風の国のバルコニーにひとり立っていたルロンドは、
ふと階下から楽しげな笑い声が聞こえるのに気づいた。
(……ジョーか。どうやら、うまくいったらしいな)
遠くの声を聞いているだけなのに、胸の奥が少しだけざわつく。
「……あまり、気にするつもりはなかったんだがな」
そう呟いて、ひとつため息を落とす。
「……俺も、そろそろ動く時か」
誰に聞かせるでもなく、静かにそう言って、バルコニーを後にした。
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