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第29話 足湯騒動と年下の不意打ち

風の国を目指す一行がたどり着いたのは、静まり返った不思議な街。

心も体も疲れがたまってきた旅の途中、ほんのひとときの休息と、ちょっぴり甘酸っぱい交流が描かれます。

仲間たちの関係が少しずつ動き出す、そんな風の国編の一幕をお楽しみください。

 私たちは再び、長い旅の道のりを歩き始めた。

 地図を広げて方向を確認しながら、慎重に進む。

 風の国はかなり標高の高い場所に位置しているらしく、これまで比較的平坦だった道が急な傾斜を帯びはじめていた。


 丘の上には巨大な風車がいくつも建ち並んでいるが、そのどれもがぴたりと止まったままだ。

 あまりに静かで、生き物の気配すら希薄な異様な空気が辺りを包んでいる。


「あれが風の国のシンボル、『風神の風車』さ。あの風車が回ってる限り、国は豊かに潤うって話なんだが……今はどういう訳か止まっちまってるねぇ」


 アディが眉をひそめて、やや心配そうにつぶやいた。

 急な上り下りの連続で体力の消耗が激しく、加えて飛行タイプのモンスターにも苦しめられた私たちは、ある程度進んだところに見えた大きな街で一休みすることになった。


「脚が……脚が鉛みたいに重い」

「この辺りは坂がキツイから仕方ないねぇ」


 アディと大きな岩に座り、横並びになって話す。


「ところで世未、最近隊長と親しくないかい?」


 世未は突然の率直な質問に心臓がドキリとする。


「えっと、そう見える? 確かに、少しだけ仲良くなった気もするかな……はは」


 世未は心臓がバクバクしていることが気恥ずかしくなって言葉を濁した。


「最近の隊長の行動、やたら世未のこと気にかけてる様に見えてねぇ」

「き、きっと隊長って立場だから、世話を焼いてくれてるんだと思う!」

「あんな隊長、珍しいけどねぇ?」

「どうしてそう思うの?」

「隊長はモテるけど、基本女が苦手っぽいんだよね。ほら、火の国を出発するときも、ファンに囲まれて困っていたじゃん?」

「そういえば、確かにそんな事があったね」


 世未はよく思い出してみると、確かにそんな出来事があったし、自分に対して特別な思いがある訳ではないのかもしれないと感じたのだった。

 思いにふけっていた瞬間、アディが「あ!」と突然思いついたかのように声を上げたので世未は驚いた。


「そういや、ジョー、ちょっと元気ないじゃん? あれから何かあったの?」

「えっ? 特に何もないよ」

「そっか。最近のジョーって何か悩んでそうに見えたから、どうしたのかと思ってね」


(ジョーが落ち込んでるのは私のせいなのかな? でも、この間仲直りしたところだし……)


「まぁ、世未が誰を好きになってもアタイは応援するよ。自分の気持ち、大事にしな!」

「ありがとう、アディ」


 考えていても拉致があかないため、ジョー本人に直接話をしてみようと思い、立ち上がる。どこにいるかまでは分からないため、街の中を探そうと思ったその矢先に、ディーンが駆け足で走ってきた。


「ディーン、脚痛くない?」

「それがさ、あっちに足湯のお店があって、ワクワクしてたら忘れてたよ!ね~、一緒に行こうよ」


 ディーンは私の手を握って強引に引っ張り、走ってその場所から離れる。


「ちょ、ちょっとストップ! 足がもつれそう」

「んー僕が急に引っ張ったからかも。でも足湯はすぐそこだよ」


 足を確認してから顔を上げると、確かに足湯をしている宿屋があった。

 私はこの脚の疲れが取れるなら行ってみる価値はあるかもしれないと思い、一緒にその場所まで向かう。世未は後ろを振り返り、申し訳なさそうに手を振った。


「ごめん、アディ! 後で合流してね!」


 アディは呆れたように手をひらひらと振り返した。


「はいはい、楽しんできな! あたしゃ、ゆっくり休んでるから!」


 ♦♦♦


「もう宿屋で予約できたの?」

「その辺は隊長が管理してるから心配いらないよ」


 私は一安心して、ディーンと一緒に足湯の場所の近くまできた。靴と靴下を脱ぎ、そのまま湯気の出ているお湯に足をちゃぷんと入れる。

 湯に浸かった瞬間、心地よい温かさが脚からじんわりと全身に広がった。


「はぁ~、気持ちいい~」

「来て良かったでしょ? 僕が最初に見つけたんだから」


 ドヤ顔をしているディーンは子供っぽくて可愛らしくて、なんだかつられて笑ってしまった。

 しばらく心地良い時間が流れていて気付かなかったのだが、ディーンが何かを覗き込んでいる。


「ディーン、どうしたの? 何かあった?」

「世未お姉ちゃん、脚がキレイだね」

「えっ! そうかな? もうディーンたらませてるんだから~」


 そのとき、脚を触られムニムニと揉まれた。


「きゃ! もう、びっくりしたじゃない」

「いいじゃん、僕が足のマッサージしてあげるよ」


 天然なのか本気なのか、よく分からないが別に悪気はなさそうだ。でも止めさせた方がいいのかもと思って口に出そうとした瞬間、目の前にジョーが現れた。

 ジョーは世未とディーンが楽しそうにしている様子に思わずイラッとしてしまい、つい無意識に肩を掴んでしまった。


「お前、何やってんだよ~? 子供だからっていい気になるなよー」

「ひっ」


 世未はジョーの様子に驚いたが、その表情がどこか傷ついているようにも見えて胸が苦しくなった。ジョーの威圧感にたじろぐディーンだったが、ディーンも負けずと主張している。


「僕はお姉ちゃんの疲れを取りたかっただけだもん! 別にいやらしいことなんて何も……」

「ほぉ~? とにかくその手を離してもらおうか、マセガキ~」


 喧嘩になりそうな雰囲気だったので、慌てて止める。その喧嘩の中に割って入ってしまったため、足湯のお湯が大量に身体にかかり服が濡れてしまった。


『あ……』


 二人は喧嘩を止めてこちらを振り向く。


「世未、悪い。大丈夫?」

「あの、私着替えてくるね!お願いだから仲良くしてね」


 ♦♦♦


「やべえ……世未、怒ったかな?」

「僕も調子に乗りすぎちゃった……。ごめんなさい」


 二人は互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。


 ♦♦♦


 着替えに戻ろうとした時、偶然ルロンド隊長とすれ違った。隊長は世未の濡れた服を見ると、小さく笑みを浮かべて言った。


「世未、何かトラブルか?風邪を引く前に早く着替えろよ」

「はい!ありがとうございます」


 短い会話だったが、それだけで胸が温かくなった。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

疲れた体に染みわたる足湯のように、少しでも心が温まるひとときを届けられていたら嬉しいです。

次回も、彼らの旅路を一緒に見守っていただけたら幸いです。

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