第25話 守りたい想いと、水の石
静かな夜のひとときに、小さな想いが動き出します。
心がふっと温かくなるような、そんな夜になれば嬉しいです。
「世未、それタオル冷えてる?」
「うん、大丈夫。ありがとう、アディ」
二人の小声のやり取りが妙に親密に感じて、ジョーは思わず眉をひそめる。
(俺が世未を意識してるなんて、認めたくない……。今さら気づくなんて、ほんと馬鹿だろ……)
世未が笑う度に胸がざわつく理由を、ジョーはまだ認めたくなかった。
♦♦♦
「世未、あんた疲れてるだろ。食べ物はアタイとラトで用意してくるから、ちょっと休みなよ」
「ありがとう、アディ。でも私まだ――」
「いいから、アタイに任せときなって」
世未が笑顔を向けると、ジョーはなぜか無性に落ち着かない気持ちになる。
「いや、俺がやる」
気づけばジョーは強めの口調で口を挟んでいた。
「えっ、ジョー?」
「食べ物くらい俺が用意するよ。アディも世未も隊長に付いててくれ」
自分の唐突な態度に驚きながらも、もう後には引けない。
アディはニヤリと笑って世未に囁く。
「なんかジョー、気合入ってるね?」
「えっ、そ、そうかな?」
ジョーは顔を赤くしながら、足早にその場を離れる。
♦♦♦
そう告げて、ルロンド隊長の横のベッドを使い休憩に入る。
想像以上に疲れが溜まっていたらしく、寝付く瞬間を覚えていないほどだった。
目が覚めた時には、食事した形跡が残されていて、皆眠っていた。
そんな中、アディは椅子にもたれかかって眠っていた。
(私が起きずに、ずっと看病してくれていたんだろうな……)
そう思うと申し訳ない気持ちになり、せめてアディをベッドまで運ぼうと腕を肩に回す。
そのとき、アディは目を覚ましてしまった。
「ごめん、起こすつもりじゃなかったんだけど……ほら、ベッドまでそこだから、少しだけ歩いて……よいしょ」
小声で話しかけるも、アディは寝ぼけているようで何も喋らず、そのまま横になって眠ってしまった。
(頭が冴えて起きてしまうよりは、よかったのかもしれないな)
そう思いながら、そっと立ち上がると、ルロンド隊長の様子を見に行く。
そばにあった椅子に座り、容態を確認すると、すやすやと眠っている様子だったので一安心した。
夜明けまでまだ少し時間があったため、静かに座っていたが、やはり眠気がきてしまい、ウトウトと微睡の中だった。
♦♦♦
「……こんなとこで寝たら風邪ひくだろ」
ジョーは小声で呟きながら、そっと世未の身体を抱き上げた。
眠る世未のあどけない寝顔が目に入り、ジョーは心臓が高鳴るのを感じた。
(なんだよこれ……世未、こんなに軽かったっけ?)
ベッドにゆっくりと世未を下ろしながら、自分の心の動揺を必死に抑える。
「俺、マジでどうしちまったんだろ……」
ジョーは顔を熱くしながら、軽く自分の頬を叩いた。
♦♦♦
少し遅めの朝に目を覚ますと、部屋には誰もいなかった。
(誰かが運んでくれたのかな……?)
自分がベッドの上にいることに気づき、軽く伸びをする。
すぐに支度をして、皆がいるであろう1階へ向かった。
階段を降りると、仲間たちが何か話し合っている様子だった。
すっかり熱も下がったのか、ルロンド隊長は元気そうだ。
その姿を見て、世未はとても嬉しい気持ちになった。
「もう体調は良いんですか?」
「ああ、おかげさまでな。聞くところによると、皆で看病をしてくれたと聞いた。ありがとう。世未はよく眠れたのか?」
「ついさっきまで眠ってましたよ」
♦♦♦
「世未、昨日ちゃんと眠れたか?」
ジョーが少し照れたような表情で尋ねる。
「ジョー……うん、ぐっすりだったよ。ジョーは大丈夫?」
「俺は平気だけどさ……」
一瞬言葉に詰まるが、少し照れくさそうに続けた。
「無理するなよ。隊長だけじゃなくて、お前まで倒れたら困るからな」
「ふふ、ありがとう。ジョーが心配してくれるなんて、ちょっと嬉しいな」
「ばっ……! 別に普通だろ!」
ジョーは顔を赤くしながら目を逸らす。
そんな彼の姿を見て、世未はクスッと微笑んだ。
♦♦♦
昨日の居酒屋で、気になる名前が出てきたことを思い出した。
“ライゼン皇帝”、そして“イザルト・ヴァルター”。
どうやら、水の神殿の水の供給が止まっている原因が、そのふたりに関係しているらしい。
さらに、“水の石”という重要な宝が奪われた――そんな噂も聞こえてきた。
(……水の石って、いったい何なんだろう)
お互いの体調を気にしながら話を終えた後、皆で集まり、昨日の居酒屋で得た情報を整理することにした。
「私たちが居酒屋で聞いた話では、水の神殿から水が供給されてないみたい。その原因は、イザルト・ヴァルターっていう人が『水の石』を持ち去ってるせいらしいけど……」
世未が話すと、アディが頷いて口を開いた。
「アタイたちも別の場所で似たような情報を聞いたよ。イザルト・ヴァルターって奴は『水の神殿』の管理者で、水の国アクエルではかなり有名な魔導師みたいだよ。最近は帝国軍と手を組んでるらしくてさ」
アディが少し眉をひそめると、ジョーも頷きながら付け加える。
「帝国軍のトップがライゼン皇帝だって話だ。こいつの命令なら、どんな悪事にも手を染めるって噂があるらしい」
ラトも柔らかく補足する。
「私たちが別の店で聞いた話だと、『水の石』が無いと、水の循環が乱れて、最終的に水が枯渇して国が滅びてしまうらしいわ」
ディーンも珍しく真剣な表情で続ける。
「さらに、その石は各国に1つしか存在しない重要な宝物だから、それを取り戻すか破壊しないと、水の国はずっと苦しいままだろうね」
その話を聞きながら、ルロンド隊長がまとめるように話す。
「整理すると、惑星ファルナは火・水・風・土の4つの国があり、それぞれの国を支える『石』が『樹木』と繋がり、生命エネルギーを循環させている。つまり、『水の石』が奪われれば、水の国は滅びてしまう。その石を今、帝国軍と手を組んだイザルト・ヴァルターが持ち去ったというわけだ」
世未はようやく状況を理解し、頷いた。
「帝国軍か……厄介そうだな」
ジョーが呟くと、アディは心配そうに世未を見た。
「相手はかなり手強いだろうね。今のままじゃ、世未とジョーの戦闘力に不安があるよ」
ディーンが明るく手を挙げた。
「大丈夫! アクエルには冒険者向けの訓練所があるんだってさ!」
「では、まずは訓練で戦力アップを図ろう。3人ずつ分かれて特訓をするぞ」
それぞれの武器を手に、覚悟を決める時が来た。帝国軍に挑むために――!
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