表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/48

第24話 熱に溶けた距離

少しずつ動き出す「まほおし」の世界。

今回は、仲間との向き合いと、すれ違いの中にある小さな優しさのお話です。

 居酒屋に辿り着いた頃には、もう酔いの回っている人が多い雰囲気だった。

 世未は決して話上手ではないが、まずは街の人から情報を集めようと思い、テーブル席に座っていた冒険者らしい装いの男女2人組に声をかける。


「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、いいですか?」

「んん? 可愛い子だね~。一緒に飲むかい?」


 目の前にいた女性に話しかけたつもりが、女性の前に座っている男性に絡まれた。


(ナンパされてる……)

「じゃなくて、ちょっとこの街の状況を教えてほしくて、声をかけたんです」

「えぇ? 連れないね~。奢ってあげるから、そこに座ってよ~」

(どうしよう……こういうの慣れてないんだけど……)


 世未は慌てて視線を泳がせる。必死で助けを求めると、視線の先にちょうどルロンド隊長がいて、目が合った。

 しかし、男性に手を掴まれて座らされそうになる。そこへ、すかさずルロンド隊長が入った。


「彼女はまだ未成年なんだ」

「お兄さん、イケメンじゃん。彼氏?」

(彼氏って、私たち恋人同士に見えるってこと!? 恥ずかしい……)


「……ん? どこかで見覚えあるような……あっ! お兄さん、ニュースに載ってた火の国の隊長じゃん!」


 その男性は興奮気味に私たちを見ている。そして目前にいる女性が喋り始めた。


「お兄さん、イケメンだから特別に情報を教えてあげる。どうやらさ、水の神殿から水の供給がストップされてるらしいわよ! だから、まずはそこで調査することをお勧めするわね。でも最近モンスターが凶暴化してるらしいから、気を付けて行った方がいいわよ~」


「水の神殿にいるイザルト・ヴァルターが水の石を悪用しているとか……。あいつ、ライゼン皇帝をすごく慕ってて、皇帝のためならどんな手段も厭わないって噂だ。でも最近のやり方は過激すぎるって評判だよ」


「アクエルの民も貧窮状態が長く続いているらしいから、何とかしてあげたいけどね。肝心のイザルト・ヴァルターが強すぎるのよねぇ、ひっく」


(ライゼン皇帝? そして、イザルト・ヴァルターが水の石を所持している……? そもそも、水の石って何なの?)


「……ふむ、そうか。情報提供感謝する」

「お兄さん、今度私とデートしてぇ~」

「おい、お前には俺がいるじゃん」


(逆ナンされてる……ルロンド隊長、本当にモテるんだなぁ……)


 私たちはその場に居続けるとまた絡まれそうな雰囲気がしたため、一旦居酒屋から外へ出た。

 居酒屋の騒がしい声が背後で遠ざかり、外へ出るとひんやりした夜の空気が肌を刺した。


「皆と合流しよう。ここは寒いから、宿屋に戻って――ハックシュン!」

「大丈夫ですか? って、顔が赤いですよ? 熱があるんじゃ……」

「平気だ、少し寒さにやられただけだろう……」


 ルロンド隊長はいつもと違って弱々しく笑った。その様子が逆に不安を掻き立てた。

 熱があるかもしれないと思い、私は急いで皆に部屋へ戻るよう伝えに行った。


 ♦♦♦


 今日のところは情報収集に留めておき、また明日話し合う形にまとまった。

 宿屋へ集合したはいいものの、ルロンド隊長が苦しそうにベッドで横になっている。


 熱を測ってみると、39度の高熱だった。

 普段凛としている隊長が、辛そうに息を吐きながら目を閉じている姿を見ると、私たちも動揺せずにはいられなかった。


「隊長が熱出すなんて、珍しいねぇ。付き合い長いけど、初めて見たよ」


 ♦♦♦


 アディと私は手分けして看病をしていた。ジョーとラト、ディーンは食べ物の調達に行った。もう時間は深夜を回っているため、なんとなく疲れも出てきた。看病に付きっ切りというのも、意外と体力を消耗する。


「そういえば、世未。最近ジョーと喧嘩でもしてるのかい?」

「えっ!? ううん、喧嘩はしてないよ。どうして?」

「なんか2人ともお互い避けてる感じがしてね。何かあったのかってね」


(どうしよう……アディに打ち明けてもいいのかな?)


 胸がチクチクと痛む。不安で心が乱れるけれど、アディの優しい瞳を見ると、少しずつ勇気が湧いてきた。


「何もないならいいのさ。ちょっと気になったから聞いただけ」

(アディはきっと私たちのことを心配してくれてるんだ……よし勇気を出して……)

「あのね」

「ん?」

「私、ジョーに告白したけど振られちゃったんだ……それからはジョーとちゃんと話をしてないの」


 世未が両手をもぞもぞしながら打ち明けると、アディは腕を組みながら考え事をしているようだった。


「なるほどね。それで最近ギクシャクしてるわけだ?」

「うん。アディにはそう見えるんだね……」

「こういうのはどうだい?」

「えっ?」

「アタイがジョーに話があるって伝えて呼んでおくから、世未とアタイでジョーを待つ。で、3人で話す。それなら心強いでしょ?」


 突然の提案に世未は戸惑う。


「私、でもジョーと何て話したらいいのかわからないの……」

「大丈夫。アタイに任せておいて!」

「うん、わかった」


 世未とアディは、ジョーたちが帰って来るまでの間に、仲直りの作戦を話し合うことにした。


 ♦♦♦


 ジョーが食べ物の調達から帰って来た頃、アディに呼ばれ、少し警戒した様子でやって来た。


「なんだよ、アディ。急に呼び出して……」

(まさか世未もいるなんて……これって、二人で話せってことか?)


 ジョーは急に落ち着かなくなり、胸が妙に騒ぎ出すのを感じた。視線をさまよわせながら、ジョーは世未とアディの前に立つ。


 ♦♦♦


 「まあまあ、そんな怖い顔しないで。最近、あんたたちぎこちないなーって思ってさ」


 アディが軽い調子で言うと、ジョーは少し肩をすくめた。


「……別に普通だけど?」

「いや、普通じゃないでしょ。二人ともお互い避けてる感じだったしさ」


 ジョーがちらりと世未を見る。

 世未はうつむき、両手をぎゅっと握りしめた。


「……ごめんね、ジョー」

「え?」

「告白してから……私の方が避けちゃってたと思う。どう接していいかわからなくて……」


 ジョーの表情が僅かに揺れた。

 少しの沈黙の後、彼はゆっくり息を吐き出した。


「俺も……正直、どうすればいいのかわかんなくてさ」

 ジョーは苦笑いしながら後頭部をかく。

「お前が真剣だから、適当に返事なんかできなかったし、だから距離を取っちゃってさ……」


 世未は驚いた顔でジョーを見た。


「え……ジョーも?」

「うん。なんか……変に気を使わせたくなかったし、でも普通に接するのも難しくて」


「ほらね!」

 アディが勢いよく手を叩いた。

「やっぱりただの気まずさだったじゃん! 二人とも意識しすぎてただけだよ」


 世未とジョーは顔を見合わせ、少し笑った。


「……なんか、バカみたいだね」

「ほんとだよ」


 ジョーの口元がわずかに緩む。

 ぎこちなさはまだ少し残っているけれど、さっきまでの重たい空気はどこかへ消えていた。


「ま、これでまた前みたいに話せるんじゃない?」


 アディがにっこり笑うと、二人は照れくさそうに頷いた。

 世未とジョーは、アディの仲介のおかげで無事に仲直りすることができた。


 ♦♦♦


 世未がふっと笑みをこぼした。その瞬間、ジョーの胸が高鳴る。


(やべぇ、なんで今更こんなドキドキしてんだよ……)


 ジョーは慌てて自分の胸を押さえながら、軽く咳払いをした。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

ゆっくりペースかもしれませんが、これからも一歩ずつ物語を紡いでいきます。

あなたの時間を少しだけ、いただけて嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ