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第23話 水の神殿の影

「水の神殿の影」は、火の国から召喚された少年たちが、水の国で待ち受ける謎と危機に挑む冒険の物語です。

どうぞ最後までお楽しみください。

 私たちは時間通りに城へ向かい、女王の間に通された。女王らしい青色の長めのドレスに、ティアラをかぶっている。その左右には直近の兵が2人ほどいた。女王に向かい一礼をした瞬間、世未は心臓が高鳴るのを感じた。女王の冷徹な眼差しが世未に向けられ、思わず背筋が伸びた。緊張のあまり、手に汗をかきそうだった。


「お主らは火の国の英雄であると聞いた」


「はい、国王からの手紙を預かってきています」


 ルロンドは手紙を渡した。女王は手紙を読み終えると、ゆっくりと手を伸ばしてそれを破り始めた。その動作に、部屋全体が静まり返り、まるで空気が凍りつくようだった。世未は心臓が速く鼓動し、手に汗を握った。沈黙が続く中、女王の冷徹な眼差しが一行を次々と見渡す。


「我が国と協定など結べぬ。残念だが帰ってもらえぬか?」


 一同は沈黙した。


「そ、そんな……」


 世未は思わず口に出してしまう。


「しかしこのままでは帝国軍の思うままです。考え直してもらえませんか?」


わたくしが帝国と手を結んでから、この国は雨が降らずに水不足に陥ってしまっている。その現状を打破してもらえるなら、協定を結ぶことを考えよう」


「もう少し具体的に話を聞かせてもらえないか?」


「水の国・アクエルには街を出た先に水の神殿がある。そこで帝国軍の配下、イザルト・ヴァルターが何かを仕出かしているようなのだ。おそらく水の国が劣悪な環境なのも、その者が原因だと思われる」


「(イザルト・ヴァルター……一体何が目的なの?)」


 女王が言うには、イザルト・ヴァルターが水の神殿を支配しているとのこと。だが、彼の動機は一体何なのか……その答えは、きっと私たちがこの先進むべき道を示してくれるだろう。


「私だけの力では足らぬ。もしこの国の復興を援助してもらえるなら、火の国との協定、喜んで受けようではないか。まぁ、出来ればの話であるが――。さあ、話はこれで終わりだ。下がれ」


 世未たちはやや強引に側近の兵に外へ押し出される。仕方なく宿屋へ戻ることにした。宿屋に戻る途中、私は少し歩調を緩めて周囲を見渡した。夜の街は静かで、時折風が木々を揺らす音が耳に入ってきた。これから何が起こるのか、予感を抱きつつ、私はルロンド隊長の後ろを歩いた。


 ♦♦♦


 そして初めに口を開いたのはルロンド隊長だ。


「皆、長旅で疲れているところ申し訳ないが、少しだけ情報の整理をしよう」


 それぞれベッドに腰かけながら話を始めた。


「この国の問題は雨が降らないことが原因で水不足に陥っていることらしいな。まずはその理由がわからない限り、無暗に行動することは得策ではないと思う」


「水の国なのに、雨が降らない原因……やっぱり、女王の話に出た、水の神殿の問題でしょうか?」


「イザルト・ヴァルターが水の神殿を支配しているというが、その目的は未だに不明だ。彼が帝国と繋がっていることは分かっているが、その目的が私たちにどんな影響を与えるのか……それを知るには、もっと情報を集める必要があるだろう」


 私は思考を巡らせ、1つ考えが浮かんだ。


「さっき道端で喉が渇いたと言っていたおじいさんがいましたよね?それなら、街の人たちが集まる場所へ行って情報を集めてみるのはどうでしょうか?」


「世未、良いアイデアじゃないか」


 アディは、やるじゃないか、という顔で私の方に親指を立てている。


「そうね、ボクたちも手分けして動けば、より早く情報が掴めるかも♪」


「確かこの街で人だかりが多そうって言えば、居酒屋じゃない?」


 ラトに続いてディーンが話す。よく街のことを見ているようだった。


「決まりだな。じゃあ、2人ずつで行動するか。女性は一人だと危ないから、まずペアの相手を決めてくれ」


「アタイはジョーと行くよ」


「え? 何で俺?」


「同じ剣士同士だろ?仲良くしてくれよ」


 2人が一緒に行動することを目にして、私は目の前に3人いるうち1人だけ選ぶことに少し抵抗を感じた。誰を選べばいいのか、とても悩む。だが、ラトとディーンは横に並んで隣同士、仲良さげな空気を感じたため、消去法でルロンド隊長を選ぶことに決めた。


「ルロンド隊長……お願いします」


「ああ、よろしく」


 何の問題もなくさらりとペアが決まってしまったことに拍子抜けした。これ以上あれこれ考えても仕方ないと判断して、私はルロンド隊長の隣を歩く。


 宿屋を出ると、夜空には無数の星が輝き、まるで手が届きそうなほど近くに感じられた。空気はひんやりとしていて、遠くには不安を感じさせるような風の音が響いている。街の灯りが反射して、幻想的な雰囲気を作り出していた。


 ルロンド隊長は少し黙って空を見上げた。戦争が始まるかもしれない、という現実が彼の心を重くしているのが分かった。ルロンド隊長は一瞬、言葉を飲み込んだ後、低い声で話し始めた。


「無駄な争いは避けるべきだが、もしこのまま帝国が続けば……」


 ルロンド隊長の言葉の裏には、戦争という現実に対する深い不安が滲んでいた。その顔には、戦いの先に待つものへの覚悟が読み取れた。


 その言葉に世未は言葉を詰まらせた。世未は真上を指さして空を見上げるように言った。


「ルロンド隊長、星がとても綺麗ですよ」


 ルロンド隊長は空を見上げ、しばらく言葉を飲み込んでいた。その沈黙の後、彼が口を開く。


「戦争が起きている事自体、嘘のように思う……」


 世未はその言葉に深く息を呑み、空を見上げながら答える。


「私たちが頑張れば、少しは国の役に立てるかもしれないと思って動くしかないです」


 私はふと、ルロンド隊長が言った言葉を思い返す。戦争を避けることはできないのかもしれないが、もし帝国が滅びれば、惑星ファルナは元の世界を取り戻せるかもしれない。そのために私ができることは、進むしかない。


 もしかしたら民だけでなく、冒険者もいるかもしれない。居酒屋は宿屋の通りを左に行った場所にある、と街の地図に描かれている。さっそくルロンド隊長と居酒屋へ向かったのだった。


 居酒屋に入ると、木の温もりと戦士たちの盾や剣が壁に並んでいた。燻しの効いた肉の香りと賑やかな会話が混じり合い、まるで戦の後も続いているかのような活気に包まれていた。


 そんな中、世未とルロンド隊長は、突然、誰かに見られているような気配を感じた。振り向くと、見知らぬ2人組がじっとこちらを見つめていた。その眼差しは、まるでこれから何か大きな出来事が起こることを示唆しているかのように鋭かった。

お読みいただき、ありがとうございました。

この物語を皆さんに届けられたことに感謝しています。

これからも少しずつ成長していけるよう努力しますので、応援よろしくお願いします!

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