第22話 触れるたびに、こぼれる想い
負傷した世未を気遣うルロンド隊長。
その優しさにドキドキする世未と、なぜか苛立ちを覚えるジョー――。
「当然だ」と言い放つルロンドの言葉が、ジョーの胸をざわつかせる。
気づきたくなかった感情が、静かに揺れ動く。
部屋へ着いて一息つこうと思った瞬間、世未はベッドの白いシーツを汚すのは気が引けると思い、近くの椅子に座り込んだ。それに気付いたルロンド隊長が駆け寄ってきた。
「世未、傷の方は大丈夫なのか?」
「えっと、思ったより深い傷になったみたいで……服が汚れて気になりますよね?ごめんなさい」
「謝罪なんていい。肩をちゃんと見せてみろ」
そう言って、ルロンド隊長は世未の肩にそっと触れ、服の汚れた部分を慎重にめくる。傷口を確認すると、わずかに眉をひそめながら、持っていた布で血を拭い取ると、大きめの絆創膏を丁寧に貼った。
「少し沁みるかもしれんが、じっとしていろ」
冷静な声とは裏腹に、その指先はどこか優しかった。
先程、道具屋に寄ったのは、包帯と患部に当てる大きめの絆創膏を買ったためと思われた。
♦♦♦
世未の肩を手当てしながら、ルロンドは何度も微かに眉をひそめた。
(痛みが分かるわけじゃないのに、代われるものなら代わってやりたい……)
と無意識に思っていた。
♦♦♦
「……ルロンド隊長、もしかして、私の怪我を気にして道具屋に寄ってたんですか?」
「当然だろ?」
「ありがとう、ございます……」
世未はルロンド隊長の手が肩に触れるたびにドキドキしてしまい、気付かれないかヒヤヒヤして俯いた。
「なんだ?気分も悪いのか?」
「い、いえ!大丈夫です!(ダメだ……!こんな近くで、落ち着いてなんていられない……!)」
ルロンド隊長の指先がそっと肩に触れるたび、世未の心臓が跳ねた。
「(落ち着け、落ち着け……!)」
目の前にいるのはルロンド隊長。ただの手当て。
なのに、なぜか、頬が熱い。
♦♦♦
手当てを終えて、それぞれがリラックスしていた頃、ラトが機嫌良さげに俺に話し掛けてきた。
「ねえねえ、隊長?世未ちゃんのこと気になってるのねぇ♪」
「何を言っている?俺は隊長として当然の事をしたまでだ」
「えぇ~?そんな風には見えなかったけど?」
続いてディーンも即座に突っ込んできた。
「何を言っている?変な冷やかしは止めてくれ」
♦♦♦
世未の肩の手当てを終え、ルロンド隊長は軽く世未の肩に触れながら言った。
「少しは楽になったか?」
「……はい、ありがとうございます」
ジョーは、そのやり取りをじっと見ていた。世未は、どことなく恥ずかしそうに俯いていた。
(……あいつ、まるで世未の専属騎士みたいじゃねぇか)
ふと、自分の口から言葉が漏れた。
「隊長って、案外優しいんですね。てっきり、もっと冷徹な人かと思ってましたよ」
ルロンド隊長がジョーを鋭く見つめる。
それに気づいた世未が、少し気まずそうに目を逸らした。
「お前は、仲間の怪我を気にかけることもしないのか?」
「いや、そういうことじゃ……」
ジョーは言葉に詰まる。
(……チッ。何を言いたかったんだ、俺は。別に、ルロンドが世未の怪我を気にするのは当然だろ?なのに、なんでこんなに――)
世未が肩をすくめた瞬間、ルロンドの指がわずかに触れた。
その途端、世未の頬が赤く染まり、視線を逸らす。
(……何だよ、その顔)
さっきまで痛そうにしてたくせに、今は――。
(……クソッ。なんでこんなにモヤモヤする)
自分でも分からない感情に、ますます苛立ちを覚えた。
ジョーは無意識に、世未の肩に包帯を巻くルロンド隊長の手を目で追っていた。
触れるたびに、世未の体がわずかにこわばる。
(……何だ?なんか変な空気になってねぇか?)
ジョーは何とも言えない感情を覚えた。
世未が赤くなっているのを見て、心の奥がざわつく。
(……何でこんなにムカつく?)
ルロンドの指が触れるたび、世未は顔を赤くして俯く。
まるで、ルロンドが「特別な人」であるかのように。
(……チッ、くだらねぇ)
そっぽを向きながら、拳を強く握りしめた。
その時、世未が小さく笑いながら言った。
「ありがとうございます、ルロンド隊長……本当に助かりました」
ルロンド隊長は無表情のまま、軽く頷いた。
「当然だ。それが、俺の役目だからな」
ルロンドの声は静かだったが、そこには確かな信念があった。
世未は、ルロンドの言葉をじっと噛みしめるように、ゆっくりと頷いた。
(……当然、ねぇ)
ジョーは、居心地の悪さを感じながら、拳を握り締めた。
(俺が振ったんだ。終わったはずなのに――)
ルロンドの指が世未に触れると、彼女の頬が赤く染まった。
その光景が嫌でも目に飛び込んできた。
ルロンドの「当然だ」という言葉が、やけに響いた。
(――くそっ。なんでこんな気に食わねぇんだよ)
ルロンドが「当然だ」と言い放った瞬間、なぜか心臓がズキリと痛んだ。
まるで、こいつの立場こそが「当然」だと言われたみたいで――。
(……ふざけんな)
それを認めるみたいで、余計にムカつく。
ジョーは何かを振り払うように、深く息を吐いた。
けれど、握り締めた拳は、なぜか力を緩めることができなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!✨
登場人物たちの心の揺れや、それぞれの想いが伝わっていたら嬉しいです。
これからも物語を楽しんでもらえるよう、心を込めて書いていきますので、応援よろしくお願いします!




