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第18話 俺が手放したのに、なんで……?

「俺が手放したのに、なんで……?」

振ったのは、俺なのに。

でも、あいつが他の男といるのを見た瞬間、心の奥がざわついた。


旅の途中、検問所での交渉が待ち受ける。

そして、知らぬ間に絡み合う感情――これは、未練なのか?それとも……。

 昨夜は、深夜を過ぎてからようやく眠れた。

 翌朝、身支度を整えてロビーに向かうと、すでに皆が揃っていた。しかし、どこか空気が張り詰めている。今日は検問所での交渉があるため、皆が慎重になっているのかもしれない。


 「おはようございます」

 

 一礼しながら皆の顔を見渡すと、不思議と元気が湧いてきた。

 今日はいよいよ検問所に行く予定だ。上手く話がまとまるといいのだけれど……。


 ♦♦♦


 昨夜、ジョーは偶然、世未とルロンド隊長が抱き合っている所を目撃してしまった。

 

(あの2人、いつの間にそんな仲になったんだ……?)


 俺が世未を振ったんだ。それは確かに、俺が決めたことだ。


 ――だけど。


 まるで胸の奥をかき乱されるような、このざわつきは何だ?

 世未はそんなにすぐ、俺のことを忘れられるはずがない。アイツはそんな軽い女じゃない。


(……いや、そもそも、忘れるとか、そういう問題なのか?)


 俺が手放したのに、今さら何を考えてるんだ。

 自分で決めたことに、こんな風に動揺するなんて……バカみたいだ。


(でも、あの隊長が、もし世未を――)


 考えたくもない想像が頭をよぎる。

 握りしめた拳に、爪が食い込んでいることに気づいて、俺は慌てて開いた。


(クソ……なんで俺がこんな……)

 

 ♦♦♦


 「ハックション!」

 

 不意にくしゃみが聞こえ、目線を移すと、ルロンド隊長が鼻をすすっていた。


 「風邪、引いたんですか?」


 「昨日の雨のせいか、少し寒気がするな……ゴホッ」


 「へぇ、隊長も人間らしいとこあるんだな?」

 

 ルロンド隊長がじっとジョーを見つめる。

 

 「……どうした?」

 

 ジョーはそっぽを向いた。


 「別に」


 そう言いながら、ルロンド隊長は短く咳き込んだ。

 そのまま咳を振り払うように首を回し、マントの襟を立て直す。

 よく見ると服を厚着しているようだったが、少し気になるので今日は特に気にかけておこうと思った。

 

 ♦♦♦

 

 私たちは検問所の前で立ち止まり、通行の許可を求めた。


「ん? お前はこの間の男か。悪いがここは通せん。モンスターが増殖していて危険だからな」


「その話なんだが、俺たちがモンスター退治を引き受けたい」


 

「承知している。それでも進むと決めた」


「正気か? 最近のモンスターは以前よりも凶暴化している。迂闊に手を出せば命を落とすぞ」


「承知している。それでも進むと決めた。自分たちの身は自分で守る」


 兵士はため息をつき、無線機を取り出して何かを伝えた。しばらくして、耳元の通信に応じる。

 

「……上官から許可が出た。ただし、責任はお前たち自身で負うんだな?」

 

「それが、俺たちの選んだ道だ」


 ルロンド隊長の静かながらも揺るがぬ口調に、検問兵はため息をついた。しばらくルロンド隊長の目を見つめていたが、やがて観念したように通行書を確認する。


「……わかった。無理はするなよ」


 ルロンド隊長は無言で頷き、通行書を受け取ると前を向いた。私たちはそのまま検問所を通過し、静かに門が閉まる音を背に受けながら歩き出した。


 ここからは、より一層気を引き締める必要がある。手元の地図を確認しながら、私たちは水の国への最短ルートを進んだ。しばらく平坦な道を歩いたが、やがて遠方に見えるモンスターの群れに気づき、足を止める。

 

「アタイたちは先に偵察してくるから、少し待ってな」


「なんで俺も?」


「文句言わずにアタイと行くんだよ」


 はいはい、と気の抜けた返事をして、アディとジョーが敵の動きを確認しに向かった。ジョーと二人きりなんだと思うと胸がざわつくが、少しホッとしていた。


「(少しの時間でも、ジョーの姿を見なくてすむ……複雑だけど、今は自分の気持ちと向き合うことが大事だよね)」


 ♦♦♦


 「しっかし、世未もだいぶ元気になったよなー。前までジョーにべったりだったのに」

 

 「……もう関係ない。」


 そう言いながら、ジョーは無意識に拳を握りしめる。爪が掌に食い込むほど力を込めていることに気づき、慌てて開いた。

 ――自分で振ったくせに、何を動揺してるんだ、俺は。

 

 「ん? 何だって?」

 

 「……別に、お前には関係ねぇよ」


 舌打ちしそうになった瞬間、ジョーはグッと奥歯を噛み締めた。唇の端がピクリと動くのをアディに見られたくなくて、すぐに表情を整える。だが、胸の奥で渦巻く苛立ちは消えなかった。

 

 「ん~? アタイ、気になるんだけど?……まぁ、いいや!(……ジョーの言い方、なんか変じゃね?)」


 ♦♦♦


 私が黙々と考えていた隙に、ディーンが隣りにやってきた。


「ねぇ、お姉ちゃん。魔法の扱い、ちょっとアドバイスしてもいい?」


「え? ディーンが?」


「うん。ボク、火の魔法は使えないけど……そのかわり、お姉ちゃんの魔法の"癖"が分かる気がするんだ」


「癖?」


 ディーンは少し前に出て、私の手元をじっと見つめる。そして、魔法を撃つときの私の腕の動きをマネしながら説明を始めた。


「お姉ちゃん、火の魔法を撃つときに力を入れすぎてる気がする。もっとこう、"ふわっ"て意識して、肩の力を抜くといいよ! 手のひらで風を感じるイメージでさ!」


「ふわっ……?」


「(そんな簡単なことで変わるの?)」


 半信半疑で試してみると、今までよりも"軽く"魔法を撃つ感覚があった。


「……あっ、撃ちやすい!すごい!ディーンってやっぱり天才じゃない?」


「えへへ、お姉ちゃんのために頑張ってるからね!」

 

 ディーンがちょっと照れくさそうに笑う。その表情を見て、自然と私も笑みがこぼれた。


「でも、まだまだコントロールが甘いね。もっと練習しよう!」


「うん! じゃあ、今度特訓してね!」


「もちろん! そのかわり、お姉ちゃんも僕の剣の練習に付き合ってね!」


「え、待って、私って魔法使いなんだけど!?」


「魔法もやるけど、お姉ちゃんが動きながら魔法を使うのも練習したほうがいいと思うんだ!」


「な、なるほど……ディーン先生、よろしくお願いします!」


 私たちは顔を見合わせて笑った。戦いの前に、なんだか気持ちがすごく軽くなった気がした。


 けれど――このひとときの安らぎが、長く続くことはなかった。

 風が変わる。どこからか、ざわりと揺れる樹々の音が聞こえた。


「……ん? 何か、変じゃない?」


 ディーンが小さく眉をひそめる。その表情に、胸の奥がざわついた。

 まるで、大地そのものが静かに何かを警告しているかのようだった――。

読んでくれてありがとう!✨

ジョーの揺れる気持ちと、旅の行方……どうなるのか気になるところ。

次回は、さらに不穏な展開へ――。

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