第16話 振られた夜、私を包んだのは
雨が降る夜、心も冷たく染み込んでいく。
告白して、振られた私。
そんな私を包んでくれたのは――。
***
恋心の揺れと、仲間の優しさが交差する回。
ぜひ、本編へどうぞ!✨
「……俺は検問所を通してもらえるかどうか聞いてくるから、皆はここで待っていてくれ」
ルロンド隊長は一言そう告げると、一瞬だけ世未の顔をじっと見た。
降りしきる雨が、隊員たちの肩や鎧を濡らしていく。だが、世未の様子は雨の冷たさとは違う、どこか沈んだものを感じさせた。
(……気のせいか? いや、さっきからずっと元気がないように見えるが)
雨に紛れるように、その瞳にはどこか陰りがある。
ほんの一瞬、何か声を掛けようとしたが、迷った末に言葉を飲み込んだ。
今は検問所の確認が最優先だった。軽く頷くと、そのまま足早にその場を離れる。
背後で聞こえる雨音が、世未の気持ちを映すように静かに響いていた。
♦♦♦
「世未、顔色が悪いよ? 大丈夫かい?」
アディが声を掛けてくれた。アディは世話焼きなのか、隊全体を見ている気がする。
「うん、ちょっと悩み事。でも大丈夫。旅に支障が出ないようにするから」
私は作り笑いをして、なんとかその場をやり過ごした。
「(隊の皆が気付くほど顔に出ちゃってるのかも? しっかりしよう)」
両手で顔を軽く叩き、気持ちを切り替える。
数分後、ルロンド隊長が戻ってきた。肩の鎧には雨粒が滴り、濡れた前髪が額に張り付いている。雨は勢いを増していて、彼の背後の空は灰色に染まっていた。
「結論から言うと、どうやら今は検問所は通れないらしい」
「何があったんですか?」
「話によると、検問所と水の国の通路付近にモンスターが増殖しているらしい。手数が多くて国も対応に困っているらしくてな」
「それなら僕たちの魔法でパパッとやっつけちゃおうよ!」
ディーンは張り切っている様子だ。
「隊長さんが戦う援護ならボクも手伝うよ♪」
続いてラトも話に乗ってきた。
「ふむ。確かに俺たちが全員揃えば、モンスター退治も出来るかもしれないな」
「じゃあアタイたちが先に偵察をやるさ。その方が安全だろ?」
「偵察をするなら、俺も行くよ。アディ一人じゃ危ないよ」
ジョーはアディの身を心配している。世未は振られた直後なのでとても複雑な気持ちになったが、その意見に賛成だった。
雨の勢いが強くなったため、落ち着くまで近くの街で休息を取ることにした。
♦♦♦
宿屋で二人部屋を取ることができたので、私とアディの二人で部屋に向かった。
廊下は木造で、ところどころ年季の入った飾り棚が置かれている。雨音が窓を叩き、薄暗いランプの光がベッドのシーツを照らしていた。
私は荷物を近くに降ろし、ベッドに飛び込む。
「はぁ~、もうクタクタ。久しぶりに長く歩いたなぁ」
「お疲れさん。どうやら水の国まで折り返しってとこらしいよ」
「遠い……ご飯までゆっくり休もう」
「それがいいさ」
「(相部屋がジョーと一緒だったら気まずかったかもしれない。アディと一緒で良かった)」
その直後、心身共に疲れていたのか、すぐに深い眠りに落ちた。
♦♦♦
目が覚め、窓の方向に目をやると、夕方になっていた。
「(よく寝たなぁ……おかげでスッキリした)」
隣に目を移すと、アディもベッドで眠っていた。私を起こさないように気遣ってくれていたのかもしれない。
私はベッドから静かに降り、足音を立てないように部屋を出た。
♦♦♦
宿屋の一階にあるロビーのようなスペースへ向かうと、そこにルロンド隊長がいた。
近くまで駆け寄ると、パタパタと走る足音に気が付いたのか、ルロンド隊長がこちらを見た。
「部屋が静かだったが、眠ってたのか?」
「え? はい、私もアディも寝てたみたいです。おかげさまで体力回復です」
「それなら良かったな」
「ルロンド隊長はずっと起きてたんですか?」
「俺はジョーと少し話をしていた」
何の話をしていたのかとても気になるが、今はジョーのことを思い出すと辛いので、聞かずにおいた。
「どうした? さっきまで普通に話していたのに、急に顔色が変わったぞ」
「えっ、いえ、何でもないです。……なんでも――」
本当は強がって笑ってやり過ごしたかった。でも、喉の奥が詰まって、声が出ない。
息を吸い込もうとした瞬間、込み上げてきた感情がせき止められなくなった。
「……っ、うぅ……」
気づいたら、涙が頬を伝っていた。
「! ……えっと、俺が何かしたか?」
「違うんです……」
どうしようもなく、感情が溢れてくる。こんな場所で泣きたくなんてなかったのに。
ルロンド隊長は最初、驚いた様子だったが、すぐに表情が柔らかくなる。困ったように眉を寄せながらも、ため息まじりに微笑んだ。
「仕方ないな……」
ルロンド隊長は、小さくため息をついた。
「泣きたいなら、ここに来い」
優しく、けれど揺るぎない声だった。
戸惑いながらも、ルロンド隊長は少しだけ腕を広げた。ためらう私を見て、困ったように小さく笑う。
一歩、足を踏み出す。でも、その先に進むのが怖かった。
「……甘えても、いいの?」
自分でも驚くほど小さな声が出た。そう思った瞬間、涙がまた溢れた。彼は静かにうなずく。
「いいんだ。今くらいは、甘えても」
「ルロンド隊長……」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。気づけば、体が勝手に動き、彼の胸に飛び込んだ。
温かい手が、私の背中を優しく撫でる。
「私……ジョーに告白して、振られたんです……」
静かな声が、耳元に落ちる。
「まぁ、今は俺に甘えていい。泣いてもいい」
「(そんなに甘く優しい声で囁かれると、気持ちが変になりそう)」
優しく背中を撫でる手が、余計に涙を誘った。
心の奥で絡まっていた感情が、ほどけていく気がする。
今だけは、何も考えずに泣いてもいいよね――。
そして私は、ひたすらルロンド隊長の胸の中で泣き続けたのだった。
雨はまだ降り続いていた。でも、不思議と少しだけ温かい気持ちになった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!✨
世未の心が大きく揺れる回でした。
彼女はこの夜を越えて、何を見つけるのか――。
次回もお楽しみに!
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