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第15話 雨の中の距離

雨の中、揺れる気持ち。

ジョーとどう向き合うべきか、答えはまだ見えなくて——。

 ラトと一緒に正門まで行ったため、特別迷うことなく着くことができた。みんな思っていたより早く着いていたことに驚いたが、点呼を取っているルロンド隊長は呟く。


「まだジョーは来ていないのか」


 体がビクっとした。振られてからそんなに時間も経っていないし、いつも通り顔を合わせることができるかとても不安だった。


 「お待たせしました~!」


 背後から元気な声が響く。振り返ると、息を切らしたジョーが片手を挙げて笑っていた。ジョーの姿を見た瞬間、私はほっとする気持ちと同時に、どう接していいのかわからない不安が胸に広がった。自然に笑えるだろうか?それとも顔がこわばってしまうのではないか。自分の表情を気にするあまり、周囲の笑いにも遅れて反応してしまった。


 「みんな、待ったよな?遅くなって悪いなー」


 無邪気な笑顔で周囲を見渡すジョー。時計を確認したけれど、遅れているわけでもない。


 「ジョーの行動は想定内だ」


 「どういうことッスか!?」


 笑いが挙がる中、私の心境はとても複雑だった。周りに合わせて笑えているだろうか、ジョーに対して普通の態度でいられるか、とても気になった。


 そんな中、メンバーも全員揃ったので水の国へ出発する運びとなった。そこで、見覚えのない3人の女性が門で待ち構えていた。


「ルロンド様、お慕いしております!」

「これ、旅のお供にどうぞ!」

『行ってらっしゃいませー!』


 ファンの女性たちは手を振りながら見送る。ルロンド隊長は、少し困ったような笑みを浮かべながら、手渡された荷物を丁寧に受け取った。『ありがたいことだが、これ以上は困るな』と心の中で思っているのだろう。その様子が、ファンへの誠実な対応と微かな戸惑いを同時に感じさせる。


 ルロンド隊長はその荷物を受け取り、お礼を言った後に火の国を出発した。


「隊長、おモテになるんですね?」


 と尋ねると、彼は肩をすくめて


「そんなつもりはないんだがな。熱心すぎると、さすがに困る時もある」


 と控えめに答えた。その一言に、彼の冷静で控えめな性格が垣間見えた。


 「(無自覚色男……っていうやつかな?でも、こんなに整った顔立ちで目立つ立場だもの、女性ファンも出来るよね)」


 1つ気がかりなことがあった。作戦会議の話では、火の国と水の国の関係が良くないと聞いていた。そのため、これから待ち受ける交渉への不安が胸を締め付けた。国王は話を聞いてくれるのだろうか?しかし、今不安になった所で何かが解決するわけでもないので、ルロンド隊長から詳しく聞いてみることにした。


「水の国王様は、私たちに会って貰えるんでしょうか?」


「実は、国王から手紙を預かってきた。何もないよりはマシだと思うが……正直、会ってみなくては俺にも分からない」


 その手に持っている手紙と、もう1枚何かを持っているように見えた。


「もう1枚は、何ですか?」


「気付いたか。これは通行許可書だ。特定の者しか通れない検問所があるらしくてな」


「厳しく取り締まってるんですね」


 不安に思っていた緊張の糸が少し解けたようだった。ずっと不安になっていても仕方ないと思いつつも、会話を通して気持ちが和らぐ。『1人ではない』その実感が、私にとって大きな支えになっていた。


 ルロンド隊長の持つ地図を見ながら、私たちは道を進んでいた。冷たい雨粒が頬を打ち、湿った空気が辺りを包み込んでいく。雨音は徐々に強さを増し、足元が滑りやすくなっていった。


「雨が降ってきたな……急ごう」


 ルロンド隊長の指示で、みんな走り始める。私もそれに着いて行こうとしたが、道がぬかるんでいたせいで転んでしまった。


 雨粒が髪に張り付いて視界が曇る。土のぬかるみが足元に絡みつき、立ち上がろうとするたびに、手が濡れた地面に沈んでいった。そんな時、視界にジョーの手が差し出された。


「大丈夫?立てる?」


「う、うん……。大丈夫、1人で立てるから」


 転んだ私に駆け寄るジョーの姿が視界に入ると、一瞬、助けてほしいと思った。けれど、私がそんな気持ちを抱くこと自体、彼との距離をどう取るべきか迷っている証拠に思えて、言葉に詰まってしまう。


 ジョーが駆け寄ってきてくれたその瞬間、私は嬉しい気持ちと同時に、どう接していいのかわからない不安が交錯した。私はジョーとの距離感がわからず、顔も見ないで他の皆の元へ走った。


「(咄嗟にでた言葉とはいえ、ちょっと態度が冷たかったかも……どうしたらいいんだろう)」


 俯いたまま走るとまた転ぶと思い、顔を上げて検問所へ向かった。そこには屋根がついている休憩所があったので、雨をしのげそうだった。


 屋根の下で雨音が強く響き渡る。『ぽたぽた』という音が一定のリズムを刻み、冷たい風が濡れた服を通り抜けるたびに、体が小さく震えた。休憩所の柱に背を預け、少しずつ落ち着きを取り戻す。


 さほど濡れずに済んだので、びしょ濡れになることはなかった。時計を見ると、かれこれ3時間ほど歩いたことになる。


「世未。これを使え」


 顔のすぐそばにあったのは白いタオルだった。


「転んで濡れた分、体調を崩すと困る。ちゃんと拭いておけ。」


「はい……。ありがとうございます」


 濡れた髪を丁寧に拭きながら、私は考えてしまう。私は知らないうちにジョーを避けているのかもしれない。その思いが心に影を落としていた。


 ルロンド隊長からタオルを受け取りながらも、気になるのはやはりジョーのことだった。私は自分の態度が冷たかったのではないかと、ずっと後悔している。

『どうしたらいいんだろう』その言葉が心の中でぐるぐると繰り返されるばかりだった。

読んでいただきありがとうございます!

世未の心の揺れが、少しでも伝われば嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
とても読みやすくて楽しめました。 第五部隊の仲間たちがやさしくて、魅力的ですね。 ジョーとの関係がどうなっていくのか、世未の力の秘密が一体何なのか…とっても気になります。 ありがとうございます(*'ω…
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