第14話 涙の跡から始まる旅路
昨日の出来事が胸に残るまま、世未は新たな旅路へと踏み出します。別れの痛みと、これから始まる未来への期待が交錯する中、彼女を支える仲間たちがそばにいてくれることの大切さを改めて実感する瞬間――。静かに流れる時間の中で、世未の心が少しずつ動き始める、そんな物語です。
昨日の言葉が頭をよぎる。――あの一言で、全てが終わった気がして……。
早めに床へ就いたおかげで、早く目が覚めた。鏡を見ると、瞼が赤く腫れ上がっている。目元を冷やしながら旅支度をしていると、手帳から一枚の写真がひらりと落ちた。
「(この写真……高校の入学祝にジョーと撮ったものだ……)」
ジョーと過ごした日々が脳裏をよぎるたびに、胸が締め付けられる。
バタバタと準備することになってしまったが、なんとか荷物はまとまりそうだった。目元の腫れが引かないため、ラトに相談しようと思い、部屋を移動した。
トントンと扉をノックする。
「(今思えば、旅支度で忙しい時かも……ラト、大丈夫かな?)」
ガチャリとドアが開き、明るい表情でラトが出迎えてくれた。
「おはよ。世未ちゃん、どうしたの?目が腫れてるけど……」
「うん、ちょっと腫れが治らないからラトに相談しに来たの」
「そう、じゃあちょっとメイクルームで待っててくれる?ボクも支度が終わったら急いで行くから」
やはりラトも身支度を整えているようだった。少し時間ができたため、私も部屋に置いてきた荷物を取りに行ってから、メイクルームへ向かうことにした。急いで来た道を戻ろうとして、誰かにぶつかった。
「おい、大丈夫か?」
ぶつかった相手がジョーの幻影と重なる。しかし、目の前にいるのはルロンド隊長だった。
「すいません、ちょっと急いでて前が見えてませんでした」
「まあ、この後出発だから急ぐ気持ちはわかるが……。どうしたんだ、その目は」
立ち塞がっていたためか、ルロンド隊長はしゃがんで片膝を着き、綺麗な碧色の瞳で私の顔を覗き込む。一瞬、その瞳に吸い込まれそうになり、心臓が高鳴る。何かを言おうとしたが、思わず視線をそらしてしまった。
「昨日、ちょっと辛いことがあって……だから目が腫れてるんです。すいません、待ち合わせしてるので……これで失礼しますね!」
急いでその場を去り、メイクルームへ向かった。
♦♦♦
恥ずかしさのあまり、勢いよくその場を去る。次、ラトに会うまでは誰とも鉢合わせませんようにと願いながら、準備していた荷物をまとめて部屋を出る。しばらく旅に出る間、この部屋に戻れないという現実がじわりと胸を締め付ける。でも、扉の向こうには新しい未来が待っている。そう信じて、一歩を踏み出した。
「この部屋で過ごした時間が、私をここまで支えてくれた……でも、これからは違う。自分で前に進むんだ。」
扉を閉めた瞬間、この部屋との別れを実感した。何もかもがここで始まり、今、新たな一歩が踏み出される。これからの未来を思い、胸が高鳴った。そしてメイクルームに急いだ。急ぎ足で来たので、まだラトも来ておらず、しばらく待つことにした。
♦♦♦
「(すごく急に相談に行ったにも関わらず、対応してくれるラトは凄いなぁ。もうすぐ来るかもしれない)」
と時計を確認していたら、ラトがやってきた。軽やかに歩み寄りながら、「待たせたね!」と微笑むラトの姿が、まるでステージの主役のようだった。
「待たせたね!さて、メイクを始めようか♪」
その言葉に、自然と笑顔がこぼれる。
「良かった、世未ちゃん笑えるわね。さっきは元気なさそうだったから心配したのよ」
「ごめんね、心配かけちゃった。」
謝る私に対しても笑顔を絶やさないラトは、輝いているように見えた。そしてテキパキと手を動かし、メイクを手掛けてくれる。その手際の良さに感心しながら会話する。
「ボクは大丈夫♪世未ちゃん何かあった?」
「うん、ちょっとね……。(流石に昨日振られたなんて言えないや)」
「……こんなに目を腫らすほどの何かがあったんでしょうけど、まぁいいわ。言いたくなったらいつでも教えてね♪……でもね、時々、自分の気持ちを整理することも大事よ」
「……うん、そうだね。ちょっと考えてみる」
ラトの言葉を聞きながら、自分はまだ誰かに頼ってばかりだと気付いた。でも、この旅では少しずつ変わりたい。そんな思いが胸をよぎった。
ふと、何を思ったのか、ラトの顔が赤い。
「その笑顔、反則級に可愛すぎ……。誰にでも見せちゃ駄目よ~♪」
「えっ……!?」
私は驚いてしまって上手く言葉が出てこなかった。慌てる私をよそに、ラトの手は素早く動く。仕上がった顔を見て、自分でも驚いた。先程まで腫れていた赤みが全く目立たない。
「次は髪を整えるわね。そうね、今日は旅の始めだし、記念だと思って仕上げましょうか♪」
「お願いします」
と言うと、髪にオイルを丁寧に塗り、アイロンで長い髪を内側に巻き付ける。前髪も少し巻いてもらって、いつもよりオシャレに見える気がする。素早く仕上げるテクニックはプロ並だと思えた。
「世未ちゃん可愛いじゃない♪これ、プレゼントするわ♪ 旅のお守りになるリップよ。」
差し出されたリップを手に取ると、旅の不安が少し和らいだ気がした。
「ありがとう、ラト……」
ラトが手渡してくれたリップは、まるで光を放つように美しかった。それはただの化粧道具ではなく、私に勇気を与えるお守りのようだった。ポケットにリップをしまいながら、これが新たな一歩になるのだと実感する。
ラトが明るく手を差し伸べながら言った。
「それじゃあ、世未ちゃん、行こう!新しい冒険の始まりだよ♪」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
世未の心の揺れや仲間との絆を感じていただけたら嬉しいです。新たな旅の幕開けとともに、彼女の成長を見守っていただけたらと思います。次回もどうぞお楽しみに!