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第65話 頬に伝う涙

「うるさい、ダマれ」


 ――うるさい。うるさい。うるさすぎる。静かにしてほしい。

 りえは動かない。微動だに動かない。

 それもそのはずだ。りえの口の前には血の色の水たまりがあった。

 おそらく血を大量に吐き出したのだろう。

 目はあいてない。

 

 りえの整った顔は戦闘のせいで傷だらけである。

 服もボロボロで真っ赤に染まっている。

 ――悔しい

 ……何もできなかった自分が。

 ……何もできない自分が。


「ア、アオイ君…… 」


 ――あぁ。まただ。

 また、僕は何もできなかった。

 あの日、あの時、あんなことがあったのに、僕は今の今までこの世界来てから一体何をしていたのだろうか。

 りえを失う恐怖におびえ、自信も生と死をさまよい、女神様のおかげで生き延びられたというのに、僕があれからやってきたことと言えば、何だ?

 ゾンビから哀れにも逃げ惑い、王女様にまたもや助けてもらい……。王城での生活だって、客人として、ぬくぬくと平和に過ごし、自分のことを思って付けようとしてくれている稽古に文句を言い、やる気もなく。なんの志もなく。ただその日その日を生きていた。


 あれ? この頬を伝う涙は何に対するものなんだろう。

 固い地面上にそのままのせておくのもかわいそうで、せめてと思い膝の上に乗せたりえの前髪に手櫛(てぐし)を入れていると、涙の粒が一滴、二滴とりえの傷ついた整った顔に落ちていく。

 

 ――これは怒り?

 いや、こんな僕に憤る(いきどおる)資格なんてない。

  ――これは嘆き? 後悔? 苦痛?

 一体何を? なぜそんなことを僕は思う?

 一体どの味がするのだろうか。この水は。


「は? なによ、その態度? あたちはね、五大神が一柱、大地のガイアちゃまなのよ。あんたみたいな人間ごときが神様にむかってなんていう態度なのよ。殺されたいの? 」


 神様か。

 あぁ、女神様か。

 女神様ならば、りえを助けられるのだろうな。


 ……確か、あの時。

 もとの世界で僕とりえが殺されそうになったとき、あの人は命をつなぎ止めてくれた。

 回復魔法を使い、僕たちを助けてくれた。

 あの魔法の名前は確か……


「――無秩序の治癒(カオス・アナスタシー)

「え? これは……」

「はぁ!? なんであんたが”無秩序の力”が使えるのよ!? 」


 え? まぶしい。

 手櫛を入れていた右手の先が熱い。

 どうしてだろう。なぜだろう。

 ……は? りえの傷がみるみるうちに治っていく。整ったきれいな顔がだんだんともとの状態に戻っていっている。

 そして、りえが目を開けた。

 ゆっくりと。間違いない。これは回復をしている。

  ……なんで? どうして? 女神様のおかげなのだろうか?


「――間違いない。間違いないの。”無秩序の力”を使っているわ……。ということは……あんたが……”カギ”なのね……」


 さすがは女神様だ。

 僕たちのピンチを悟って助けに駆けつけてくれたのだろう。

 本当にさすがだ。すごすぎる。


「――ん……? ――あ……お……い? 葵なのね……」


 りえは目をゆっくりと開けると、安心したかのようにそう小さくつぶやいた。


「——ありがとう。葵! 」


 ――あぁ……。

 その笑顔を向ける方向、ちゃんと考えた方が良いんじゃないかな?

 僕はそう思いながらも、自分の唯一つの取り柄である幸運に歓喜した。

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