第24話 いわゆる一種のパニック
「そういえば、違う世界から来たと言うことは分からないことが多いのではないですか? もしよければ、しばらくの間この世界のことについてお教えしましょうか」
「お! いいねぇ。分からないことだらけでいろいろと知りたいことがたまってたのよ。お願いしてもいい? 」
「そうだな。僕からもお願いするよ」
この世界のことを教えてくれると言うことは、異世界ファンタジーのド定番であり、男のロマンである魔法についても教えてくれるのだろうか。
完璧な最強主人公となった僕たちならやり方をちょっと教えてもらっただけで、この世界を無双できるほどのとっておきチート魔法なんかも使えるようになるに決まっている。
「わかりました。私は爺やに伝えてきますので、今日はここら辺で失礼させていただきます。また三人でお話ししましょう」
爺やというのは、ゾンビの群れに襲われ、エマに助けてもらって王城まで連れて行ってもらったときの、城門の前に立っていたベテランの守衛さんであるハンネスさんのことだろうか。
爺やに伝えるということは、ハンネスさんが僕たちに教えてくれると言うことだろうか。
「じゃあね~」
「またな」
僕とりえがバイバイと手を振りながらそう言うと、エマはなぜかちょっとうれしそうに頬を緩ませた。
どうしてだろうかと不思議に思っていると『それでは』といって客室から出て行ってしまった。
一体どうしたのだろうか。
「ねぇねぇ。この世界のことについて教えてくれるということは、剣技とかも教えてくれるのかな? もしかしたらエマがゾンビの群れを倒したときに使った剣技みたいなのも使えるようになるかな」
りえは魔法ではなく剣技に興味があるようだ。
確かにエマがゾンビの群れを一瞬で消し炭にした『調和の大春車斬』はすさまじかった。
使えるようになりたい気持ちは痛いほど分かるのだが……。
「確かにかっこいいけど、異世界ファンタジーのせかいでは王女様が最強な力を持っているのはあるあるなパターンだし、あの威力と言い、あの美しい見た目といい、そう簡単には使えるようにはならない気もするけどね……」
「そうだよね……」
「ただし! それは普通の人の場合であって、異世界召喚され完璧な最強主人公となった今の僕たちなら一瞬で使えるようになったってなにもおかしくないし、りえも案外使えるようになるかもね! 」
そう僕は笑顔で言った。我ながらなんて優しいんだろうか。
「またぁ、完璧とか、最強とか、主人公とか夢物語みたいなこと言い出した。そろそろ現実を見たら? まぁ、私も人のこと言えないだけどさ。私たちってさ、中学生にしたらちょっと頭が良いだけのどこにでもいる女子中学生と男子中学生だと思うんだけど」
りえが怖いことを言い出した。
『現実を見たら? 』という言葉には一切あおりのような感情がこもっておらず本気で言っているようであった。
僕もうすうすは分かっている。でも、それを認めたらどうにかなってしまいそうなのだ。
特に文句があったわけでもない日常生活を突如として失い、家族も友人もりえ以外はすべて失ったと言っても過言ではない。
それで得たものが何もないなどととてもじゃないが、認められない……認められない……認められない!
そんなことはないに決まっている。
「そ、そんなことは……」
同様のあまり凄く細い声が出てしまった。僕らしくない。
僕は『らしく生きる』という言葉が大好きで僕の座右の銘でもある。
今の時代、座右の銘を聞かれることはほとんどないので、考えたことすらない同級生がほとんどだった。
正直僕も時間をかけて決めたわけではない。
小六の時に初めてこの言葉を担任の先生から聞いたとき、なぜかこの言葉に胸を打たれたのでなんとなく座右の銘にしたのだ。
人間は一人一人がそれぞれの美しい個性を持っている。どうせなら、その個性を隠すよりそれを認め、それを十分に発揮し、自分の生きたいように生きれば良いと僕は思うのだ。
しかし、今の僕は自分らしくない。 言い換えれば自分の個性を十分に発揮できていないのだ。
これは僕にとって非常にまずいことである。冷や汗がしたたり落ちてきた。
……どうすればいいだろうか。
そう考えれば考えるほど、僕が僕らしくなくなっていく。あぁ、誰か助けてほしい!
コン、コン、コン
「失礼します。お二人の指南役となりましたハンネスと申します。今よろしいでしょうか」
ちょっとした一種のパニックに陥っていた僕にとって、これは救いだ。話を変えるにはまさにぴったりだ。そう思い、僕は今までのパニックを悟られないように気をつけながら言った。




