第14話 一輪のコスモスの花
「調和の大春車斬!!! 」
すべてを投げ出した僕の前に突如として現れた一人のかわいらしい少女の可憐な剣技によって、ゾンビの群れが一瞬にして灰と化した。
たった剣を一本でこれほどの威力を出せるとはまさしく異世界ファンタジーの世界だ。
――かっこいい!
僕もいつかこのような剣技が使えるようになるのだろうか。
僕らを取り囲んでいたゾンビの群れを一瞬で消し炭にしたあの衝撃波どのようにして出しているのだろうか。
少女を中心として同心円状に一瞬にして広がっていった桃色をした衝撃波は美しく、まるで一輪のコスモスの花のようであった。
その剣技は僕を一瞬にして虜にした。
――あの剣技を僕も使えるようになってみたい!
そう心の底から思った。
「大丈夫ですか? 」
かわいらしい少女は、首をかしげながら僕たちにそう尋ねた。風になびく彼女の髪は、透き通るような薄桃色の髪からはどこか上品さを感じられた。
どこかの貴族のお嬢様なのかもしれない。
歳はおそらく僕とりえと同じくらいだろう。
……おっと、こうしてはいられないな。助けてもらったのだから一刻も早くお礼を言わなければ。
しかもこれは、異世界に来てからの初めてのりえ以外の人間とのコミュニケーションである。
……ん? 普通に日本語で話せば相手に伝わるのだろうか? むこうも『大丈夫ですか』と日本語を口にしていたので問題ない気もするのだが、本当に日本語を話しているのだろうか?
異世界でも日本語がつかわれているとは考えにくい。異世界なのだから異世界語とかではないのだろうか?
……まさか! 女神様が僕たちが困らないようにと異世界語を理解でき、話せるようにしてくれたのではないだろうか。さすが女神様だ。
異世界ファンタジーの世界でも何かしらの原因で不思議と理解できるし、話せるようになっているという展開は定番である。
話せると分かったなら、次はどんなことを話すかだ。
ここで好印象を与えておくことが重要だとアニヲタの僕の勘が告げている。
「助けてくれてありがとね。見ての通り元気だから心配しないで大丈夫よ」
りえのお礼はまさにシンプルだ。
……決めた。
僕は、この子が惚れてしまうくらいの、イケボな声でお礼を言おう。お礼もただのお礼ではなく、僕のたぐいまれな言葉選びのセンスで適当にかっこつけて言ってみよう。