98 故郷へ
ラトゥスを出港した俺たちは、魔王国の王都サガットに寄港した。
親父たちに状況を伝える。
「そうか、馬鹿な奴らだ」
「それでどうするんだ?」
「しばらく放置だ。油断させ、疲弊させる。それでその間に故郷に帰ろうと思ってな」
「姉貴も喜ぶよ」
ということで、俺たちは親父たちと故郷のドレイク領に戻ることになった。俺たち家族とベイムとマロンがクリスタリブレ号に乗船する。カインとメアリーは小型艦ジェミニ号に乗船した。親父が言うには遠洋航海の実習も兼ねているそうだ。
それにカインとメアリーも他の水夫たちもスパイシアに留学という形を取り、ドレイク領で仕事をしながら、しばらく暮らすそうだ。
「魔王国では、若くて優秀な者は積極的に留学という形で他国に修行に行かせるんだ。その者たちが、それぞれの国で情報を取って来る。カインもメアリーもいい頃だと思ってな。私たちの故郷でもあるし」
「姉貴がいれば大丈夫だよ。それにパウロっていう家庭教師もいるしな」
「うむ、お前たちと離れたのも、これくらいの年齢だったか・・・大きくなったものだ」
そんなしんみりとした空気の中、アトラはお袋に自分のスピードを見せ付けていた。
「お母さん、どうですか?僕のスピードは!!速いでしょ?と思います」
「アトラちゃん!!あまり飛ばさないでおくれよ。カインたちがついて来れなくなるから」
親父が言う。
「この航海もアイツらにとっては実習だ。少し無理をさせるくらいのスピードにしてやってくれ。まだカインもメアリーも1時間位しかスクリューを回せないからな。楽しい旅行気分にはさせんぞ」
「でも頑張って、ついて来ているぞ。根性は認めてやれよ」
最後の方はバテバテだったが、通常の商船の半分の日数で、何とかサハール王国のバクールに着いた。カインとメアリーが言う。
「海を舐めてました・・・」
「大したことはないわ・・・少し疲れたけど」
「二人ともよく頑張った。美味しい店を予約しているから、しっかり食べろ。各地の美味しい物を食べるのも楽しみの一つだからな」
「「やったあ!!」」
こういうところは、まだまだ子供だと思う。
食事会が始まる前に仕事を終わらせる。俺はミケと冒険者ギルドに向かった。
すぐにギルマスが応対してくれた。
「かなり早かったな。みんな驚いてるよ」
「そっちは変わりないかい?」
「今のところはな。だが、革新派が新しい商売を大々的に始めるらしくて、人員を募集していたぞ。ゾロタス聖神国の特産品を使って何かするようだが・・・」
多分、原料が確保できると思って動き出したんだな。だが、しばらくコーカの実は入ってこない。その人員募集は工場でも作ろうとしているんだろう。
「悪い事じゃなきゃいいがな」
「まあ、こっちも商売上、情報は集めるようにしているからな。変な話が出たら対策に追われるしな」
そんな話をした後に集合場所のレストランに向かった。食事をしながら情報交換をする。セガスの話では、まだキシサ草は商会の倉庫に眠ったままだという。推測だが、コーカの実が届いてからだろうな。
「情報ですが、麻薬製造の技術者が宣教師として、何名か派遣されているようです。表向きには古代遺跡の発掘調査ということですが・・・」
「どこかで聞いた話だな。エルドラ島もそんなことを言って、麻薬工場にしていた過去があるからな」
「そうですね。場所さえ分かれば、工場建設工事を遅延させることくらいは、容易にできますからね」
宴会は夜遅くまで続いた。カインもメアリーも他の船員と打ち解けているようだった。みんな楽しそうだったが、セガスとアデーレだけは、忙しそうにしていた。
★★★
バクールを出た俺たちは、とうとう故郷のスパイシアまで帰ってきた。女王陛下にも手紙が届いているから、姉貴たちも親父たちが生きていることは知っている。いつも通り、ハープに先触れを頼んだ。
「凄い人がいっぱいだよ~」
それはそうだ。死んだと思っていた英雄の帰還だからな。
「デイジーはクリスタ連邦国旗、カーミラはドレイク領旗で頼む。アトラもいつも通りやってくれ!!」
お袋が言う。
「一体何をしようってんだい?」
「見てたら分かるよ。結構ウケはいいんだぜ」
いつも通り、アトラが「七色の勇者砲」で虹を作り、デイジーとカーミラがクリスタ連邦国旗とドレイク領旗をドラゴンに乗って振り回すパフォーマンスをした。
「こりゃ驚いた!!これならサーカス団としてもやっていけるね」
「なる気はないけどな」
親父たちのウケもいいようだ。
船を降りるとすぐに姉貴が走って来て、親父とお袋に抱き着いた。
「お父さん・・・お母さん・・・本当によかった・・・」
姉貴は泣いている。こんな姉貴は見たことない。
パウロが言うには、姉貴は姉貴なりに領主となってから強い女を演じて来たそうだ。誰にも相談できず、弱さも見せられなかった。そんな悩みを聞いたことがきっかけで、パウロとくっ付いたようだが・・・
姉貴も俺には相談してくれればよかったのに・・・でも、当時8歳の俺にそんなことは言えないしな。
「スターシア、よく頑張ってくれた。誇りに思う」
「本当だよ。甘ったれのネルソンには苦労しただろう?」
「俺のことはいいんだよ。それよりカインとメアリーを紹介してやれよ」
カインとメアリーも姉貴と挨拶を交わす。
「スターシアよ。カインはお父さんにそっくりね。メアリーはネルソンによく似ているわね」
「よく言われます」
「変態兄貴と一緒にしないでほしいです」
変態兄貴って・・・・
そんなとき、声が響いた。
「感動の再会のときに悪いが、妾は早く酒が飲みたいのじゃ。魔王国の火酒と砂漠の火酒の味比べがしたい」
「あれ?なんで女王陛下がここに?」
「妾だけではないぞ。いっぱい居るだろうが」
女王陛下の後ろには、ボンジョール王国の第三王子夫妻とマリー王女、サンタロゴス島のポコ総督、海洋国アルジェット女王マメラ、虎王国の女王夫妻とタイガ王子、餓狼族の族長とガル君までいる。
「ハープには言ったぞ」
「おい、ハープ。どういうことだ?」
「凄い人がいっぱいって言ったよ~」
そういう意味だったのか・・・聞かなかった俺が悪いってことか。
「難しい話は明日じゃ!!とりあえず飲むぞ!!各国から名酒を持って来てもらっておるからな」
ということで、詳しい事情も説明してもらえず、宴会はスタートしてしまった。
いつも通り、大盛り上がりだ。ドラゴンに群がっているコボルト達も居れば、力比べをしている獣人とリザードマンもいる。ドワーフたちは各国の酒を並べて品評会のようなことをしていた。
そんな中、修羅場を迎えている男たちがいた。長官とセガスだ。
長官はセガスに土下座している。
「クーズマ!!私に何か言うことはないのですか?」
「申し訳ありません、師匠!!」
「その気持ちがあれば、もっと早くに謝罪に来るとかできたはずでは?間違っても、「不意打ちを仕掛けて殺す」とかは言わないはずですがね?」
「いえ・・・そこまでは・・・」
二人の仲裁に入る。
セガスは長官を可愛がっていたそうだ。出来の悪い子ほど何とかというやつだ。でも根性のない長官は逃げ出し、逃げ足の速さと口の上手さを女王陛下に買われて、今に至っているようだった。
「まあ、貴方も頑張っているようですから、これくらいで勘弁してあげましょう。但し、次はありませんよ」
「は、はい・・・・」
何とか解決したようだ。
そして夜は深まっていく。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




